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ビジネスチャンスですか?

「失礼します。皆藤さんに15時にお約束のお客様をお連れしました」


 受付の女性社員が、ヘルプデスクにお客さんを連れてきてくれます。


 普段はあまり容姿など描写しない本作ですが、あえて描写しますと、そのお客さんは丸いです。


 まだ20代半ばぐらいのようですが、とにかく顔も、体も丸いです。


「おお! 皆藤さん、ご無沙汰しています!」


 その丸い顔が明るくにこやかに挨拶すると、皆藤も立ち上がって嬉しそうに(表情は変わりませんが)挨拶します。


「玉置社長、お久しぶりです」


「え? タマおおきい社長? そ、そんなに?」


 夢子が突然、下ネタに走ります。


「こら、花氏さん。出会いがしらに下ネタは失礼ですよ。下ネタはちゃんと手順を踏んで。会社のFAQにも書いてあるでしょう?」


「え? …………『セクハラにならないための下ネタ会話作法』……本当にあった」


 これは世の男子の必読かもしれません。


「まったく。ヘルプデスクとしてFAQはちゃんと読んでおくように。……というか、だいたい、下ネタはあなたのキャラじゃないでしょう」


「ああ、すいません。これには、少し複雑な事情がありまして」


 ふと夢子が難しい顔を見せます。


「下ネタに走ることに複雑な事情があるとは思えませんが……聞きましょうか」


「ええ……。実は最近、主人公として弱い気がしまして。そこで下ネタ、特にBLとかTSとかショタ萌え系を取りいれようと努力していまして」


「それは性癖で、努力して取りいれるもんじゃありません」


 よく言えば、いわゆる才能です。


「でも、キャラ付けを付加すれば、活躍の場が広がるかな……と」


「下手なキャラブレは、失敗に終わることが多いですよ。だいたい、自称・主人公がキャラブレしてどうするんですか」


「……『自称』とつけられると、突然中二病っぽいですね」


 なんでもそうですね。


 ニュースなどで「自称・経営者」とかながれると、頭の中で「自称(なんちゃって)・経営者」とルビをついふってしまうものです。


「とにかくブレないでいいのです」


「そうでしょうか……」


「では、ここで質問です。かわいいショタっ子と、パケットキャプチャーなら、どちらが興奮しますか?」


「パケットキャプチャー」


「そう。それがあなたです」


「……おお。自分を取り戻しました」


 そんな2人のバカな会話に、玉置社長が楽しそうに笑いだします。


「いやぁ~。さすが皆藤さんのヘルプデスク。楽しいところですね」


「いえいえ。普通ですよ、普通。……ああ、そうそう。紹介しておきましょう。今日は1人しかいないのですが、彼女は花氏さん。初めてですよね」


 そう紹介してから、今度は夢子の方を見て皆藤が説明します。


「こちらは、株式会社クラウド・ジオラマ・ディスプレイの社長、玉置さん」


「……ああ、CDD。確か、クラウドファンディングで大成功して、一気に一流企業入りを果たした」


「はい。若輩ながら。まあ、これもすべて皆藤さんのおかげなんですけどね」


「へ? 部長のおかげって?」


 不思議そうに見る夢子に、無表情のままで皆藤が顔を振ります。


「いいえ。玉置さんが頑張られたからですよ。……もともと、玉置さんはヘルプデスクのお客さんでして。学生のころに、彼は大好きなガ○プラとかのロボットアニメのプラモデルを母親に勝手に捨てられてしまってたことがあったんです。それをヘルプデスクに相談してきたんですよ」


