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4.肉食女子

ミズキ!心の中で絶叫して、急いでかけよると、


「お、落としましたよ…?」


女性は明らかに恐怖の色を浮かべながら言う。俺はかなり切羽詰まった顔をしてしまったらしい。


「ご、ごめんなさい…ありがとうございます…」


怖がらせた謝罪と手袋を拾ってくれたお礼を言って足早に立ち去る。今のやりとり、ミズキが見えているかいないかを確かめる絶好のチャンスだったのに、俺が不審な動きをしてしまったために女性が俺に怖がっているのか、ミズキを見て引いたのかがわからなくなってしまった。失敗したな…ひとり反省する。ミズキにも


「ごめん。」


そう言って指で頭をそっと撫でる。


「☆♨︎」


なんとなく、今のはいいよって言ってくれた気がする。顔をあげるとコンビニの明るい光。危うく通りすぎるとこだった。ミズキに気をとられてうっかりしすぎていた。


入店してカゴを持ち、マスクを入れているとミズキがもぞもぞと顔を出す。ミズキが何を食べるのかわからないからどっちにしろ出てきてもらうつもりだったからいい。見えてても人形だと思われるだろうから問題はない。ただ、俺が人形を持ち歩いてる気持ち悪い男として見られるだけだ。…問題…ない…。


本のコーナーをざっと見ているとミズキが何か言っているので、見てみると、本を指差している。


「本が欲しいのか…?」


本をそっと指差して聞くと頷いている。ミズキが指差しているのは18禁コーナーなので、そぅっとそのコーナーから目をそらして、前列に並んでいる子ども用の本を手に取ると、ミズキはそれじゃないというような顔をしている。30歳を迎えた俺なら18禁の本くらい…買うのは訳ないが…コンビニで買うのは…店員さんによる。それにミズキに買い与えるのは躊躇われる。人ではないとはいえ、女の子だし。文字が読めないからきっと肌色の多い写真や絵の方が目に入るんだろうと思い、適当に写真の多そうな雑誌をカゴに入れた。


「どれ?」


食品コーナーに移動して、棚に並ぶ食品を指差し、小声で聞いてもミズキは首を傾げるばかりだった。妖精は食べ物食べないんだろうか?女の子は野菜を食べる印象があるので、野菜スティックを一応カゴに入れる。あとは自分の食べ物を適当にカゴに入れていった。今食べる夕食と明日食べるパン。女の子が食べそうという理由でグラノーラヨーグルトとかいうのも買ってみた。念のためだ。


無事に会計を済ませて店外に出ようとすると、前髪の長い男性とすれ違う。男性の肩にはフィギュアが乗っていた。思わず二度見するが、他の人は気にとめていない。どっちだろう…?みんな見ないふりをしているのか、俺にだけ見えるのか。声をかけたいが、もう買い物を済ませてしまったので、店内にとどまるのは不自然だし、これで前者だった場合、いたたまれない。後ろ髪引かれる思いで俺はコンビニを後にした。


「結局どっちだかわからなかったなぁ。」


「○※∈?」


「…なんでもない。」


お互い言葉がわからないながら、なんとなく会話が成立してしまっている。とりあえず、家に帰るまで少し黙っていよう。これ以上不審がられないためにも。ポケットに手を突っ込むとミズキが手に抱きついてきた。あったかい。なんか、幸せだった。恋人同士で手を握って歩くってこんな感じかな。そう思った。


家に帰ってきて、温めてある弁当を開けるとミズキが弁当を覗きこでいた。弁当は焼肉弁当だ。病みあがりだけど無性に肉が食べたかったからこのチョイスになった。


「お腹減ってる?」


お腹を抑えて聞くと、ミズキは首を傾げている。腹が減っている俺はとにかく弁当を食べることにした。せっかく買ったので野菜スティックも食べる。味噌をつけてミズキに渡してはみるが、ミズキはひと齧りして顔を顰めている。ダメらしい。


「やっぱり妖精って食べ物食べないのかな?」


そう言って俺はミズキの囓った野菜スティックを食べるが、美味しくなかった。普段あまり野菜なんか食べてないから味覚も壊れてきたのかもしれないと思いながら野菜を咀嚼して片付けた。美味しくないものを先にして、弁当に手をつけ始める。


「はふっ。肉が美味い。」


食べ進めているとミズキが羨ましそうに見ていた。


「やっぱりお腹減ってるんだ。待って。」


箸で肉を小さく切って口元に持って行ってやるとミズキは箸に齧りつくように肉を食べた。


「○※。♩♡☆。」


「肉がいいのか。」


肉を指差していうと、


「ニク。♩♡☆。」


多分肉美味しいって言ってる。ミズキは肉が好きだという事がわかったが、もう一つ大事なことを聞かなきゃいけない。もう一切れ肉を切りながら俺はミズキに聞いた。


「ミズキはいつまでここにいるんだ?」


「イツマデ?」


「家に帰らなくて大丈夫?」


「イエ?」


ジェスチャーも思いつかないので、困っているとミズキは俺に笑いかけながらいった。


「イッショ♡」


なんだかずっと一緒にいると言われた気がした。思わず箸を持つ手が止まる。固まった俺の手に寄り添うようにするミズキ。俺は一瞬で、この小さい妖精に心を奪われた。何年ぶりだろう?こんな気持ちになったのは。この瞬間が来るまで、自分にはもう関係のない感情だと思っていた。


「ミズキ、ニク!」


「今切るよ。ほら、どうぞ。」


俺の心内など、どこ吹く風な様子で肉を要求するミズキ。苦笑しながら肉をミズキに食べさせる。ミズキがいうように、俺が彼女と同じ妖精になっていたとしたら、この想いは報われるかもしれない。彼女だって俺に悪感情は抱いていないはずだ。そのためにもミズキのことをもっとわかるようにしなければ。俺はそう思いながらミズキを見つめた。


弁当を食べ終え、


「ごちそうさまでした!」


「ゴチソサマデタ!」


勢いよく言ったが、若干違うので、俺はぷっと笑う。ミズキは


「☆〜。○※▼∫%?」


頬を膨らませている。


「ごめん、ごめん。ごちそうさま、でした、だよ。」


「ゴチソウサマ、デシタ。」


「よくできました。」


「ヨクデシマシタ。」


ミズキと顔を見合わせて笑った。


「さて、風呂でも入って来るか。」


俺は立ち上がると、ミズキも飛んでついて来る。


「イッショ。」


「え…。ちょっと…それは…無理だよ?」



読んで下さってありがとうございます。

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