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○○のくせに生意気ですか?

お疲れ様です。

ヘルプデスクです。


午後からのお仕事もがんばれるように、笑いをお届けできればと思います。

ただし、今回は少し長めになっておりますのでご了承ください。


※2016/02/14:タイトル修正


――プルルルル……


 今日もヘルプデスクに電話が鳴り響きます。


 可能ならばワンコールでとるというのが、ヘルプデスクの教えです。


 夢子は手が空いていたので、素早く受話器をあげました。


「はい。ヘルプデスクです」


〈……ん? なーんだぁ、きさまは〜。初めて聞く声だな。名を名乗らんか!〉


 初っ端から居丈高な低い声が、夢子の耳をつんざきます。


「……ふっ。人に名を訊ねる時は、己から名のるのが礼儀でしょう!」


 その横柄な態度に、夢子も対抗することにしたようです。


〈なんだとぉ〜。ヘルプデスクのくせに生意気な! ……まあ、いい。名のってやろう。わしは――〉


――ガシャン!


 電話は、夢子の手によって切られました。


「…………」


 前の席にいた悠も唖然としてしまいます。


「…………花氏さん」


 表情はいつも通りながら、皆藤は不安げな声をかけました。


「今の電話は……」


「単なる、まちがい電話のようです」


「単なるまちがい電話に、先に名を名乗れと説教したんですか?」


――プルルルル……


 また、ヘルプデスクに電話が鳴り響きます。


「はい。ヘルプデスクです」


〈きるなあぁぁぁぁ! しかも、いいところで! きさま、わしを誰だと――〉


――ガシャン!


「花氏さん?」


「いえ。どうやら、頭がかわいそうな人のようです」


――プルルルル……


「はい。ヘルプ――」


〈――だから、きる――}


――ガシャン!


「……花氏さん。そろそろ理由を簡潔に述べてください」


「…………『ヘルプデスクのくせに生意気だ』と言われました」


「ああ……。相手がわかりました。我々に必要なのは、海のように広大な許す心です」


「……まあ、ご命令とあらば」


――プルルルル……


「はい。ヘルプデスクです」


〈き、きるな! きるなよ……。いいか、落ち着いて聞けよ。わしらに今、必要なことは、ゆっくりと話し合うこと……だと思わんか?〉


「……それで、ご質問はなんでしょうか?」


 不承不承ながら、夢子は話を聞くことにしたようです。


 夢子は、胸のように許す心も小さいのです。


〈う、うむ。わしは、法務部の【旭津大宮(あさひつのおおみや) 隆元安蔵(りゅうげんやすくら)】というものだが……〉


「はい。法務部のあさ……Aさん(仮名)ですね」


〈あきらめるの早いわ! ってか、(仮名)ってなんじゃ! 少しも努力しようとしていないだろう、きさま!〉


「ご用件がなければ、これで……」


〈待て! 用件あるわい! もう少しゆとりを持て! ……き、聞きたいことは、ワープロソフトのことだ〉


「はい。どのようなことでしょうか?」


〈うむ。今まであまり使う機会がなかったので我慢していたのだが、最近になってよく使うようになってきたら、我慢できなくなったことがあってな〉


「はあ……」


〈今、書類を作っておるだが、このプログラム、たかがワープロソフトのくせに生意気だ! そう思わんか!〉


「生意気……ですか? それは思わず、放課後に校舎裏へ呼び出したくなるような生意気さですか?」


〈……どんな感じだ、それは?〉


「では、上履きに画びょうを入れたり、机に『死ね』とか掘ったり、個室トイレに入っている奴に上から水をかけて『汚いから流してやったんだよ!』と言いたくなったりする感じですか?」


〈わしは、女子高生か!〉


「まあ、すべて私が中学生のころにやられたことですけどね」


〈……えっ!? あっ……な、なんか……悪いことを……〉


「冗談です」


〈ブルーになるような冗談はやめろ!〉


「もう。早く要件を言ってくださいよ、Aさん(仮名)」


〈Aさん(仮名)じゃないわ! だいたい、おまえがそらしたんだろうが! ……と、ともかく、ワープロソフトがわしの意思に反して動くのが気に入らん! なんとかせんか!〉


