情シスですか?
お疲れ様です。
ヘルプデスクです。
なんと評価が100ポイント超えてしまいました。
本当にありがとうございます。
しかし、満点をもらえていない評価もうかがえます。
つまり、まだまだ笑いが足らいということでしょう。
この状況に慣れないようにし、目のつけ所がシャープになるよう、いつもサムシングニューで精進したいと思います。
本日も残業で少し遅くなりましたが、また一笑に付していただければ幸いです。
「では、本日の朝礼を始めます。まず、重要なお話から……」
自分の席に座っている夢子と悠の顔を確認してから、皆藤は続きを話し始めます。
「これはまだ、部外秘にしていただきたいのですが……」
そこまで言った皆藤が、なぜかそこで言葉を止めます。
そして突然、壁際の棚の隙間に手を入れたかと思うと、長い棒状の物を手に取りました。
普通のオフィスにあってはならないもの……槍です。
「ふんっ!」
皆藤が天井をいきなり、槍で突きます。
槍の刃が軽々と天井を貫きます。
天井の材質、いったい何でできているのか不思議になるぐらい軽々です。
「……かすった。逃げられましたか」
まるで何事もなかったように槍を抜くと、皆藤は槍を戻しました。
「――って、なんですか、今のは!?」
夢子が思わずツッコミますが、皆藤はいつも通りです。
「ああ。気にしないでください。ただのネズミですから……」
「い、いやでも…………まあ、いいか……」
夢子もだんだん慣れてきました。
そのうちだれもツッコミ役がいなくなってしまいそうな予感です。
それは、話的に困りますので、夢子にはしっかりとツッコミしてほしいところです。
その後、朝礼は何事もなく終わり、みんなが通常業務に戻ったぐらいのタイミングでした。
――コンコン
ドアもないのに、ヘルプデスクコーナーにノック音が響きます。
ヘルプデスク全員の視線が集まった先には、一人の長髪の男が棚に寄りかかりながら脚を組んで立っています。
どうやら彼は、後ろ手に棚をノックしたようです。
「失礼するよ、ヘルプデスクの諸君」
「ああ、お疲れ様です。平山さん」
迎えた皆藤に、平山は鼻で笑って答えます。
「ふっ……。平山か。それは仮の名だが、まあいいだろう」
また、よくわからない人物が登場しました。
彼は目にかかった長い髪を「フサッ!」という音をさせながら横に流します。
「なにか今日は、IT部のご用ですか?」
「IT部ではない! 君は何度言えばわかるんだ!」
唐突に、烈火のごとく平山が怒りました。
夢子は驚きますが、悠や皆藤はヤレヤレ顔です。
「私は、情シス……情報システムの人間だと何度言ったらわかるのかね!」
「何度も言い返しますが、情報システム室は、IT部のいちチームですよね?」
「冗談ではない! IT部のようなITにおんぶにだっこの連中と一緒にしないでくれたまえ!」
「あいかわらず、大前提を否定しまくりですね」
「ふん! その上から見た言い方、君こそ相変わらずだな。だいたい、なんで我々、栄光の情シスがチームで、ヘルプデスクが部扱いなんだ」
「まあ、普段の行いでしょうか」
「ふざけたことを。我々、情シスの構築した情報収集システムがなければ、この会社は回らないというのに……」
「それはいいんですけどね、平山さん」
そう言うと、皆藤は彼の左上腕をつかみました。
とたん、苦痛に顔をゆがめて、平山は腕を引き抜きます。
「なっ、何をするんだ!」
「さっきの傷ですよね、その腕。……情報収集のためといって、屋根裏に潜むのはやめていただけませんかね」
「な……なんのことかな……」
――ドンッ!
恍ける平山に、皆藤の壁ドンがさく裂しました。
「なっ……なにをするんだよぉ……」
なぜか顔を赤らめてうつむき加減の平山に対して、やはり無表情の皆藤です。
一方、いかずちの速さで、鼻息を荒くした悠がカメラを構えて連写します。
「あまりバカなことしないでもらえますか? 天井の修復代も馬鹿になりません」
「バ、バカなことだと! 伝統ある伊賀の諜報術を!」
「伊賀か、甲賀か、ウゴウゴ○ーガか知りませんが、とにかくやめてください。そうしないと、そろそろ仕留めますよ」
「ふん。よく言う。今日だって、本気で私を殺そうとして殺せなかったのだろう?」
「あ、わかりましたか。かなり本気で狙ったんですけどね」
「――やっぱり! マジやばかったんだからな! 死んだらどうすんだよ!」
「いや、だから殺る気マンマンだったんですよ」
「こわっ! マジ怖いわ、おまえ! 友達殺すわけ!?」
「え? 友達? ……ああ、友達ですね、友達」
「うわっ! ヒド! くそっ……覚えてろ~~~!」
平山は、速いです。
残像を残すほどの速度で走り去りました。
鼻声交じりの「覚えてろ」がなければ、本当に忍者のようです。
「えーっと…………。彼についての説明、いりますか?」
呆気にとられている夢子に、皆藤が訊ねます。
すると、夢子は手を前にして、皆藤を止めました。
「いえ。長くなったので、次回でいいです」
作品を思いやるほど慣れてしまった夢子でした。
■用語説明
●槍
皆藤の持っているのは、ランスというより矛のようです。
●「天井の材質」
普通のオフィスですと、ぶち抜くのはかなり大変だと思われます。
●「平山か。それは仮の名だが」
……あ。
真の名を名乗らせるのを忘れていましたね。
●IT
「インフォメーションテクノロジー」=「情報技術」という意味です。
昔、「いて」と読んでいる人が本当にいましたが、「アイティー」と読みましょう。
●情報システム
情報システム部とIT部が同じものを示す場合も多いです。
この会社は、なぜ別れているのか……そのうちわかるかもしれません。
わからないかもしれませんが。
●壁ドン
甲賀流忍術「壁ドン」。
相手を怯ませます。
●「伊賀か、甲賀か、ウゴウゴ○ーガ」
どれが強いかと言われれば、ウゴウ○ルーガではないでしょうか。
そのほか、根来、柳生、葉隠……いろいろあります。
皆藤も昔、甲賀流忍術を学校の授業で習ったとのうわさです。
ウゴウゴ○ーガは、ちなみにテレビ番組で忍術とは一切関係ありません。
●「次回でいいです」
次回、IT部の全貌が明らかに!
……なるかもしれませんが、ならないかもしれません。




