「特にない」のですか?
お疲れ様です。
ヘルプデスクです。
47,000PVを突破し、ポイントも500ptを超えました。
そしてとうとう、念願のレビューも頂きました。
これで思い残すことはありません!
……まあ、続けますけど(笑)。
今回は実体験が元になっています。
いるんですよね、こういう人……という話です。
一笑に付していただければ幸いです。
今日は、珍しく2人しかいません。
皆籐と悠だけです。
そして皆籐もトイレにいっており、今は悠が1人でお留守番です。
ちょうど手が空いたので、悠はパソコンでウェブショッピング。
最近は本当によく、ネット注文をするようになりました。
というより、悠にとってパソコンは、ほとんど通販の窓口です。
――プルルルル……
「はい。ヘルプデスクです」
ひとりしかいないので、悠はすばやく電話を取りました。
〈総務の栗林です。お疲れ様です〉
悠よりも年上っぽい女性の声です。
「はい。お疲れ様です」
〈ちょっとパソコンのことで相談に乗っていただきたいことがありまして。実は個人的にパソコンを買いたいので、アドバイスをいただければなと〉
「なるほど。わかりましたわ」
悠は明るく答えます。
なにしろ、久々に来たまともな質問です。
「それでは、ご予算は?」
〈う〜ん……特にないわ〉
「ノートタイプですか、デスクトップですか?」
〈そうね……どちらでもいいかしら〉
「メーカーのご指定とかありますか?」
〈特にないわね〉
「なるほど。それで何をなさりたいんですの?」
〈いやねぇ、だからパソコンよ。パソコンをやりたいの〉
パソコンは動詞や動名詞ではなく名詞です。
「ノートをやりたい」「鉛筆をやりたい」と変わらない言い方です。
ですが、こんな事はもう慣れっこです。
ヘルプデスクをやっていれば、よくある質問なのです。
「それでは、パソコンの勉強をなさりたいということかしら?」
〈そうそう。そうなのよ。今度、仕事でもっと使わなくてはならなくてね〉
「かしこまりましたわ。それで、パソコンで具体的にやりたいこととかございますか?」
〈う〜ん、特にないわ〉
「たとえば、表計算とか?」
〈ああ、ええ。そうね、表計算はやりたいわ。あとワープロで年賀状作りとか、あとゲームとかも興味あるわね」
「特にない」ことはまったくありません。
ものすごくやりたいことだらけです。
「なるほどですわ。ゲームとかはどんな種類のゲームをやりたいんですの?」
〈いえね。特にはないんだけど、リアルなCGキャラを操作して、みんなで冒険したりできるのってあるじゃない? ああいうのをね、やってみようかなと思って〉
特にないどころか、かなり具体的にやりたいタイプのゲーム像があります。
「そういうゲームをプレイしたいのでしたら、性能のいいデスクトップパソコンを買った方がよろしいかと」
〈え〜。でも、場所とりそうだから、ノートパソコンの方がいいかしら〉
最初は「どちらでもいい」と言っていたはずです。
「ノートパソコンで3Dのオンラインゲームとか快適に遊ぶとなりますと、最低でも10万円後半から20万円近くの大型ノートパソコンが必要ですわね」
〈まあ、高いわね。10万円以下でなんとかならないかしら〉
先ほど、予算は特に決めていないと言っていたはずです。
「10万円ぐらいでも、最新のオンラインゲームをフルに楽しむのでなければ、なんとかなると思いますわ」
〈本当は最新のゲームやってみたいのよねぇ〜〉
「それでしたら、やはり15万円ぐらいは……」
〈できたら、5万円ぐらいにしたいのよね〜〉
かなり予算が下がりました。
〈ビデオ編集とかもできるかしら?〉
どうやら他にもやりたいことが隠れていたようです。
「まあ、それほど高解像度ものでなければ……」
〈持ち運びもできるとうれしいわね〉
次々と要望が出てきます。
「モバイル向けは、どうしても高くなりがちですし、グラフィック性能が落ちやすいのですが」
〈そうなの? 小さくなるのに高くなるの?〉
「小さくするのは、技術が必要なのですわ」
〈ふーん。小さくて、軽くて、性能が良くて、安いパソコンとかないのかしら〉
「そ、それは難しいですわね……」
あれば、誰だってそれを買います。
「まあ、とりあえず安いのは、海外メーカーのパソコンですね」
〈あら。パソコンと言えば国産のがよくないかしら?〉
いつの時代の人でしょうか。
「でしたら、ショップブランドというのもありますが……」
〈できたら、有名メーカーがいいわね〉
メーカーの指定も特にないはずだったのに、実はこだわっています。
〈うーん。そうね。だいたいわかったわ。ちょっと自分で2~3万のパソコンを探してみるわ〉
「……え?」
〈それじゃ、ありがとうね!〉
――ガシャン……
――ツー、ツー、ツー……
「…………」
そこに皆藤が戻ってきました。
うつろな瞳で中空を見る悠を見て、怪訝な顔をします。
「……上空さん? どうかしました?」
「……いえ。世の中には虚しさがあふれているな……と思いまして」
こんなことで、諸行無常の悟りを開きそうになる悠なのでありました。
■用語説明
●ノートタイプ
日本では「ノートパソコン」という言い方がメインですが、英語圏では「ラップトップパソコン」(膝の上のパソコン)という言い方がメインです。
一昔前は、「ノートパソコン」と英語でいっても通じませんでしたが、今はどうなのでしょうか。
●「パソコンをやりたいの」
パソコンというものが世の中に広まり始めた時、面談で「趣味は、パソコンをやっています」という回答をする人がいました。
インターネットが流行ると、「趣味は、インターネットです」というのが流行りました。
それを聞くたびに、「落ち着け」と言いたくなってしかたありませんでした。
●「性能のいいデスクトップパソコンを買った方がよろしい」
同じ値段を出すなら、デスクトップパソコンの方がノートパソコンより性能がよくなります。
●「モバイル向けは、どうしても高くなりがちですし、グラフィック性能が落ちやすい」
小さいものは大きい物より組み立てが難しくなります。
それに性能が良くなると、どうしても放熱の問題や電池の消耗などの問題も出てきます。
なかなか難しいです。
●「小さくて、軽くて、性能が良くて、安いパソコンとかないのかしら」
いますよね、こういうことを言い出す人!
●「パソコンと言えば国産」
もう悲しいけど、こういうのはなくなりつつありますね。
●ショップブランド
有名メーカーがプロデュースするのではなく、パソコンショップがプロデュースしているパソコンです。
パソコンショップが存在している限りはサポートされますが、突然つぶれたりすると不安ですね。




