BBQパーティがうるさいのですか?
「……肉……喰いたい……」
ボソッと漏らしたのは、夢子でした。
その欲望あらわな一言に、皆藤は画面から目を離さないまま反応します。
「いきなり『人肉に飢えたグール』みたいなこと言われましても」
「具体的に嫌なイメージ設定しないでください。それにグールじゃなくても、肉って無性に食べたくなることありませんか?」
「なりますわね!」
答えたのは、悠でした。
「ある程度の肉食は、美容にもいいですから。……でも、花氏さんでしたら、肉ぐらいいつでも食べられるでしょう?」
なにしろ夢子は、胸はないけど金はあります。
胸はないけど。
最近、強調していなかったので二度書きました。
「いや、まあ、食べられますよ。だけど、今の気分は屋外で炭火焼きのBBQをワイルドに食べたい気分なんで……」
「ん? ……食べればいいのではありませんか?」
「そのぉ……独りBBQはちょっと……」
「そんなのお友達を呼べば……あっ! そうね! お友達、いらっしゃらないのよね、花氏さん」
「うぐっ……」
夢子の頬がかるく膨らみます。
「そ、そういう、上空さんだっていませんよね?」
「あら。わたくしなら一声かければ、あっという間に――」
「全部、ファンクラブの男の人ですよね、それ! 私が言っているのは友達です、と・も・だ・ち。しかも同性の友達とかいますか!?」
「え? 同性の友達なんて必要ですの? わたくし以外の女性なんて、みんな敵みたいなものですし。極論、この世に女性なんて、わたくし1人で充分ですわ」
「なんていう天上天下唯我独尊。そらぁ〜友達なんてできないですよね……」
「それでもわたくしには男性の友達がいますけど、花氏さんはそれさえもいませんものねぇ〜」
「ぐぬぬ……。あの男どもを友達とは認めないですよ! それに私には……そう! ひよこがいるし!」
「あら。1人でもいてよかったですわね」
パソコンモニターごしに、2人でにらみ合いを始めます。
険悪です。
喧嘩内容的には本当に心底くだらないのですが、険悪です。
しかたなく、皆籐が仲裁に入ります。
「まあまあ、2人とも。まともな友達がいない者同士、喧嘩しないで仲良くしてください。2人ともどこかおかしいんですから、仕方ないじゃないですか」
「ちょっ、部長!?」「皆籐さん!?」
仲裁と言うより、中傷でした。
「とにかく、喧嘩しないで仕事しててくださいね。ちょっと私は用事を思いだしたので、席を外します。終業までには戻ってきますから、あとをお願いしますね」
皆籐は、そう言うと早足で部屋を出ていきました。
微妙な雰囲気のまま、夢子と悠だけが取り残されます。
――プルルルルッ……
そこにタイミングよく電話の音が鳴り響きます。
とったのは、悠でした。
「はい、ヘルプデスクでございます。ご用件は……え? 隣の家でBBQパーティ? ええ。……それがうるさいと? 文句を言ったけど、やめてくれない……?」
まるで予定調和のような質問に、悠の目が丸くなります。
仕方ありません。そういう話です。
――プルルルルッ……
またもや電話が鳴ります。
もちろん、電話を取るのは夢子です。
「はい、ヘルプデスクです。……え? 自宅でBBQパーティしてたら? はい。……隣から文句を言われたということですか? え? どうしたらいいと言われましても……」
思わず夢子は、悠とアイコンタクト。
ここまでお約束ならばと、2人はパソコン画面でデータ共有。
もちろん期待を裏切らず、質問者2人の住所はご近所さんです。
再び2人は、何やらよからぬ顔をしてアイコンタクト。
いつもどおりヘルプデスクの仕事か怪しい内容ですが、2人は妙にやる気を見せます。
まちがいなく、2人の心に闇が宿っています。
ここから問い合わせは同時に進みますが、わかりにくくなるので片方ずつお届けしましょう。
まずは、悠がすべての事情を聴きだしたようです。
「……なるほど、貴方の気持ち、わかりますわ」
〈わかっていただけましたか!〉
「ええ。ボッチでクソニートのあなたは、窓の外から聞こえてくる、BBQをする楽しそうな声に逆恨みして、怨嗟をもらしていたわけですわね」
〈おおおいっ! なんだ、その悪意ある解釈は!? 確かにおれはボッチでニートっぽいけど、クソってなんだよ! クソって!〉
ボッチでニートは認めましたが、クソで切れてしまいました。
クソは嫌ですよね、クソは。
〈それに逆恨みじゃねーし! 本当にうっせーんだよ!〉
「フフフ。素直じゃありませんわね。照れなくていいのですわよ、クソボッチ」
〈ダイダラボッチみたいにくっつけんな! だいたいな~んで、おれが照れるんだよ? あんた、バカか?〉
