14.二面性
翌朝。ミズキを手袋に入れて出勤しようとするが、カズキも一緒に行くようなので少し困っていた。ミズキだけ暖かい格好なのはどうなのか。そう思い、カズキに提案する。
「カズキはここに来る?嫌じゃなければだけど。」
首元を指差した。ポケットにそのまま入っても暖かくはないが、首元なら俺の体温もあり、暖かいと思ったのだ。カズキは嬉しそうに頷いて首元に収まる。その様子をミズキは羨ましそうに見ていた。
「じゃあ明日はミズキがこっちかな。もうすぐカズキの洋服も来るしね。まだカズキ薄着だからさ。」
そうミズキに向かっていうと、カズキが通訳してくれている。
「アシタ。ゼッタイ。」
昨日の言葉の練習のおかげか少し喋れる言葉が増えたミズキ。繰り返しだけじゃない言葉を喋っていた。
「うん、明日ね。約束。」
「ウン、ヤクソク。」
するとカズキがちょっと不満そうに見ているので、
「カズキがいる時は交代でここに入るようにする?ミズキと話し合って決めてくれる?」
そう言うと満足そうに頷いていたが、カズキがミズキに通訳すると2人で軽い言い争いが始まった。仲いいんじゃなかったのか?昨日はあんなに仲良さげだったのに。2人の言い争う声に頭を抱えながら俺は会社に出勤していった。
とりあえず、仕事は平和に終わった。特にトラブルもなし。変わったことといえばインフルエンザが治ってから身体が軽いくらいだろうか。疲れが残らない。人間やめたからかな。そう漠然と考えながら、ニチカとの待ち合わせに向かった。
「ミズキ君!!」
ニチカがブンブンと手を振っている。明らかにはしゃいでいる。恋人でも来たようなテンションに困ってしまう。軽く会釈をしてニチカに近寄る。
「この先でモモタ……救ってあげる女に会ったんです。だからって今日もいるとは限らないんですけど、一応探します。」
高いテンションはスルーして、今日の要件を伝えた。ニチカに見つかるとマズイはずのカズキは上着に潜って隠れている。ミズキは定位置のポケットだ。歩きながら、ニチカと話を続ける。
「その……モモタという女はどんな容姿なんだ?」
「なんていうか、大和撫子の見本のような感じです。黒髪で楚々とした印象な女の人でしたよ。」
「………ミズキ君のイメージだけ聞くと悪い人間に思えないな……。」
こないだの「女というものが分かってない」発言とは裏腹なことを言い出す。ニチカはそういう女性が好みなのかもしれない。
先日モモタと出会った場所あたりをうろついていると、モモタはいた。俺には気がついていないようだったが、誰かを待っているかのように見える。俺を探しているんだろうか。声をかけようとすると、ニチカは俺を止めた。
「ミズキ君が彼女に声をかけるのは得策ではないだろう。君は僕を忘れてしまうかもしれないし。ここは僕が彼女に声をかけるよ。」
確かに最もなことなのだが、ニチカの顔は赤く、オドオドとしていた。なぜそうなる?まさかモモタに一目惚れした?声をかける理由もあるし、このままお近づきになってお友達から始めさせてくださいとかいうつもりなんだろうか…。もうニチカは頼れないなと心の中で思いミズキに目配せした。
「じゃあ俺はその辺にいますから、ニチカさんお願いします。」
止めたところで、反論されるしだろうし、ニチカが声をかける方が話はスムーズな気がしてお願いすることにした。俺は遠目からながめることにする。モモタは怪訝な顔をして対応している。しばらくするとモモタの怪訝な顔は解れてキョロキョロとしだし、俺と目が合った。……マズイ気がする。
モモタは俺の方に向かって走り寄ってくる。ニチカもモモタを追って走ってくる。
「待って、アキラさん!!」
「何、馴れ馴れしくアキラ扱いしてくれているんですか?キモい!!」
「な…………。」
ニチカが固まってしまった。やはり女性というものは一筋縄には行かないみたいだ。目の前にいるモモタに向かって俺は
「確かに初対面でいきなり下の名前を呼ぶのはどうかと思うけど、初対面の人間をキモい扱いするのもどうかと…。」
思わず俺は正論を吐いてしまった。
「初対面ではないのです。」
モモタはキリッとした顔をした後に気まずい顔をする。ニチカは先ほどの「キモい」のショックから立ち直れないままでいた。
「ニチカさんとお知り合いということですよね?それでもキモい扱いはどうかと…。」
「わ、私はあなたを救うために来たのです。ここに来たということは私に救いを求めに来たんですよね?ね?」
明らかに話題を変えようとするモモタに、俺は素直な疑問を呈する。
「ニチカさんも彼女たちが見えますよ。ニチカさんにも救いは必要なのではないんですかね?」
「囮に救いなど必要な…はっ!!」
「囮?囮って何ですか?」
「コトリの言い間違えです!」
なんだか随分苦しい言い訳をしているモモタの横から復帰してきたニチカが
「僕が小鳥の様な可愛らしさだと?可愛らしいが、救いは必要だよ。アキラさん、僕を救ってください!」
縋りつくニチカをモモタがひっぺがそうとする。
「お前には救いは必要ねーんだよ!」
ニチカの扱いとモモタの口調に顔を引きつらせながら、俺はなんとか聞きたいことを聞こうと口を開く。
「俺についている子は俺のことを食べないって言ってるんです。それでも俺に救いは必要ですか?」
「そんなことを鵜呑みにするんですか?彼女たちは鬼ですよ?信じてはいけません!」
「俺には優しいですし、よく言うことを聞いてくれますし。全然鬼では…」
「そういう意味ではありません。彼女たちは人食い鬼です!私はそれを退治することを生業としている、桃太朗なのです。このままではあなたは確実に食われます!」
ミズキをみて目を瞬かせる。ミズキとカズキは鬼ってことは…俺も鬼なの…?
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