「……なんで捨てられたんです? 出しっぱなしにしていたからとか?」


「とんでもない!」


 玉置が目を丸く見開いて答えます。


「きちんと自分の部屋に飾ったり片づけておいたんです。1度捨てられてからは、箱にしまって隠しておきました。それでも探し出して捨てられました」


「?? お母さん、プラモアレルギーとか?」


「どんなアレルギーです、それ? 違いますよ。戦うロボットのアニメとかプラモデルとか漫画とか、とにかくそういうのは教育上よくないと、全部捨てられたんです」


「……いい年して、そういうプラモとか漫画を買っている、その時点で捨てても、今さら手遅れってやつじゃないですか?」


 歯に衣着せぬ夢子でしたが、それに玉置は笑って答えます。


「ですよねー。僕もそう思いましたよ。でも、母は私の隠していた宝物まで見つけだして捨てしまったんです。……そういう時、花氏さんならどうしますか?」


「そういう時?」


「そう。自分の宝物を勝手に捨てられたり、大事なものを取り上げられた時です」


「ああ……消します」


「……え?」


「敵は消しますね。跡形もなく」


「跡形もなく!?」


 不穏な夢子の言葉に、玉置が青ざめます。


「殺人はダメですよ、殺人は!」


「いえ、殺人なんてしませんよ。あくまで社会的にです」


「しゃ、社会的!?」


「はい。居場所をなくして、存在を抹消します。そりゃ、もう米国 NIST SP-800-88に則り消去した後、徹底的に物理破壊もしますね。分解して穴だらけにして……」


「……い、意味は分からないけど、物理破壊はまずくない?」


 まずいです。


「だ、だいたい社会的になんて無理ですよ!」


「そうですよ、花氏さん」


 動揺している玉置に、皆藤が助け舟を出します。


「普通は無理です。花氏さんならできるでしょうけど」


「――できるのぉ!?」


 玉置社長、絶妙なツッコミです。


 それに対して、皆藤と夢子が互いに顔を向け合います。


「できますよね?」


「できます!」


「力強く断言した!」


「じゃあ、ちょっと試しに消してみます?」


「そんな気楽に試さないで!!」


「指先でキーをちょちょいと叩けば、ワン、ツー、スリーであら不思議」


「人間消失マジック!?」


「指先ひとつで、ダウンさ~」


「ユーアーショック! 愛で空が落ちてきちゃうからだめ!」


 玉置社長、ここに来たとたんにツッコミ役です。


 慣れないツッコミの連続のためか、肩で息をしています。


「……で、その玉置社長の相談を部長が受けたんですよね? どうやって解決したんですか?」


 まるで何事もなかったように尋ねる夢子に、同じように何事もなかったように皆藤が答えます。


「ええ。実はね、仕事を始めるように勧めたんです」


「……仕事?」


「はい。まず、両親に家庭の助けになるためにと、アルバイトをする許可をもらいます。そして、プラモデルを預かるバイトを始めたことにしたのです。プラモデルを買う人の中には、買ったはいいけど時間がなくてなかなか作れない『積みブラ』を持っている人や、作ったはいいけど飾る場所がなくて困っている人がいます。その人たちから、プラモを預かる仕事です」


「ああ。レンタル倉庫のプラモ版ですね。昔、どこかのメーカーがやっていたような」


「ええ。そのプラモには契約書のコピーを付加しておきます。契約書には、プラモを破損・紛失した場合の損害賠償額と、契約を途中破棄した場合の慰謝料を明記してあります。しかも、けっこう高額です」


「……なるほど。それでは母親はうかつに捨てられないし、簡単にやめさせることもできないと」


「はい。もちろん、1~2個ではすぐに辞めさせられてしまいますから、最初に一気に大量の契約を作っておくのがポイントです。それから仕事内容を親に事後報告です。もちろん、その中には自分のプラモも混ぜておくわけです」


「なんていう皆藤部長らしい、姑息な手段。ちなみに姑息というのは褒め言葉です」


「嘘つかないでください」


 しれっと、夢子は嘘をつきます。


「まあ、ともかくそこからさらにですね、ジオラマを用意して預かったプラモを飾り、ウェブカメラでユーザーがそれを見られるサービスも始めさせたのです。これでプラモで遊んで(ブンドドして)いても仕事と言いはれます」


「さすが魔王の策略……」


「予想外だったのは、それが本当にネットで話題になり、大人気になりまして。事業拡大をクラウドファンディングでやったら成功。現状、ユーザーは予約すれば、VRゴーグルをつけてロボットアームで遠隔地にあるプラモをジオラマに好きなようにポージングして眺めたり写真を撮れるようになりました」


「ああ、それは知っています。それがクラウド・ジオラマ・ディスプレイ・サービスですよね。場所を取らずに、巨大なジオラマでブンドドできるとか」


「ええ。自分の作ったプラモとジオラマの世界にVRゴーグルを使って好きなアングルで楽しめるのですから、好きな方にはたまらない世界でしょう。ただのCGとは違う感慨深さがあると話題ですね」