「まあ。なんていう口のきき方でしょう。わたくし、あなたをそんな子に調教した覚えはありませんわよ」
〈おれだってされた覚えねーよ! ってか、子ってなんだよ!? それ以前に、子を調教ってどういうことっ!? やべーだろ、それ!?〉
「やべーなんて、そんな口のきき方して! わかりました。もう知りません! 今日からあなたなんて、父でもなければ母でもありませんわ!」
〈――あったり前だろうがあああぁぁぁ! ってか、えっ!? なんでそこで父と母が出てくるの!? 自分で作った話の流れ無視!? そこは『子でもなければ親でもない』じゃないの!?〉
「……どうして、わたくしがあなたと親子関係にならなくてはならないのかしら?」
〈うわわわあああぁぁっ! 話がつーじねええぇぇぇ!!!〉
久々に絶好調の悠です。
「少し落ち着きなさいませ」
〈お前が言うのか!?〉
「いいですか。あなたはこれからお隣のBBQパーティに参加してくるのです」
〈……はぁ? なんでおれが?〉
「その時に『迷惑だからやめろ。やめたくないならおれを無料で参加させろ』と言って、ただ飯にたどり着くのです。あなた、貧乏ですから、今朝のお食事も冷ごはんにふりかけでしたでしょう?」
〈いや、たしかに貧乏だけど……なんで俺の朝飯を知ってるんだよ!?〉
なんででしょうか。
「そしてBBQで一番高い肉から始めて、肉という肉をすべて食い漁ってくるのですわ」
〈…………〉
「そうすれば、必然的にBBQは終焉を迎えます」
〈……悪魔だ。悪魔がいるぞ……〉
なにしろ部長は魔王ですから不思議はありません。
〈確かに終わらせられるけどよ……おれ、面と向かって他人と話すのは……〉
「大丈夫。あなた、小さい頃は普通に人と話せたではないですか」
〈そーだけどっ、なんで知ってんだよ!?〉
「陰から、ずっと見守っていたのですもの」
〈怖いよ!!〉
「それにネットゲーなら普通に会話できますでしょう。もう、ニートは卒業ですわ。たかが、ネカマだとは知らずに告って、バカにされたぐらいでニートになるなんて」
〈――って、だからなんで知ってんだよ!?〉
「簡単な推理ですわ」
〈なにこの名探偵!?〉
「さあ、とにかく行きなさい。そして性別を問わず、たくさんの友人に囲まれて、和やかな雰囲気で行われているBBQなど終わらせてくるのです!」
〈……なんか含むものがないか、あんた?〉
完全にありますね。
それでも質問者は、悠に従うことにしたようです。
ところで、長くなったので夢子の方は次回です。
はい。久々の続き物です。
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■用語説明
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●『人肉に飢えたグール』
関係ありませんが、「東京喰種」という読ませ方、強引で好きです。
●BBQ
「ビービークィーン」ではありません。
ところで元は、「barbecue」というスペルですが、Qはどこから遊びに来たのでしょうか?
ちなみに並び方を変えて、「BQB」とすると「嬲」という字を思い出すのですが考えすぎでしょうか。考えすぎですね。わかっています。
●ひよこ
京子ちゃんのことです。
第25話「そうですか?」参照。
●アイコンタクト
「アイコン」「タクト」と切ると、指揮棒のアイコンみたいですね。
もちろん、本編とはいっさい関係ありません。
●クソで切れてしまいました
きれ痔のことではありません。
●ダイダラボッチ
だいだら~♩ それが青春~♩
だいだら~♩ それが、それがあ~い~♩
……わからない人は、ロボットアニメに詳しいお父さんに聞いてみましょう。
●そんな子に調教した覚えはありません
調教は浪漫ですね。
あなたもしてみたいと思っているはずです。
●『子でもなければ親でもない』
これ、よくドラマなどで親が子供に言う台詞ですが、言い方を間違えて『おまえなんて、子でもなければ親でもない』としてしまうと、「親でもないのは当たり前じゃん」となるので使用方法に気をつけましょう。
●部長は魔王
第41話「勇者なのですか?」参照。
●怖いよ!!
うん。
●ネカマだとは知らずに告って
ネットにいるのはすべて男です。
この世に女などいないのです。
そう思ってネットの荒波を越えてきました。
●なにこの名探偵
シャーロックもびっくり。
●久々の続き物
1話完結型のヒーロー番組で、複数話続き物を混ぜられる今の文化は良いものです。
ヘルプデスクもそうありたいと願っています。
つまり、続き物でも許してね。
 




