勇者なのですか?
お疲れ様です。
ヘルプデスクです。
しばらく書くのを休もうかと思ったのに、ついつい書いてしまいました。
読んでもらえると思うと、休みたくなくなるものですね。
本日は、異世界からの質問です。
一笑に付していただければ幸いです。
他のメンバーは仲良くランチに出かけてしまい、皆藤が一人で留守番です。
ひさびさに、静かにまったりです。
――プルルル……
しかし、お客様は、待ってくれません。
「はい。ヘルプデスクです」
〈……貴様、まちがいない! 魔王だな!〉
突然、怒声に近い決めつけです。
「……いいえ、違います。普通の村人Aです」
たまには、皆藤も言います。
〈ふっ……。貴様からあふれる魔力が、この電話口からも伝わってきているぜ!〉
魔力は電送できるそうです。
これでノーベル賞はいただきです。
「……えーっと、ナンバー0153256……サポート契約なさっている山田様ですね。お世話になっております。お問い合わせ内容をどうぞ」
〈ふっ……。山田というのは、貴様と話をするための仮の名。我が名は、【勇者リュウ】だ!〉
「かしこまりました。勇者リュウ様、ご質問内容をどうぞ」
〈お、おう……〉
皆藤の必殺技【平常運転】に、勇者も押されます。
〈ごほんっ……。実は、我は今、大魔王ヌーブラと戦っている〉
「……目立たなそうな方ですね」
下着とは違います。
〈だが、なかなかの強敵で手こずっている。そこで異世界ながら、同じ魔王に聞きたい。ぶっちゃけ、魔王の弱点ってなんなのだ?〉
「……随分と直球ですね」
〈勇者りんりん直球勝負! 自分、不器用ですから!〉
なにか妙なノリの勇者です。
「しかし、私とその大魔王ヌイダラと同じ弱点とは限りませんよ」
〈脱いでない! ヌーブラだ! ……もちろん、わかっている。参考でいいのだ〉
「じゃあ……女子中学生とか?」
〈お、女をおとりにするというのか!? 貴様、悪魔か!?〉
魔王相手に、この勇者は何を言っているのでしょうか。
「とは言われましても……。そもそも、そういうヒントは、途中で仲間になる賢者とか、そういうのが教えてくれるものじゃないのですか?」
〈…………〉
「……どうしました?」
〈……死んじゃった〉
「あっ。それは失礼しました。魔王軍にやられてしまったのですね」
〈あ、いや。老人の癖に欲張った食べ物をのどに詰まらせて、そのまま……〉
「……随分と、ベタな死因ですね」
魔王とは関係ありませんでした。
「では、お仲間を集めて力を合わせて……」
〈女魔術師は戦士との間に子供ができたと言って、産休で二人そろって村に帰った〉
「……よく、みんなで旅の中、家族計画を進めましたね」
〈狩人は、木から落ちて死んだ……〉
「……狩人も木から落ちる」
〈シーフは、盗みで牢屋に……〉
「……足洗ってなかったんですか」
〈ギャンブラーは、借金取りに追われて逃げだした……〉
「……弱いなら、ギャンブル辞めなさい」
〈風水師は、霊感商法で追われる身に……〉
「……ろくな仲間がいませんね」
〈うん。あとは、ちょっと怖い、姫騎士が残っただけ……〉
話しているうちに、意気消沈し、口調まで変わってきてしまっています。
「それならば、魔王を倒すための、伝説の聖剣とかないんですか?」
〈あったよ……〉
「なら、それを使えば……」
〈抜けなかったの……〉
「え?」
〈勇者しか抜けない聖剣のはずなのに……抜けなかったの〉
「そ、それはまた……」
これがもし夢子あたりだったら、ズバッと「あんた、勇者じゃないよ」と言ってしまったところでしょう。
しかし、そこは皆藤。
それが、相手を殺す最終兵器であることはわかっています。
「では、異世界から仲間を召還してみたらどうですか? 今ははやりみたいなので、きっとすごいチート能力を持った仲間が来てくれますよ」
〈……山田 竜太……〉
「……え?」
〈ぼくの名前。ぼくが召喚された勇者なの……〉
「……ああ。なるほど」
〈…………〉
「…………」
〈…………〉
「……【悲報】あなた、詰んでますよ」
〈だよねー!! うわああぁぁぁーん!!〉
勇者、半泣き状態です。
〈なんで、あの大魔王、女のくせにあんなに強いんだよ! チートだよ、チート!〉
「ん? その大魔王ヌイダラ・スゴインデスは女なんですか?」
〈パ、パワーアップした!? 第二形態!? ……いや、まあ、確かに脱いだらすごそうな絶世の美女だけど〉
「……なるほど。わかりました。口説きましょう」
〈く、口説く!? どうやって!?〉
「そんなの『出会った瞬間から好きになっていました。結婚してください』で構いません」
〈そ、そんな……。確かに出会った時に、すごい美人だなとは……〉
「それは運命です。それにもう、あなたにはそれしかありません」
〈で、でも、ふられたら……〉
「ふられることを恐れたら、前に進めません。それに最近の女魔王の流行は純情派。意外にいけると思いますよ」
〈で、でも……〉
「あなたは勇者――勇敢なる者です」
〈――!!〉
「自信を持つのです。昔のヒーローが言っていた、自信がつく言葉を教えましょう」
〈そ、それはなんですか!?〉
「……屁のツッパリはいらんですよ」
〈おお! 言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だ! ……うん、ありがとうございます! なんか、根拠のない自信がわいてきました!〉
どこからわいてきたのでしょうか。
それ、わいてきてはいけないもの……ではないでしょうか。
しかし、勇者はしきりにお礼を言いながら、「がんばります!」と言って電話を切りました。
「戻りました~」
そこに、夢子、悠、圭子の3人が戻ってきます。
そして、悠が皆藤の顔を覗きこみました。
「あら。皆藤さん、なにやらお疲れですの?」
「いえね、選ばれた人もいろいろ大変だなと。私は普通でよかったな……と思いまして」
「…………」「…………」「…………」
それはどうだろうと、心の中で否定せずにはいられない三人でした。
■用語説明
●ノーベル賞
ダイナマイトの発明者として知られるアルフレッド・ノーベルの遺言に従って1901年から始まった世界的な賞です。
●必殺技【平常運転】
少なくとも表面上、まったく動じません。
内心は別です。
●ヌーブラ
あれ、すごくよさそうですが、特に夏など外した時、中に大量の汗玉ができていて大変なんですよ。
●「勇者りんりん直球勝負」
似たようなことをプリキ○アが言っていました。
●「自分、不器用ですから」
高○健さんが言うからかっこいいのだと思います。
普通の人が言ったら、「なに不器用なこと自慢してんの?」とか言われそうです。
●「女子中学生とか?」
それは弱点ではなく好きなものでは?
●「屁のツッパリはいらんですよ」「おお! 言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だ!」
キン○マンですね。
今考えても、本当に意味が分かりません。