 横で呼吸の整った玉置が、深々とうなずきます。


「はい。おかげでうちはいろいろと事業を拡大中で順調ですよ。……ああ、そうそう。この前、ムーンマイクロの月無社長にお会いして、あちらも業務は順調で、皆藤さんにあったらよろしくと伝言されましたよ」


 それを聞いた夢子は首をかしげます。


 ムーンマイクロ株式会社も、急成長した一流企業です。


「部長、ムーンマイクロの社長と知り合いなんですか?」


 その夢子の質問に答えたのは、玉置でした。


「あれ? 知らないんですか。知り合いどころか、月無社長も皆藤さんに私のように助けてもらって、会社を大きくした1人ですよ」


「……え?」


「皆藤さんに助けられた人はたくさんいますよ。たとえば……」


 玉置が次々と名前をあげますが、それのどれもが名だたる会社の社長さんです。


 一通り聞き終わった夢子は、眉間にしわを寄せてなぜか皆藤をにらみます。


「……部長」


「なんです?」


「なんで、こんなところにいるんですか?」


「……あなた、自分の会社を『こんなところ』呼ばわりしましたね……」


 そこに玉置が割り込みます。


「でもね、皆藤さんは確かに、一部門の部長で終わる方ではありません! 皆藤さんから世話になった社長さんたちがこぞって皆藤さんをヘッドハンティングしているのに、まったく首を縦に振ってくれない。今日は僕もね、前々から伝えているように業務拡大のために皆藤さんを副社長として迎えるために、ここに乗り込んできたんですよ!」


「――副社長!?」


 夢子が目を丸くして驚きますが、とうの皆藤は「うーん」とうなっています。


 どうやらは皆藤は、こんな感じながらも人材的にはあちこちで高く評価されているようです。


 ところが本人は、どうやら困っているようです。


「皆藤さん、あなたの自由な発想力、なんでもなんとかしてしまう問題解決力がほしいのです! そしてなんと言っても、ベンチャーで募る人材は能力が高くてもひと癖もふた癖もある者ばかり。そこで皆藤さんがここでやっているような、野獣……いや、魑魅魍魎の魔獣でも調教(テイム)してしまう、その力が欲しいのです!」


「……おひ。ちょっと待て、タマデカ社長」


 さらっとディスられた夢子が、キレ気味にツッコミを入れますがタマデカ……ではなく、玉置社長には届いていません。


「条件ならいくらでも出してください! 何が気に入らないんですか!?」


 大興奮状態で玉置社長、鼻息が荒いです。


 それに対して、やはり皆藤は腕を組んでうなります。


「いや~、不満というか、やりたいこと……夢がありまして」


「え? それは?」


「それは……」


「それは!?」


「それは……この会社の本部長になること!」


「「――微妙かよっ!?」」


 思わず、夢子と玉置の声が重なります。

 確かにこの会社は規模がでかいので本部長でも大したものなのですが、「夢」というなら「社長」ぐらい言ってほしいところです。


「いやぁ~。私、そのあたりが私の器かなと。その夢を叶えるまではここにいる所存なんですよ」


「そ、そうなんですかぁ……」


 がっくりと玉置が肩を落とします。


「…………」


 それを見ながら、「いや、ここに残っても絶対に本部長にはならないから」と思うが、いろいろな思いから「転職すべきだ」とは言えない、夢子だったのでした。


(……私、ここ好きだしね)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■用語説明

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


●タマおおきい社長

 焼き物の狸のきん○まって、どうしてあんなにでかいのでしょう。


●FAQ

 ファンタスティック・アーティファクト・クエストの略。

 幻想人工遺物探索のイベントで、一般的に難易度が高いが、よいアイテムをゲットしやすい。


●『セクハラにならないための下ネタ会話作法』

 まず最初に相手と親しくなるということが重要らしい。

 もしくは、相手の弱みを握るなど、その手法などが書かれている。


●BLとかTSとかショタ萌え系

 BLは、「ブラックリスト」。

 TSは、「トップセールス」。

 ショタは、「ショータイム」。

 つまり、どういうこと?


●パケットキャプチャー

 この世にこれほど興奮するものはない(夢子談)。


●クラウド・ジオラマ・ディスプレイ

 最近、なんでも「クラウド」つければいいと思っていませんか?


