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メガネっ娘ってかわいいですか?

 新しい週が始まる月曜日。


 今日、ヘルプデスクにいるのは皆藤と夢子だけです。


「はい。ヘルプデスクです」


 そんな中、最初の電話を取ったのは夢子でした。


〈あ、お疲れ様です。アミューズメント施設開発本部の田口と申します〉


 久々に丁寧な問い合わせです。


 これならまともだろうと、夢子も安心します。


「お疲れ様です。それで田口さん、ご質問はなんでしょうか?」


〈はい。つかぬ事をお伺いしますが、メガネっ娘ってかわいいですよね?〉


「……本当に『つかぬ事』を訊いてきましたね……」


 ちなみに、「つかぬ事」は「前の話とは関係ないこと」「だしぬけなこと」を言います。


 一部で勘違いされていますが、「つまらないこと」というような意味はありません。


 本編には関係ありませんが、たまにこういう役に立つことも書いてみました。


〈とにかく聞いてくださいよ! 私はね、常々『メガネっ娘ってかわいい!』と考え、そして周囲にも布教していったんですよ。この世に生を受けてから40年間、男の人生のすべてをかけてね……フフフ〉


「いや。『フフフ』じゃなく、あなた生まれた時からメガネ萌えだったんですか?」


〈ああ! 母親の顔を見た瞬間に萌えたね! むしろ目覚めたね!〉


「――重症!!」


〈異世界にいた前世から、転生してもメガネっ娘好きって決めていました!〉


「さらに厨二病!」


 性癖というより、もう生まれ持った性質です。


〈いいですか、よーく聞いてください? ……世の中にいる81.14%の女性は、メガネをかけることで、かわいさをアップグレードできるんですよ。可憐になり、清楚になり、色気も出て魅力度アップ。人望なんてなくても、黒縁メガネをかけて、三つ編みにすれば『委員長』になれる! それなのにメガネをかけないなんて、これって社会的な大損失! 逆に全員がメガネをかけると、人類は次のステップへ! これぞ、人の革新!〉


 よく聞いたけど、よくわかりません。


 夢子もわからず、大きくため息です。


「……突っこみどころ満載ですが、とりあえず81.14%って数字はどこから?」


〈自分の周囲をザッと見た感じで!〉


「ふわっと調べているくせに、ずいぶん細かい数字ですね……」


(メガネ)114(いいよ)ってね!〉


「――ごろ合わせですか!」


〈も~う。細かいことはいいんですよ〉


「さすがに、おおざっぱ過ぎませんか!?」


〈とにかくメガネっ娘はかわいい! これが事実! あなたもメガネをかければわかりますよ!〉


「……私もメガネをかけていますが?」


 はい。キャラクター描写などしませんから忘れられがちですが、彼女はメガネをかけた貧乳キャラです。


〈おお。ならばあなたも、かわいいのではないですか?〉


「当然、すごくかわいいです。メガネがなくても、ぶち抜けてかわいいです」


 自信過剰な夢子ですが、確かに社内の人気ランキングでは上位にいます。


 主に社内派閥「無乳(ないちち)同盟」の票によるところが大きいのですが。


〈ああ! あなた、花氏夢子さんですね! なるほどなるほど。メガネっ娘ランキングでもなかなか上位にいらっしゃいますよ!〉


「どこのランキングですか、それ……」


〈しかしですね、あなたはメガネをかけたからこそ、そのかわいらしさを手に入れたのです。メガネとあなた、5:5フィフティーフィフティー……むしろ、6:5ぐらいの関係と言っても過言ではないでしょう!〉