「やさしく言い聞かせれば、きっと心を開いて……」


〈きさま、バカにしとるだろう!〉


「ふふ。それほどでもありませんよ」


〈なんで偉そうなんだ! ……くっ。もうお前では話にならん! 皆籐をだせ!〉


「その前に要件を教えてください。……あなたが皆籐部長と戦う資格があるか、この私が見極めてあげましょう」


〈お前は、どこのゲートキーパーだ! …………まあ、いい。たとえばだな、箇条書きで中点を頭に打って改行すると、次の行にも勝手に中点をだしたり、マージンを勝手に設定したりするだろう。あれだ。他にも、わしは英語を全部小文字で書きたいのに、先頭文字を勝手に大文字にしたり……そういうわがままが許せんのだ〉


「ああ。自動整形やオートコレクトの機能ですね」


〈それだ! その整形したオトコセレクトとかいう機能だ!〉


 思わず夢子は頭の中で、横一列に裸で並んでいる美形な男たちから、ひとりを選んでいるオジサンの姿が浮かびます。


 もちろん、フルチンでございます。


「いや、その機能はどうかと……」


〈ん? オトココネクトだったか?〉


 横一列だった裸体の男たちが、今度は縦列になって密着ドッキングしました。


 選んでたオジサンは、我慢できなくなったのか最後尾にドッキングです。


 みんな、いい顔をしています。


〈とにかく勝手やらんでほしいのだ〉


「そ、それは確かにやらないでほしいですね。気持ち悪いです」


〈そうだろう! どうすればいいのだ?〉


「ゴホン……。それはですね、オプションで機能を使わないようにすれば良いので……」


〈そうしたら、その機能が使えなくなるだろうか! 使いたい時もあるんだ!〉


「その時は、またオンにしていただければ……」


〈面倒じゃないか! わしがやって欲しい時だけやってくれればいいんだ! 生意気に勝手なことせんようにな!〉


「(……わがままじじい……)」


〈なんかほざいたか!?〉


「『すてきなおじさま』と言いました」


〈うそこけ!〉


「[CTRL]+[Z]です」


〈……はん?〉


 突然の夢子の言葉に、相手は戸惑います。


「やって欲しい時にだけやるのは難しいですが、やって欲しくない時に元に戻すのは簡単で、ソフトが生意気なことをした直後なら、[CTRL]キーを押しながら、[Z]キーを押すと『元に戻す』という機能で、ソフトが生意気なところを深く反省して引っ込めます」


「なんだと? ……………………おお! 本当だ! 変更されたフォーマットが元に戻されたぞ」


「まあ、反省しているくせに、同じ過ちを何度も繰り返しますがね。……その機能で手打ちしていただけないでしょうか?」


「ふーむ。……まあ、よかろう。お主、生意気だが、なかなかやるではないか。名前を聞いておこうか」


「ふふ。名のるほどのもではありませんよ。では!」


「おい! ちょっ――」


――ガシャン!


 ひと仕事終えて、さわやかな顔で汗をぬぐいながら、夢子は大きなため息をつきます。


「……ふう。さびしい老人の話し相手は疲れますね」


「それはヘルプデスクの仕事ではありませんよ、花氏さん」


 ヘルプデスクの仕事は難しいと思う夢子でした。

■用語説明


●ワンコール

 問い合わせに対して待ち時間を減らすことで、顧客満足度を上げることができます。


●「海のように広大な許す心」

 接客業全般ですが、むかつく客にいちいちキレていてはいけません。


●ワープロソフト

 ワードプロセッサーソフトウェアのことです。

 文章を作成するためのソフトです。


●「冗談です」

 本当でしょうか?


●ゲートキーパー

 門番のことですが、物語に出てくる場合、多くは「捨て駒」です。


●オートコレクト

 「オトコセレクト」でも「オトココネクト」でもありません。

 例を挙げると、Microsoft Word 2010ならば、「ファイル」メニュー→「オプション」→「文章校正」→「オートコレクトのオプション」で指定できます。


●[CTRL]+[Z](コントロールゼット!)

 時間を巻き戻す、禁断の呪文です。

 気がつきにくいことですが、巻き戻るのは自分がやったことだけではなく、コンピューターがやったことも巻き戻る場合があります。

 人生にも[CTRL]+[Z]が欲しいです。


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