パソコンが動かないのですか?
お疲れ様です。
ヘルプデスクです。
今回は、ヘルプデスクあるある羅列です。
一笑に付していただければ幸いです。
〈すいません。パソコンが動かないんです……〉
今日の質問は、もっともポピュラーな質問でした。
これだけお話が進んでいるのに、もっともポピュラーな質問が今頃くるというのはどういうことなのでしょうか。
「動かない……ということは、電源が入らないんですか?」
対応するのは、皆藤です。
彼は技術者ではありませんが、ヘルプデスク歴も長くこの手の話はお手の物。
だから、「パソコンが動かない」と、このような抽象的なことを言ってくるユーザーは、まず状況を理解していないユーザーであることは百も承知です。
〈いえ。電源ははいります〉
「では、動くんですね」
〈いえ。動かないんですよ〉
だから、このような間抜けな会話もよくある話です。
相手は、気弱そうな女性ですから、皆藤も根気よく話します。
「なるほど。では、OSが立ち上がらないのですか?」
〈立ち上がりますけど……パソコンは動かないんです〉
ふと、皆藤は「対応が花氏さんでなくてよかった」と思います。
彼女ならキレていたところでしょう。
「ログオン画面はでますか?」
〈ログオン画面って……名前とかパスワードをいれるところですか?〉
「そうですね」
〈でてますよ。でも、動かないんですよ〉
「ユーザー名とか入れられないんですか?」
〈いれられますよ〉
「では、ログオンできないということですかね?」
〈ええ。そうです〉
ここでやっと問題がはっきりします。
これから、原因を突き止めるために問題の切り分けです。
ヘルプデスクで一番必要な能力は、この問題の切り分けができるかどうかなのです。
「では、ユーザー名とパスワードを入れてログオンしようとするとどうなりますか?」
〈エラーが出ます〉
「エラーはなんてかいてありますか?」
〈えーっと……『現在ログオン要求を処理できるログオン サーバーはありません』って……〉
これを最初に行ってもらえば、こんなに遠回りをする必要はなかったでしょう。
「なるほど。えーっと、田中さんでしたね。もしかして、初めてのログオンですか?」
〈はい。そ、そうなんです。なのに動かないパソコンで困ってしまって……〉
「動かないというか……。そのPCは、ネットワークにつながっていますか?」
〈えっ!? ネットワークにつなぐ必要があるんですか!? このパソコンを使いたいだけですよ!〉
「はい。アカウントの認証はまずはサーバーで行うので、少なくとも最初はつないでいないと認証できません」
〈そうなんですか……。では、ケーブルは…………あった! ……はい。ケーブルをつなぎました〉
「では、ログオンを試してみてください」
〈……同じエラーが出ます。やっぱり動きません〉
「おや? 本当にケーブルはつながっていますか?」
〈はい。ちょっと隙間がありますが……〉
「隙間? それLANケーブルですか?」
〈複合機にささってたのをとりあえず抜いたんですが……〉
「それアナログ回線……ファックス用の電話線ではないですか?」
〈……あっ!〉
「それ抜いているとファックスが来ませんよ。それにLANとは違いますのですぐに戻してください」
〈す、すいません!〉
電話の向こうで、なにやら大騒ぎしている声が聞こえます。
〈すいません! すいません! 今、他の人に聞いてLANケーブルをさしました……〉
「では、ログオンを試してください」
〈……あれ? 『ユーザー名を認識できないか、またはパスワードが間違っています』って……〉
「ユーザー名はあっていますか?」
〈Tanaka Masami……ですよね〉
「いえ。うちは、Masami.Tanakaです」
〈あ、すいません! ……でも、同じエラーです〉
「スペルミスとかありませんか?」
〈たぶん……大文字でもいいんですよね?〉
「ユーザー名は関係ありませんが……もしかして、全部大文字になっていますか?」
〈はい〉
「キャップスロックは入っていませんか?」
〈……入ってます〉
「パスワードは大文字小文字関係ありますよ」
〈あっ! ……入れました! ありがとうございました!〉
「はい。お疲れ様でした」
皆藤は静かに電話を切りました。
すると、夢子が皆藤をじっと見ています。
「なんですか?」
「……毎度、毎度、思うんですが、ログオンするまでの道のりが長い方がけっこういますよねぇ」
「まあ、そういう方はスタート地点がもうまちがっていますからね」
「……はあ~。大変ですねぇ。お疲れ様です」
「なんで他人事なんですか……」
「だって、私だったらきっと『バカモーン! きさまにPCを使う資格なんてない!』って、キレますよ?」
「どこの頑固オヤジですか、あなたは……」
いろいろと気苦労が絶えない皆藤でした。
■用語説明
●「パソコンが動かないんです」
もっともよくある質問方法です。実話がもとになっています。
そして、もっともよくない質問方法のお手本でもあります。
「パソコンが自分の思い通りにならない」=「パソコンが動かない」という思考が根底にあります。
●問題の切り分け
ヘルプデスクでは特にですが、これができるかできないかで、使える使えないが大きく変わります。
論理的思考は大切です。
●『現在ログオン要求を処理できるログオン サーバーはありません』
「くっくっく。お前の存在を証明してくれる奴なんて、ここにはいないのさ!」というような意味。
●ファックス用の電話線
LANケーブルと電話線のケーブルについているコネクタは形か非常に似ています。
LANケーブルのコネクタ(10/100/1000BASE-T)は、RJ-45という形で幅広です。
電話線のコネクタは、RJ-11と言ってRJ-45よりも幅が狭いのです。
●『ユーザー名を認識できないか、またはパスワードが間違っています』
「くっくっく。お前の名前なんて知らないし、合言葉もまちがってるじゃねーか。この偽物めが!」というような意味。
●「ユーザー名はあっていますか?」
ユーザー名、またはユーザーアカウントは、ログオンするためのIDであり、本当のユーザーの名前とは別物です。
●「キャップスロックは入っていませんか?」
「くっくっく。見た目は子供かと思ったが、すっかり中身は大人じゃねーか!」というような意味。
 