「過言ですよ!」


〈言うなれば、メガネが本体!〉


「違う!」


「――花氏さん」


〈メガネはあなたの中に溶け込んで、いつしか一体化するのです!〉


「しない!」


「――花氏さん」


〈言い換えれば、メガネは呑み物!〉


「そのフレーズ、せめて食べ物に使え!」


「――花氏さん」


〈ねえ? そう考えると、メガネっ娘って素敵ですよね?〉


「そう考えたくなくなったわ!」


「――ナイチチ」


「だあぁぁれがあぁぁ、ナイチチですかあああぁぁぁ!!」


 夢子が受話器を離して怒鳴った先にいたのは、皆藤でした。


 彼はずっと夢子を呼んでいたのです。


「ああ。やっとふりむきましたね」


「部長! それセクハラですよ!」


「どうせナイものにセクハラなんてできませんよ。そんなことより、電話を替わります。そのままだと解決できないでしょう」


 セクハラを堂々と「そんなこと」呼ばわりして、皆藤は電話を指さします。


 対して、夢子が膨れます。


「解決も何も、田口さんは……」


「まあ、いいから。転送してください」


 不承不承ながら、夢子は皆藤に電話を転送し、モニター機能で聞き耳を立てます。


「お電話替わりました。ヘルプデスク部長の皆藤です」


〈おお、部長さんですか! あなたもメガネっ娘ってかわいいと思いますよね?〉


「ええ。もちろん、かわいいですね。最高です」


〈おお! でしょう、でしょう、でしょう! さすが部長ともなると違いますね!〉


「まあ、メガネっ娘は人類の宝ですからね」


〈さすが、部長さん! あなたとは、メガネっ娘について熱く語れそうだ〉


「ええ。ですが申し訳ございませんが、仕事中ですのでまたの機会に」


〈ああ、そうでしたね! ……それではありがとうございました〉


「はい。クローズさせていただきます。お疲れ様でした」


 なんと、皆藤が応対してから30秒程度で問題は解決してしまいました。


 神業的早さです。


 しかし、夢子は納得いきません。


「ちょっ! 今のはなんですか、部長!? それで解決なんですか!?」


「よく考えてください、花氏さん。田口さんの質問はなんでしたか?」


「質問なんてありませんでしたよ!」


「いえ。ありましたよ。彼はこう言いましたよね。『メガネっ娘ってかわいいですよね?』と」


「……それ質問なんですか?」


「質問でしょう。ですから、『はい。かわいいですね』という回答で解決です」


「……それ……単なる承認欲求……」


「そうとも言います」


「……闇、深けぇ……」


「こらこら。闇とか言わないように」


 月曜日からどっと疲れる夢子なのでした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■用語説明

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


●メガネっ娘

 「めがねっ子」「眼鏡っ娘」「めがねっこ」……どれが一番、かわいいでしょうかね?


●厨二病

 第3話参照。


●黒縁メガネをかけて、三つ編みにすれば『委員長』になれる

 この委員長のイメージっていつからできたのでしょうか?


●人の革新

 シャアもびっくり。

 彼もサングラスではなくメガネをかけていれば、アムロに勝てたでしょう。


無乳(ないちち)同盟

 どこからが「ない」なのか議論が分かれるところで、同盟内でも論争が激しく、たまに乳で乳を洗う戦争が起きているらしい。


●メガネは呑み物

 「とんかつは飲み物」というとんかつ屋の名前は本当に驚きました。無茶しすぎですね。


●どうせナイものにセクハラなんてできません

 こんなことを言うと、無乳(ないちち)同盟が黙っていません。


●メガネっ娘は人類の宝

 皆藤は別に心からそんなことは思っていないようです。


●彼はこう言いましたよね。『メガネっ娘ってかわいいですよね?』

 なぜこの会話を皆藤が知っていたかですが、実は会話はすぐさまテキスト化されてログとして保存されるというハイテクシステムです。

 皆藤は部長権限で自由に閲覧できます(いきなりここにきて、もっともらしい理由)。


●承認欲求

 ネットに書き込みする輩は、多かれ少なかれ必ず持っています。

 この欲求は、自信やプライドに直結しているという厄介さを持ちます。

 そして多くの人が、欲求不満です。


●闇

 欲求不満が生む闇。

 それを解決してくれるヘルプデスクはすばらしいですね!


●81.14(※追記)

 「この数字は『めがね、いいよ』以外に、『81((おっ)ぱい)14(重視)』とも読める」と、読者の「にぽっくめいきんぐ」氏から天才的な指摘がありました。

 考えてみれば、「((おっ)ぱい)114(いいよ)」とも読めるわけで、ここから導き出される答えは、「おっぱいにメガネをかけたら最強」ということになります。

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