中3・夏 『着メロ』
舞衣「でね、ちょうどその時に野中くんがね、『先週貸したシャーペンそろそろ返して欲しいんだけど……』って、すっごく申し訳無さそうに言ってきてね、それで私が『そんなの借りた覚えないんだけど』って意地悪で言ってね、それでそれでね……」
携帯『生きて~る、生きている~♪』
舞衣「あ、ごめん。電話だ。出ていい?」
結奈「うん、いいよ」
舞衣「はいはい、もしもし? 何、お姉ちゃん?」
結奈「……」
舞衣「はいはい。了解。じゃあ、切るね」
結奈「ねえ、まいちん。ちょっといい?」
舞衣「ん、どうしたの?」
結奈「もうちょっとこうさ、うまく言えないんだけど……趣味嗜好にこう一貫性を持ってほしいと言うか。女子中学生らしいというか、そんな感じの。少なくともさ、着メロをザ・ノンフィクションのテーマ曲にしてる女子中学生はいないと思うよ」
舞衣「いいじゃん、好きなんだし。それに家族以外とは基本LINE電話だもん」
結奈「LINEのアイコンは去年から未設定のままだし」
舞衣「ピ、ピンとくるやつがないから設定してないだけよ」
結奈「その割に私服はリズリサのカジュアルロリータコーデだし」
舞衣「それは別に関係ないでしょ! それにあんただって作業着みたいなダサい服着てくるじゃない!」
結奈「え?」
舞衣「え?」
結奈「えっと……。ワークマンのことを言ってる?」
舞衣「いや、明日の数学の範囲ってどこだっけって話じゃないっけ?」
結奈「恥かくのが嫌だからって話逸らさないでよ」
舞衣「そういうのじゃないから」
結奈「どう違うの?」
舞衣「ええと、そう。これはギャグよ。わかってないわね。渾身のボケを本気にしてんじゃないわよ」
結奈「わー、そうなんだー。まいちん、ギャグセンス高~い。類稀なるコメディ力~」
舞衣「いいわよ、もう。どうせ、私は流行遅れで趣味の悪い、単なる美少女女子中学生よ」
結奈「すねないでよ。私はそんなまいちんが大好きだよ」
舞衣「もう遅い」
結奈「好きだって。好き好き大好き超愛してるよ」
舞衣「本気で言ってるわけ?」
結奈「本気だよ。何ならまいちんの良いところをたくさん言えるよ」
舞衣「例えば?」
結奈「ギャグセンが高いところとか」
舞衣「それはもういいでしょ!!」