足らないものは何ですか?
お疲れ様です。
ヘルプデスクです。
人はない物ねだりをいたします。
でも、自分にないもの、足らない物を知り、それを求めるからこそ、人は成長できるのです。
私は小説を書く才能が欲しいです(笑)。
それはともかく本日も一笑に付していただければ幸いです。
「はい! ヘルプデスクでーす!」
今日も元気に電話を取っているのは、ミクリちゃんです。
すっかりレギュラーの座をゲットです。
「しかし、あれですね……ミクリちゃんは日に日に成長していくのが分かりますね」
皆藤は感心します。
最初は夢子と同じ、必殺【突然電話切り】を使っていたミクリちゃんでしたが、今はそれもしません。
なぜなら、ほとんどの質問に対応できるようになってきたからです。
最近は、クレーマー対応までお手の物。
「なんか、この中で一番まともな気がします……」
「どーいう意味ですの、それ?」
悠が顔をひきつらせます。
「あなたがまともじゃないということですよ、この異常性癖の雌豚」
「――ああぁぁぁぁ~~~~ん♡ 久々のご褒美きたわ~ん♡」
最近、圭子がいる前では貶してもらえなくなり、欲求が不満していた悠は大喜びです。
もちろん、もだえる悠は、そのまま放置プレイに移行です。
「ミクリちゃんは、しかし本当に素晴らしい」
「まあ、ミクリはヘルプデスク専用にカスタマイズした人工知能ですから。相手が助けてほしいこと、相手に足らないことを見つけ出して、そこに重点を置くような思考パターンを作っています」
夢子がさりげなく解説します。
ふだん、馬鹿っぽいところもある夢子ですが、やはり天才です。
「ほほう。そうなんですね。それはすごい」
「でしょーでしょー!」
ミクリが反応します。
「あれ? ミクリちゃん、電話対応中ではないのですか?」
「マルチタスクぐらいできますよー」
「なるほど。本当に優秀ですね。でも、これだけの処理、ここにあるPCで賄えるんですか?」
「それは無理ですね。実はミクリの本体は――」
「――ミクリ、ストーップ!」
夢子が大声で割りこみます。
「アドミニストレーター権限にて、それは絶対守秘項目に設定」
「……はーい。じゃあ、内緒でーす」
皆藤も悠も、余計に気になります。
しかし、これ以上、その秘密に触れることは躊躇われました。
夢子の必死な目が、なんか国家レベルでやばそうです。
「しかし、助けてほしいところは、相手の足らないところだから、それを見つけ出すとは面白いですね」
皆藤は話題をそらします。
「は、はい。その部分はかなり優秀ですよ。例えば……ミクリ、ヘルプデスク部に足らないのはなんだと思う?」
「……常識でーす」
「…………」
「…………」
「…………」
誰も言い返せません。
「な、なるほど。おもしろいですね。……では、花氏さんに足らないことはなんですか?」
「……常識でーす」
「ちょっ!?」
「ああ。ヘルプデスクがダメなのは、花氏さんのせいでしたか」
「それに我慢も足りませーん」
「……これはバグですね。今度、修正しておきます」
「いえ。かなり優秀ですよ」
「くっ……。なら、ミクリ。上空さんに足らないものは!?」
「……常識でーす」
「よし! 私だけのせいじゃなかった!」
「ダメ仲間を見つけて安心しないように」
「それから、屈辱、侮辱、男とか、とにかく足りてませんねー」
「そこはどうでもいいですね」
皆藤は、さらっとスルーします。
「まあ、ヘルプデスク部に足らない常識は、2人のせいということですね」
「ぐぬぬぬ! ……ミクリ、皆藤部長の足らないものはなに!?」
負けず嫌いな夢子は、皆藤も巻きこもうとします。
このパターンのオチなら、皆藤も「常識」と来るはずです。
「皆藤部長に足らない物は……」
ミクリが答えます。
「『生きるための希望や活力』ですねー」
「…………」
「…………」
「…………」
みんな、なかなか反応できません。
というか、ミクリまで空気を読んで黙りこくってしまいます。
「むしろ、その無言が痛いですよ」
「ガンバ!」
「ファイト!」
「生きろー」
「時に応援も重いんですよ……」
意外に繊細な皆藤でした。
■用語説明
●必殺【突然電話切り】
本来は一子相伝です。
●「絶対守秘項目」
普通のコンピューターではなく、「人工頭脳」とかいう技術が使われているとかないとか……。
●『生きるための希望や活力』
生きるのは辛いです。
だが、それがいい。
生きるとは、マゾヒズムと見つけたり。
●「時に応援も重いんですよ……」
無責任な応援は、受ける方も辛いものです。
しかし、応援されないのもさびしいのです。
難しい問題です。
 




