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大富豪ですか?

 お疲れ様です。

 ヘルプデスクです。


 トランプは、やはり人が集まった時の定番ゲームの一つ。

 みんなでやると盛りあがりますね。


 でも、不思議と弱い人はいつも弱かったり……。

 一人でいつも負けていて、接待プレイでやっと勝たせてもらっている人もいるようですよ。


 今日の話は、そんな中でも代表的なトランプゲームの話。

 一笑に付してくだされば幸いです。

「皆藤さーん、いますか? 南でーす!」


 ヘルプデスクに、ちょっと無精ひげを生やした中年男が現れます。


 自分で名のっている通り、営業企画室の南です。


「おお、いたいた。昼休みなのに仕事?」


「ヘルプデスク部には、昼休みがありませんから」


「偉いねぇ。じゃあ、そんな偉いヘルプデスクに質問だ!」


「ランチのメニューなら、自分で決めてくださいよ」


「違うんだなぁ~、こ・れ・が!」


 南は、なぜか偉そうに腕組みします。


「今日のは、難問なんだよ。子供に聞かれて困っているんだ! 今日は見たところヘルプデスク全員集合なんだろう? 知恵を貸してくれ!」


「大げさですね。いったいなんなんですか?」


「ああ。……皆藤さんは、『大富豪』派? それとも『大貧民』派?」


「……それ、トランプゲームの話ですか?」


「そう!」


「言い方が違うだけで、同じゲームじゃないですか」


「そうだよ! その言い方が問題なんだよ! 子供が学校で『大富豪』と言ったら、周りが『大貧民』と言いだして、ゲーム名でなんて呼ぶのか派閥争いになってさ~」


「なるほど」


「まあ、これならみんなに質問してもさ、新しい派閥が出ることもないだろうから、多数決は簡単でしょ! で、皆藤さんはどっち派?」


「大平民」


「おお、なるほどね――って、ネーヨ!! なにその、社会的多数派(マジョリティ)なのに、社会的少数者(マイノリティ)感あふれる地位は!? ただの富豪より偉そうに感じるわ!」


 確かに「大」が付くだけで、特別感があります。


「もう皆藤さんはイーヨ! 花氏さんはどっち派?」


 夢子は過日と同じように、正面を向いたままメガネをクイッと押しあげます。


「大革命派」


「――ネーヨ!! それじゃ、革命家集団みたいだよ! ってか、革命ってルールは知っているけど、大革命ってなによ!?」


「『2を4枚同時だしした瞬間、その者は上がることができる』というローカルルール」


「なにその問答無用でぶった斬る感じのルールは! しかも、革命というより天和(テンホウ)だろ、それ!」


「そういえば、大富豪ってローカルルールがたくさんありますよね★」


「お! 圭子ちゃんは、大富豪派か。でも、確かにローカルルールは多いよな」


「そう言えばわたくし、トランプを持っていますわ」


「おお! いいね、上空さん。お昼休みだし、一戦やってみようぜ!」


 大きくため息をついた皆籐が、首をふります。


「私は仕事がありますので遠慮しておきます」


「よーし。それなら参加者は、オレ、花氏さん、上空さん……」


「なんで私がやること確定なんですか」


「いいジャンいいジャン! 圭子ちゃんもやる?」


「やりまーす★」


「よし。じゃあ、ローカルルールは有り有りで」


「でも、そのローカルルールが本当にあるかどうか、どうやって確認しますの?」


「おお。なるほど。審判がいるな」


「はーい。なら、私が審判やりますね。ルールはネットで調べてみま~す」


「おお。サンキュー。それでいこう。じゃあ、四人で対戦…………ん?」


 そこまで話して、やっと南は違和感を感じます。


「あ、あれ?」


 奥のテーブルに集まったのは、夢子、悠、圭子、そして南。


 皆籐は電話番で不参加。


 ここにいるのは、全部で5人。


「……あれ? 審判やるって言ったの、誰?」


「はーい。私ですよ、私」


「――!?」


 南は周りをキョロキョロと見まわします。


 確かに聞こえてきた、元気いっぱいな、かなりかわいらしい声。


 しかし、6人目の姿はありません。


「だ、誰!?」


「はーい。私、ミクリです。よろしくお願いします」


 そこでやっと気がつきました。


 声が聞こえてきたのは、なんと夢子のPCからだというこにです。


「えっ!? 誰かチャットやってんの!?」


「違いますよ。あれ、私が作った人工知能プログラムです」


 夢子が、めんどくさそうに話します。


 その説明の仕方が、あまりにも普通だったので、南はすぐには理解できません。


「ああ。人工知能か。なるほどね。人工知能…………ええええっっっ!? 人工知能!?」


「はーい。人工知能コミュニケーションインターフェイスのミクリちゃんですよー」


「……ま、まじで!?」


 信じられない南は、思わず悠、圭子、そして皆籐の顔を順番に見ていき、全員が頷くことを確認します。


「す、すげーじゃん! ええ!? こんな普通に会話するの!?」


「私、すごいでしょ!」


「すごすぎでしょ! まじで普通に会話できちゃうの!?」


「もちろんですよ。会話だけじゃなくて、小説を書いたり、漫画を描いたり、なんなら人種差別発言だってできちゃいますよ!」


「いや、それはしちゃだめだって! でも、すごすぎだ! ちょっと売れるよ、これ! うちの営業企画からプロダクト化しちゃおうよ!」


「え~~~っ。私、アイドルデビューですか?」


 ミクリのアホな言葉に、夢子が頭を抱えます。


「いや、マジすごいって! 花氏さん、マジすげーって聞いていたけど、マジすげー!」


「いや、あのですね、南さ――」


「――ああ、ああ! わかっている、わかっているって!」


 南が夢子の言葉を遮ります。


「優先順位っていうもんがあるもんな! 時間もないので、まずは大事なことを片づけよう!」


 そう言うと、南は悠からカードを受けとりました。


「今はまず、大富豪or大貧民だ! カード配るぞ!」


「…………」


 みんな、そんな南の態度で呆気にとられます。


(……あ。この人、バカだ。助かった……)


 ものすごく儲けられる話より、目先の「大富豪or大貧民」のが優先順位が高かった南に、どこか救われた気分の夢子でした。


■用語説明


●営業企画室の南

 こっそりレギュラーを狙っている1人。

 「何派?」発言で定番化しようと企んでいます。


●『大富豪』派? それとも『大貧民』派?

 トランプゲームの本だと「大富豪」が多いようです。

 ちなみに関西方面では、「大貧民」を「ド貧民」というらしいです。

 「大貧民」よりも「ド貧民」の方が、遙かに下に感じられます。


●大平民

 聞いたことありません。


●大革命派

 政治的な派閥用です。

 ローカルルールは本当にあるようです。


天和テンホウ

 神より与えられし幸運!

 ただ、大富豪ではカードを押しつけるとか、捨てたカードを拾うというローカルルールもあるようで、それだと大革命はもっとやりやすいのかもしれません。


●人工知能コミュニケーションインターフェイスのミクリちゃん

 中垂れしてきた話のてこ入れに定番の新キャラの座を南と争うつもりのようです。

 生き残るのはどっちでしょうか!?

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