人工知能ですか?
お疲れ様です。
ヘルプデスクです。
最近、人工知能が人種差別発言をしたとか、人工知能が小説を書いたとか、人工知能話題が多いようです。
ちなみに、人工知能が最も活躍しそうな場は、やはりヘルプデスクなのではないでしょうか。
ただ、皆藤率いる「ヘルプデスク部」の質問対応は難しそうですが……。
人工知能ミクリちゃんとともに、一笑に付していただければ幸いです。
「おはようございます。……あら。花氏さんはおやすみですの?」
悠が出社してくると、そこには皆藤しかいませんでした。
いつも夢子の方が悠よりも早く出社していることが多いのです。
「ああ。花氏さんは風邪を引いたらしいんです」
「あら。でしたら、今日は久々に皆藤さんと2人きりですわね」
「ああ、そうですね。部ができたばかりのころを思い出します」
――ポーンッ!
「おや? 花氏さんからまたメール……ん?」
「どうかいたしまして?」
「いえ、これなんですが……」
悠は皆藤にうながされて、その夢子からのメールを読ませてもらいます。
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お疲れ様です。
花氏です。
ちょっと風邪をこじらせたようなので、数日はお休みをいただくことになると思います。
そこで、こんなこともあろうかと、ヘルプデスク用人工知能型応対ソフトウェア「ミクリちゃん」を作っておきました。
私の情報を基本に調教してあります。
リモートで私のPCを起動し、作動させておきましたので、それである程度は対応できると思います。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
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「こんなこともあろうかとで、人工知能を用意したんですか?」
「さすが、花氏さん。真田さんもびっくりですわね」
――プルルルルッ……
そのタイミングで、電話が鳴り響きます。
が、すぐにベル音が止まります。
「はい。ヘルプデスクです」
なんと、夢子のパソコンから、夢子とは違う、可愛らしい声が聞こえます。
皆藤は電話のモニターランプを確認しました。
すると、夢子の回線が通話中になっています。
彼はあわててモニターを開始します。
〈――でパソコンが動作しなくなってしまって〉
「かしこまりました。それでは問題を切り分けさせていただきますので、お手数ですが質問にお答えいただけないでしょうか」
なんと、パソコンの声が自動対応しています。
そして数分後、見事に問題は解決されました。
その後も、パスワード忘れ、アクセス権付与、さらに福祉施設の案内や、その施設の周りの観光情報までユーザーに案内します。
なんと昼休みになるまで、問い合わせ電話の対応をすべて人工知能が行ってしまったのです。
「……誰も、電話の相手が人工知能だとは気がついていないみたいですね」
「そうですわね。これだけ自然でしたら、わたくしでも騙されますわ」
二人は、すっかり感心してしまいます。
「……でも、これ、やばいですよね」
「ですわね。わたくしたち、不要になりそうですわ」
とうとう、人間の存在意義が問われる時代となりました。
「でも、とりえずは任せておいて大丈夫みたいですし、久々に一緒にランチに行きませんこと?」
「……そうですね。そうしますか」
二人はランチに出かけてしまいました。
その間も、人工知能ミクリちゃんは、黙々と仕事を続けます。
――プルルルルッ……
〈○○というソフトをインストールしてほしいんだけど〉
「使用許可はもらっていらっしゃいますか?」
〈そんなのないけど、急いでいるからとにかくいれてくれよ〉
「申し訳ございませんがインストールできません。許可をもらってから出直してください」
――ガシャン!
――プルルルルッ……
〈うちの息子の厨二病が再発して、今度は目に見えないものが見えると言いだして〉
「再発防止策に関しては、FAQをお読みください。」
――ガシャン!
――プルルルルッ……
〈営業企画室の吉永だけど、営業部フォルダ全体の変更権限を――〉
「だから、あげませんってば」
――ガシャン!
――プルルルルッ……
〈魔王はいるか! 我が名は、【勇者リ――〉
――ガシャン!
皆藤と悠がゆっくりとランチを楽しんで返ってくると、調教者の得意技まで学習していたミクリちゃんが、たくさんのクレームを生んでくれていました。
まだ人工知能にとってかわられないで済むと、自分たちを慰めながらクレーム処理をする二人でした。
■用語説明
●ヘルプデスク用人工知能型応対ソフトウェア「ミクリちゃん」
ベースのソフトは、第16話で作られたソフトのようです。
●「真田さんもびっくり」
宇宙船で旅をする偉大なる発明家。
いついかなるときでも、ありとあらゆる事象を推定して、対策を立てている天才です。
●「厨二病が再発して」
第3話参照。
●営業企画室の吉永
第33話参照。
●「我が名は、【勇者リ――」
第41話参照。
読者の要望でレギュラー化めざして再登場。
でも、まずなれません(笑)。
 




