一難去ってまた一難
「智明の内定にかんぱーい!」
「うぉー!ありがとー!」
カチンと缶ビールをぶつけあって、俺の内定決定祝いの飲み会は始まった。
俺、鈴木 智明は四年の十月になってやっと就職先が決まった。大学のほかの連中はとっくに内定もらってバイト三昧だったり旅行に行きまくっていたりしていたからめちゃくちゃ焦ってたし悩みまくったけど、俺もやっと就活から解放されたぜー!やったー!
そんな俺の内定をサシで祝ってくれてる目の前のこいつは、佐藤 涼真。四年になると同時にすぐ内定が決まった、世渡り上手のイケメン野郎だ。
俺みたいな平凡人間とは無縁そうなもんだけど、授業が一緒でよくしゃべるようになって、今じゃ一番仲良いダチなんだから不思議なもんだ。
「ほんっとに良かったよなあ!やりたがってた事務系の仕事だろー?」
「そうなんだよお。おまえは営業だよな? てか、あれ、おまえ四月から一人暮らしするんだっけ?」
「そうだよ。っつっても実家とたいして離れてないけどな」
わいのわいのとしゃべりながら飲んでたら、いつのまにか日付が変わってた。
途端に眠たくなってきたけど、ローテーブルの上はスナック菓子の袋とか空き缶でぐっちゃぐちゃ。俺はごろんと仰向けに寝転がった。
「やべーこのまま寝そー」
「明日俺予定ないからウチ泊まってってもいーぞー」
涼真も横になった、のは別にいいけど、なんかやたら近い。なんだよこれ。
「おまえちけぇよ、もっとそっち寄れよ」
「わざと近づいてんだから離れるわけないだろ」
「はぁ?何言ってんだ?」
「おまえが就活終わるまでは、って思って言うの我慢してたんだけど。俺、おまえのことめっちゃ好きなんだよね」
「へー……って、ハァ?!」
「これからガンガンにアピールしてくんでよろしく。おまえが俺に落ちたら、四月から同棲しような」
(な、な、なんだよそれ!!)
やっと就活の悩みから解放されたのに新たな悩みができてしまった。だというのに、悩みの原因の男はニコニコ笑ってるもんだからすっげえムカつく!
「ぜっってえおまえには落ちてやんねえよ!」
ガバッと起き上がって、涼真を指差す。
「どうかなあ、俺の愛の深さ知ったら落ちてくれるんじゃねえかと思ってんだけど」
「あ、愛の深さ…?」
聞くのが怖い。半年後の俺、マジで頼むからちゃんと女の子と付き合っててくれよー!