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6.先輩風

「見えてるん…ですか…?」


男性は俺より年上のように見える。若干頭髪が淋しい、細身の男性だった。


「あぁ。」


「ミズキさーん、いらっしゃいますかー?」


「呼ばれてるんで、すいません…。」


話を聞きたかったけど、診断書をもらうのも大事なことだ。後ろ髪ひかれる思いで診察室に入る。診察室の中でミズキは飛び回っていたが、先生や看護士たちにはやはり見えていない、と思う。先生は俺の方を見ずに聞いてくる。


「で、熱下がったの?」


「診断書もらいに来ました。会社に出せって言われたんで。」


「あぁ、そう。書くけど、有料だからね。あと、今日までは一応休んでね。」


「あ、今日いけないんですね。」


「本当は解熱から2日だから明日もダメだけどね。マスクしてればまぁ…。じゃ、お大事に。」


先生はカルテを書きながら目も合わさず言った。ひたすら待ってこれで終わりだもんな。病院って時間食いだよなぁ。微妙な顔をしていると、ミズキは肩に乗って


「□○※☆◇?」


多分用事終わった?みたいなことを言ったようだった。うっすら頷いて診察室を後にすると、先ほどの男性が手招いていた。俺のことを待っていたようだ。


「さっきの話の続きだ。」


男性が話はじめた。聞きたいことは俺も山ほどあるんだけど、ただ頷くことしかできなかった。


「あぁ、失礼。僕はニチカ。ニチカノブハルだ。」


「ミズキって言います。」


「苗字?名前?」


「…苗字ですよ。」


「ふぅん。顔に似合わず可愛い名前だなと思ったんだが。」


舐め回すような視線をむけるニチカと名乗る男性。なんだかちょっと嫌な感じがする。


「………。」


「下の名前…」


「ミズキさーん」


「会計呼ばれたんで、ちょっと待っててもらえますか?」


いいタイミングで、会計に呼ばれて助かった。下の名前はできれば名乗りたくない。話を変えることができたことにほっとしながら、支払いを済ませる。そして、診断書は高かった。ため息をついてるとミズキが側に飛んで来てニコっと微笑む。少し癒された。あのニチカという男性と話せば、ミズキのことがもっと詳しく分かるかもしれない。我慢してでも話す価値はある。そう思い直して彼のもとへ戻った。


「お待たせしました。彼女たちのこと…詳しいんですよね…?」


話を名前に持っていかれないように自分の聞きたい、彼の話したい話を振った。


「会計も終わったことだし、場所を変えよう。」


「会社に電話しておかないといけないので。…あとで行きます。」


ニチカは俺を一瞥すると、


「じゃあ、ここから近いファミレスでどうだろう?」


「はい…じゃあ。」


「待ってるからな。」


おっさんに言われても嬉しくない台詞を背に一旦ニチカと別れた。会社に電話をして、明日から出勤する旨を伝えると、


「はい、よろしく。」


それで電話は終わった。俺も休んでるし、忙しいんだろうな。繁忙期じゃなくて本当よかったと思いながら、心内で謝罪した。



ニチカの待つファミレスへ向かい、店内でニチカを探す。また影が見えた。さっきの病院でも見えたし、もしかしたらニチカの連れている妖精かもしれない。席に座ってニチカと同じようにコーヒーを頼んだ。店員さんがいなくなると、ニチカが切り出した。


「で、ミズキ君はいつこちら側へ?」


値踏みするような視線。やはりこの人、苦手だ。


「昨日からです。」


「すぐ通販とかで彼女の服を買うこともできただろう?なぜそのままなんだ!」


「寝込んでたもので。それに…」


「言い訳するんじゃない!彼女たちのような美しいものは着飾る義務があるんだ!」


怒られた。変な義務な気がするが、どうやら服を買っても怒らないみたいだ。それなら安心してミズキに服を買ってやれる。ニチカは非常にめんどくさい人のようだが、まだまだ聞きたいことがあるので我慢しながら話をする。


「服は…ネットでどう検索すれば?妖精用とか?」


「ミズキ君、本当素人だな。彼女たちの存在は我々のような見える人間たちの秘密だ。大っぴらに売ってはいない。ドール用のものがちょうどいいんだ。探してみるといい。」


見える人間たちの秘密なのか。


「見える人って…」


「心あたりはあるだろう?わかっていてもみなまでいう必要はない。」


ニチカは口を開こうとした俺を止めた。確かにこの歳まで童貞だなんて声高に宣言すべき事柄ではない。


「我々のように見えるもの、特殊な能力に目覚めるもの、そのどちらにもなれないものもいるからな…。僕もたくさんの仲間を見てきた。」


ニチカは目を瞑りながら続けた。


「え…見える人と能力に目覚める者っていうのは別者なんですか…?」


俺の認識と違うようなので素直に聞き返してしまった。


「彼女たちが近くについている人間に声を掛けたが見えない者もいたし、見えている者にそういったものはいなかった。きっと我々のように仲間以外には能力を明かさないに違いない…。」


それっぽく言ってるけど、魔法使いのくだりは憶測に過ぎない。でも、妖精がくっついていても、見えていない人もいるし、ニチカは見えても魔法は使えないということがわかった。俺は特殊なのか?でもあの魔法が使えたところで現代日本では特に使い所はないから言わなかっただけっていうこともありうる。運ばれてきたコーヒーに口をつけた。病みあがりのせいか美味しくない。


「その…ニチカさん以外の見える方々と連絡って取れたりします?」


ニチカの情報を鵜呑みにするのは危ない気がして、他の人の話を聞いてみようとするも、ニチカは首を横に振った。


「音信不通のものや、力を放棄したものもいるが…何人かは狩られたのは確かだ。」


「狩り…?」


力を放棄するっていうのはなんらかの方法で童貞を卒業したってことだろう。しかし、狩りとはなんだ?純粋に気になってオウム返ししてしまう。


「面白半分なのか、我々のようなものを狙って食い物にする奴らがいるんだ。美女に『私があなたを救ってあげる』と言われたら要注意だぞ、ミズキ君。その方法で何人もの仲間が彼女たちが見えなくなっていったんだ…。」


そういってニチカは項垂れた。その話、羨ましい気がするのだが…。いや、でもそうするとミズキも見えなくなるのか。うーん…。それはだいぶ迷う。肩に座っているミズキを見て考え込むとミズキは


「○※∈?」


と聞いてくる。多分どうかしたの?具合でも悪いの?みたいなことのようだ。


「なんでもないよ。大丈夫。」


そう答えていると、視線を感じた。ニチカからだった。


「言葉がわかるのか?」


「いいえ。雰囲気でなんとなくです。」


「そうか…。」


なぜか不思議そうな顔でニチカは言った。


「そういえば…ニチカさんについてる子はどこにいるんです…?」


さっきから姿が見えないので、聞いてみると先ほどまで自信に満ちた喋りだったニチカの様子がおかしくなっていく。


「実は…その…。」


「その…?」


「僕には彼女たちがついていないようなんだ…。」


「は…?」


偉そうに色々言ってたのに?!

読んでくださってありがとうございます!

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