●CDD

 「クラウド・ジオラマ・ディスプレイ」の略ですが、「ジオラマ」の頭文字が「D」だと知らなかった人、正直に手をあげなさい。


●ガ○プラ

 かつて、購入するために並んでいるだけで死者が出て、それを乗り越えて購入しても好きなモデルが変えなかったという、呪いのプラモデル。


●その時点で捨てても、今さら手遅れ

 手遅れも何も、そんな心配不要なわけです。


●米国 NIST SP-800-88

 メディアに入っているデータを完全削除するときの米国政府が定めたNational Industrial Security Programの規格の一つです。


●「指先ひとつで、ダウンさ~」「ユーアーショック! 愛で空が落ちてきちゃうからだめ!」

 愛をとりもどせ。


●積みブラ

 別名「罪ブラ」。作りもしないで積んでおいたプラモデルにつぶされる罪。


●遊んで《ブンドドして》

 ブーン! ドドドド!!

 ……と声を出してプラモで遊ぶところから来たらしいです。

 最初に聞いた時、「まじか!?」と思いましたが、どうやらマジらしいです。


調教(テイム)

 これぞ魔王の特殊能力。


●タマデカ

 ガキデカ、アブデカ等の仲間。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■用語説明(雷童弐波さん補足版)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 初めての試みですが、読者のお1人の「雷童弐波」さんが、「用語説明が足らん!」と補足を書いてくださいました。

 せっかくなのでご本人の許可をいただき、追記させていただきます。

 なお、※で始まる行は、作者のコメントです。



●FAQ

えと、読み方は『ファッキュー』?

中指立てて相手を挑発?(因みにGoogle辞書さんでもファッキューと入力すると変換候補に"FAQ"と出て来る不思議)


※第3話「毒をもって毒を制していいですか?」(http://ncode.syosetu.com/n4938dc/3/)で、やはり「FAQ」について説明しています。そちらもご覧ください(笑)。



●『セクハラにならないための下ネタ会話作法』

あるんなら本当に欲しい。


※他の方のコメントでもありましたが、本当に欲しがっている方が多くてびっくりです。

 みんな、そんなにセクハラにならないように下ネタしたいんでしょうか?

 どれだけエロいんです、みなさん?



●BLとかTSとかショタ萌え系

>つまり、どういうこと?

性癖分類。「やおい」と言って最近の若い人が理解るか不明。


※「やおい」は「ヤバい。おいつかれるぞ。いけ、お前だけでも生き延びるんだ!」「やるだけやって、おさらばかよ、いい身分だな」「やっぱり、おっ○いで、○きたい!」「やまだとおもったら、おっ○いだった、イヤッホー!(イヤッホー……イヤッホー……)」等の略です。



●パケットキャプチャー

これは個人的にちゃんとした説明欲しかった。


※第1話「雇ってもらえるのですか?(プロローグ)」(http://ncode.syosetu.com/n4938dc/1/)で、やはり説明しています(笑)。



●クラウド・ジオラマ・ディスプレイ

>最近、なんでも「クラウド」つければいいと思っていませんか?

同意。


※FF7の主人公も、クラウドですからびっくりです。



●CDD

>「ジオラマ」の頭文字が「D」だと知らなかった人、正直に手をあげなさい。

これ、分からない人には本当に解説必要。

「ジオラマ」の読みとしては「ディオラマ」又は「ダイオラマ」が正しいからのハズ?(←ちょっと自信無くなった)


※なんて役に立つ情報!



●ガ○プラ

今はWeb限定品で泣かされる大人多数。まさに呪いのプラモデル


※転売屋くたばって♥



●積みブラ

崩れても怖くないが(中が軽いから)占領されるスペースの方が遥かに問題。楽に一部屋埋まる。


※積むことが喜びらしいです。



●遊んで《ブンドドして》

出来上がったロボットのプラモで最初にやる儀式みたいなもん。

仕方ない。現実では「プラモイン」(「プラモ狂四郎」参照)出来る訳でなく、「プラフスキー粒子」(アニメ「ガンダム・ビルドファイターズ」および「ビルドファイターズトライ」参照)が有る訳ではないので。


※「ブラレス3四郎」も忘れてはいけません。


※ベネ・水代先生から「プラモイン」は「プラモ天才エスパー太郎」との指摘がございました。確認したところそのようです。



●タマデカ

この解説だとビートたけしのネタフリになってしまう。


※ちなみに「タマデカ」さんのあだ名は「TAMA-CHAN」らしいです。似たような名前の人がいても別人です。

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