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なんとなくですか?

 さて、悠の対応をしていた時、夢子の方はどうなっていたのでしょうか。




〈一度目に注意されてから、ぼくたちも静かにはしたんですよ。それなのに、またうるさいと言ってくる。もう難癖クレームですよ。どうしたらいいんでしょうね〉


「やめればいいのでは?」


 夢子、久々のバッサリです。


〈いやいや。お客も来ているのにやめられないでしょ? 客が30人もいるんですよ?〉


「それはまた……ずいぶん、広い庭なんですね」


 夢子の言葉に荒い鼻息が返ります。


〈そうかな? まあ、大したことないよ。たかだか20畳ぐらいの空間だしね〉


「……それ、まちがえて人も焼いてませんか?」


 本当に大したことありませんでした。


 かなり窮屈そうです。


〈とにかくこれだけの人数が来ているから、簡単にやめられないでしょう。みんなぼくの企画を楽しみにしてきてくれているんだから〉


「それはきっと気のせいですよ」


〈……え?〉


「別にあなたの企画を楽しみにしてきたわけではなく、誘われたし、付き合いだし、場所も近いし、肉喰えるからってだけで参加しているだけですから」


〈おいおい。君はなにを根拠にそんなこと言うんだ?〉


「いや、なんとなく」


〈なんとなくで他人を貶すな!〉


「だって、考えてみてくださいよ。あなたのような、なんとなくいけ好かない男を慕ってくる人が、100%いるわけないじゃないですか」


〈なんとなくで100%否定すな!〉


「では聞きますが、そこにいるメンバーで心から親友と呼べる友達はいますか?」


〈……え?〉


「あなた、なんとなくですが独身ですよね?」


〈なんとなくで当てるな!〉


「そして参加女子メンバーの中に気になる女性がいる!」


〈――なぜそれを!?〉


「なんとなく」


〈なんとなく、こえー!〉


「ナーン・ト・ナーク教ですから。ちなみに入信者募集中です」


〈やっつけすぎる新興宗教!〉


 まさか人工頭脳がなんとなく面白がって、質問者のデータやSNSの書き込みから、いろいろと解析した結果を夢子のPCに表示しているとは、夢にも思わないことでしょう。


「ナーン・ト・ナーク様のお告げによると、もうすぐそちらに文句を言ってきた人が直にやってきます」


〈……え? 本当に?〉


 まちがいないですね。


 目の前で悠がそう誘導しているところです。


〈……まさか、殴り込んでくるつもりじゃ……〉


「いえ。『文句を言わないから仲間に入れてくれ』と言ってきます」


〈予想外に平和的!?〉


「しかし、それが破滅への序曲です」


〈破滅へのプレリュード!?〉


「いえ。プレリュードは前奏曲なので、正確には序曲とは別です」


〈そ、そんな豆知識いらないよ! それより破滅ってどーいうことだよ!?〉


 「破滅」が気になって仕方がない時点で、すでに夢子の罠にはまっています。


「彼は巧みな会話で、あなたの想い人の心を奪ってしまいます。肉と一緒に」


〈肉と一緒!? ……あっ、いや、肉はどうでもいいよ!〉


「肉と共に去りぬ」


〈なんで、映画のタイトルみたいに言ってんの!? それより、そいつが彼女を口説くってことか!?〉


「そうです。それを防ぐ運命は1つしかありません」


〈ど……どうすれば?〉


「ナーン・ト・ナーク様は仰いました。『汝、1人BBQをせよ』と」


〈……な、なんで?〉


「敵が来る前に全員を帰して、ボッチでBBQをやるのです。そして敵が来て驚いていたら、『みんなに帰られた』と告げるのです。すると……」


〈す、すると……?〉


「敵が同情してくれます」


〈――だろうね!〉


「しかし、彼女を奪われないシュタイン○ゲートの選択はそれしかありません!」


〈ボッチBBQの世界線しかないの!?〉


「大丈夫です。敵と(おとこ)2人きりBBQパーティができますから」


〈なんか暑苦しいぞ!〉


「では、よく考えてみてくださいね。というわけで、本件はクローズします」


〈――えっ!? ちょっとま――〉


――ツーツーツー……


 夢子、電話をぶち切りました。


 面倒になったのか、会話の締め方がかなり雑です。




「まあ、これで仲良しリア充BBQパーティが1つ潰れましたわね」


 先に電話を切った悠が、ニヤリと電話を切ったばかりの夢子に狡猾そうな笑みを投げます。


「ええ。そしてボッチBBQが1人救われます」


 夢子も「フッ」と笑みを返します。


「いいことをしましたわね」


「そうですね」


 決して、《《していません》》。


「――戻りました。2人ともお疲れ様。そろそろ終業ですね」


 そこにタイミングよく、皆籐が戻ってきます。


 手にはなにやら、ペラのカタログらしきものがつままれています。


「2人とも、今日はこの後、お暇ですか?」


「え?」「はい?」


 未だかつてない皆籐の言葉に、2人は目を丸くします。


「いえ。実は南さんが仕事の関係で『手ぶらBBQ』のお得な割引券があると言ってたのを思いだしまして。よかったら、みんなで行かないかと思いまして」


 そういうと、皆籐は手に持っていたカタログを前に見せます。


 そこにはカラーで楽しげなBBQシーンの写真が掲載され、『都内で気軽にキャンプ気分』とセールストークが踊っていました。


 それを見た2人の心が、そりゃもうワクワクしはじめます。


「みんなで……」


「楽しくBBQ……」


 2人の呟きに、皆籐は少し首を傾げてから説明を続けます。


