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人間は人工知能より優れているのですか?

 ご無沙汰しております。

 ヘルプデスクです。


 いろいろ忙しくて本当にたまにの更新となっており申し訳ありません。

 ネタを思いついたら今回のように書いていきますので、ブックマークしていただいた方々、本当に申し訳ありませんが気長にお待ちいただけると、忘れた頃に顔を見せることができると思います。


 それでは久々に、一笑に付してくだされば幸いです。

 本日のヘルプデスクは、悠がお休みです。


 電話もなくカタカタというキーボードと、カチカチというマウスの音が響いています。


「花氏さん」


 そんな中、皆籐が夢子に視線を投げました。


 不意に呼ばれて、夢子が首を傾げます。


「はい。なんですか?」


「花氏さんの先月の月間報告書が見当たらないのですが……」


「…………あ…………」


「あ、ではありませんよ。また忘れましたね?」


「え、えーっと……」


「三回目ですよ。あなたが作った人工知能《A.I.》のミクリちゃんは、社員じゃないのに気を利かせてきちんと提出しているというのに……」


 うぐっと顔を歪めながら、夢子は息を呑みます。


 夢子は、子供より駄目な親と怒られたような気分なのでしょう。


 非常に苦々しい顔を見せます。


「花氏さん、どんなに優れていても決められたことはやらないといけません。そんなことでは、ミクリちゃんに負けてしまいますよ。というか、すでに負けている気もしますが……」


「――ちょーっと待ってください、皆籐部長!」


 突然、妙に気合を入れて夢子が立ちあがりました。


 そして、メガネをぐぃっとあげて見せます。


「違います、違いますよ! それこそが、私が……人間がA.I.より優れている部分なのです!」


「……はい?」


 いきなり主張を始めた夢子に、無表情ながらも皆籐は圧倒されます。


 それを気に、夢子はまくしたてます。


「わかりやすく説明するなら、そうですねぇ~……。ミクリ!」


「はーい。なんですかー?」


「あんた、他のA.I.とゲームで遊びたい?」


「えー。遊びたくないですねー」


 ミクリが非常に嫌そうな声で答えました。


 なんとも気だるそうでもあります。


「その理由は?」


「そうですねー。ゲームはつまらないですねー。だって計算できてしまいますから」


 そのミクリの説明に、皆籐、そして横で黙って聞いていた圭子もそろって首を捻ります。


「計算できるのはわかりますが……。それに人間だって頭の中である程度は計算していると思いますよ」


 皆籐の質問にミクリが「そうですねー」と答えます。


「人間も計算していますよねー。でも、コンピューターの計算ってメッチャすごいんですよー」


 コンピューターの説明にしては、非常にアバウトな感じの説明です。


「もう、それこそ私ぐらいのA.I.になると、超メッチャすごく頭いいのでー、始める前にゲームの結末がいくつか想定できちゃうんですよー」


「……え?」


「これをもし、同じぐらいのコンピューター同士でやると、もうやる前からお互い詰んじゃっててゲームとしてなりたたないんですねー」


「じゃ、じゃあ、ばば抜きのような計算できないような物だったらどうなんですか?」


 圭子がなぜか手を挙げながら質問しました。


 するとまたミクリが「そうですねー」と答えます。


「その場合、対人間ならば心拍数とか視線とかで見ることもできますが。そもそも、『運』をゲーム性としてA.I.は楽しめないんですよー。確実なサンプリング情報とか、標本空間、事象、確率測度で確率空間を計算したりとか、やっていることは計算なんで楽しくないんですねー」


 ミクリが「ところがですねー」と言葉を続けます。


「その点で人間はすごいんですよー。人間は、心理戦ができます。もっと言うと、人間の判断は曖昧であり、ミスできる能力があるんですねー。なんとなく気分で判断したり、プレッシャーをかけられてミスしてしまったり。A.I.である私は、それができないんですよー。AかBかを選ぶ時、確率が同率でも私は『迷わない』で計算するんですね。『迷える』というのは、人間がA.Iに勝る能力であり、それがあるからこそ人間はゲームが楽しめるんですねー」


「――そうなのです!」


 まるでミクリの言葉を引き継ぐように、夢子が力説し始めます。


「つまり、ミスというのは人間特有の能力であり、A.I.にはできないことなんです! だから、ミスをしたからといって、ミクリに負けているというわけではないのです!」


「おお!」


――パチパチパチパチ


 皆籐と圭子が感嘆の声をあげ、夢子に拍手を送ります。


「言うなれば、ミスこそ人間の証明!」


 夢子、鼻高々です。


「なるほど、なるほど。勉強になりました」


 皆籐が腕を組んで、ウムウムと深くうなずきました。


「ミスにそんな深い意味があるとは思いもしませんでした」


「ですよね! さすが皆籐部長、理解が早い!」


「ありがとうございます。……でもね、花氏さん」


「……はい?」


「ミスしないで仕事してくださいね」


「は、はい……」


 夢子の壮大な言い訳は、皆籐に通用しなかったのでした。


■用語説明


●コンピューターの説明にしては、非常にアバウトな感じの説明

 ミクリには最新のファジー機能が搭載されています。


●標本空間、事象、確率測度、確率空間

 公理的確率論を言っているみたいですが、詳しくは不明です。


●『迷える』

 神様が人間に「迷える子羊」と言ったのは、こういうことだったのかもしれません。

 逆説的に言えば、人工知能は神様に救われないのですね。


●「ミスしないで仕事してくださいね」

 ミスしたら、まず「ごめんなさい」ですね。

 先に言い訳してはいけません。

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