「ええ。南さんの他にも、彼の友達の山崎くんや大前くん……ああ、そうそう。なんと十文字さんと神寺(かみでら)さんも参加するそうですよ」


「ええっ!? あの我が社のミスコン女王の十文字さん!?」


 悠が立ちあがって驚きます。


 正確には「みんなのアイドル的存在ベストテン」という社内自主イベントですが、悠は万年2位でずっと負けっぱなしだったのです。


「しかも、神寺(かみでら)さんって、この前また3位に返り咲いた人ですよね……」


 そう驚く夢子も、実はペッタン胸の人気で5位です。


「ええ。なんかたまたま話を聞いていたらしく、自分から参加したいと申し出があったそうで。それに十文字さん、実は上空さんと話をしてみたかったみたいですよ。できたら、お友達になってみたいと」


「えっ!? ええ~!? ……あ、あの十文字さんが、わたくしと……あら……あらあらあら……」


 妙に動揺する悠です。


 かなり嬉しそうです。


「上空さんは変態ですけど、秘書としての能力は優秀で秘書第二課にいた時はトップでしたからね。第一課トップの十文字さんが興味を持っても不思議はないでしょう。それに十文字さんも意外に変わった人のようですし……」


 そう言ってから、皆籐は夢子を見ます。


「それから花氏さんとも、男性陣が友達になりたいと。それに花氏さんがくるなら、ひよ……山口京子さんも参加するそうです。あと、それを横で聞きつけて、情シスの平山さんも来なくていいのに来るそうです」


「そ、そんなにたくさんの人と……友達BBQ……」


 夢子も珍しくニヤニヤとし始めます。


 PCの画面を見ていないのに、ニヤニヤするのは珍しいことです。


「ということなんですが、2人とも行きますか?」


「「――行きます!!」」


 2人が勢いよく答えます。


「そうですか。それではもうすぐ終業なので用意を……」


「はい! ……あ……ちょ、ちょっと待ってください」


 夢子が立ちあがっていたのに座りなおしてしまいます。


「あの、わたくしもちょっと……」


 悠もなぜか座ります。


 そしてPCを操作しながら、ヘッドセットを頭につけ始めます。


「……どうしたんですか?」


 怪訝な声で皆籐が尋ねると、なぜか2人は一度、互いに視線を合わせてから俯きます。


「い、いえ……ちょっと……」


「かるく……謝罪というか……訂正を……」


 やましさ大爆発です。


「……あなたたち、なにをやらかしたんですか?」


「いえ……」


「別に……」


「では、なんで謝罪の電話をしようとしているのです?」


「「……なんとなく」」


「そんな適当な理由で謝罪しないでください」


 2人は謝罪の電話後、皆籐に淡々と怒られましたが、無事にBBQには行けたようでした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■用語説明

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


●人も焼いてませんか?

 カニバリズムと聞くと喜ぶ人がいるので気をつけましょう。


●ナーン・ト・ナーク教

 宗教法人って儲かりそうですよねぇ。

 いいなぁ。

 誰かくれないかな、宗教法人。


●人工頭脳がなんとなく面白がって

 ミクリちゃんですね。

 活躍は、第43話以降参照。


●プレリュードは前奏曲なので、正確には序曲とは別

 別です。

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%8F%E6%9B%B2


●肉と共に去りぬ

 元は、スミデヤクト・ウマチェルの長編時代小説。題名はBBQ戦争という「肉」と共に、当時絶頂にあったブルジョアたちのBBQ文化が消え「去った」事を意味する。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A2%A8%E3%81%A8%E5%85%B1%E3%81%AB%E5%8E%BB%E3%82%8A%E3%81%AC


●1人BBQ

 陰で流行っています。

 専用の機材も出ているぐらいです。


●シュタイン○ゲートの選択

 非常に難しい選択なのです。

 とりあえず、秋葉原に行きたくなります。


●ボッチBBQの世界線

 究極の選択です。

 想像してみてください。

 その世界では、BBQ場に行っても、誰もがボッチでBBQしています。

 絵面が凄いです。


(おとこ)2人きりBBQパーティ

 暑苦しい上、汗臭そうです。


●手ぶらBBQ

 要するに屋外焼肉屋です。

 しかも味付けは自分たちでやります。

 騙されてはいけません。

 ただのセルフサービスですね。


●南さんの他にも、彼の友達の山崎くんや大前くん

 南さんは……まあ、説明は不要でしょう。

 山崎くんと大前くんは……わかる人はわかりますね。

 ヒントはこちら。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881328705


●十文字さんと神寺(かみでら)さん

 第28話「何位ですか?」参照。

 ちなみに、圭子は4位になっています。

 本当は圭子もBBQに誘いたかった皆籐ですが、夜遅いので誘いませんでした。

 誘うと、社内人気1~5位まで勢揃いだったんですけどね……。


●あ、あの十文字さんが、わたくしと

 実は悠、十文字を敵対視していましたが、尊敬もして興味もありました。


●ひよ……山口京子さん

 IT部の秘密兵器です。

 第24話「内心ですか?」参照。


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