ジェネレーションギャップですか?
お疲れ様です。
ヘルプデスクです。
熱もかなり落ちついてきました。
先に熱が下がった子供達は、うるさいので古いアニメを見せていましたが、ジェネレーションギャップもなく楽しんでおりました。
さて、今日も一笑に付していただければ幸いです。
ヘルプデスクのある一角は、少し隔離気味になっています。
オフィスの端の方で、棚に区切られてまるで一室のようです。
「すいませーん」
そこに珍しく、人が顔をだします。
「ちょっと借りたいものがあるんだけど……」
五〇代ぐらいの男性は、ヘルプデスクの中をキョロキョロとしながら声をかけていました。
しかし、その誰か対応してくれないかというような視線を受けるも、ほとんどが電話応対中です。
唯一、手が空いていた圭子が席を立ちます。
「はい。なんでしょうか」
「ああ、君が噂の美少女メンバーか。うんうん。かわいいね」
「あ、ありがとうございます。てへへ★」
おじさんは、そろって美少女には弱いようです。
「おっと、そうだ。私は、経理部の菅野です。悪いんだけど、フロッピードライブを貸してくれない?」
「…………はい?」
「フロッピーディスクドライブだよ。USB接続できるやつ。いやさ、昔のデータを読む必要があってさ。今のPCってないからねぇ」
「……はあ……」
「……あ、あれ? も、もしかして、フロッピーディスクって知らない? データを保存するメディアなんだけど」
「あ。USBメモリーみたいなものですか?」
「いや、あの、もう少し平べったい……」
「ああ! SDカードみたいなのですか!」
「…………」
「す、すいません。勉強不足で……」
「あ、いや……むしろごめんよ……私が古いんだな……」
これ以上放置すると、お互い心に傷が残りそうです。
慌てて電話が終わった皆籐が割ってはいります。
「菅野さん、これね。フロッピーディスクドライブ」
無事にフロッピーディスクドライブを受けとって、菅野は少し暗い顔で戻っていきました。
そんな彼を皆籐が見送ります。
「うーん。ジェネレーションギャップを感じさせてしまいましたかね……」
「圭子ちゃんって、フロッピーディスクって知らないの?」
電話が終わった夢子が尋ねます。
「はあ。見たことないです……」
「データ保存するのに使ったり、データ受け渡しに使ったりするのに、昔はそれがメインだったんだよ」
「私は基本的にクラウドを利用するので……」
「そうだよねぇ。今はネットワークが当たり前だから。でも、昔はネットワークがあることの方が珍しくってね」
「そうなんですねぇ」
「うん。メディアもMOとか、ZIPドライブとかいろいろあったし」
皆籐も夢子の話を聞いて、横で「そうそう」とうなずきます。
「ありましたね。PCMCIA規格とかのフラッシュメモリーカードとかありましたね。未だに一部のデジカメでは残っていますが」
「ぜーんぜん、わかりません……」
「あはは。石野さんの年齢だと仕方ないですね」
皆籐の言葉に、今度は逆に夢子が相づちを打ちます。
「そうですね。ジェネレーションギャップですよね。他にも、5インチや8インチのフロッピーディスクとか。そう言えば、紙テープで目視読み取り競争とかよくやりましたよね。半鑽孔テープになったらできなくなりましたけど」
「ええ、そうそう。よくやりま――って、やりませんよ、そんな遊び。そんな遊びどころか、花氏さんの時代的にテープはほぼないですよね?」
「あれ? ジェネレーションギャップですかね?」
夢子がすっとぼけたことを言います。
「いやいや。それなら逆でしょう。というか、あなたの年齢だともう、8インチフロッピーどころか、MOやZIPだってあやういはず……」
「そうでもないですよ。QDとか、バブルカセットとか」
「いや、それ、私も知りませんけど……」
「ジェネレーションギャップ?」
「いや、マニアすぎるだけです」
「でも、やはり味があるのはカセットテープですよね」
「そこまで行きますか……」
「カセットテープなら知っています!」
会話に入れるのが嬉しいのか、ニコニコと圭子が挙手します。
「昔の人が音楽を聴くのに使っていたという伝説の機械ですよね!」
「で、伝説にするには、まだ早いですよ……」
皆籐もジェネレーションギャップで多少、ダメージを受けてしまいます。
「でも、カセットテープが今の話と関係あるんですか?」
「あるわよ!」
今度は夢子が喜々として立ちあがります。
「カセットテープにね、プログラムを音として録音出来るのよ。ファックスの送信の時に、ピーガーって音が聞こえてたりするの知ってる?」
「あ、はい」
「あんな音をカセットテープに録音しておいて、それを再生することでプログラムを読み取ることが出来たのよ」
「ええ! そ、そんなすごいことができたんですか! ハイテクですね!」
「……言われてみると、ローテクなんだけど、ハイテクに聞こえるわね。テレビの副音声でプログラムの音を流して、それを録音してプログラムをロードできたりしたしね」
「す、すごいです!」
「まあ、でも昔は普通だったのよね。私が幼い頃は、学校でも毎日、このピーガーという音を聞いて内容を理解する練習をさせられてね。最初はよくわからないけど、そのうちシーケンシャルファイルか、ランダムファイルかの区別がつくようになったり、中学生ぐらいになると音を聞いただけでプログラムを手打ちで入力できるようになったものなのよ」
「うわあ~★ ジェネレーションギャップですぅ!」
「……【世代】じゃなく、【世界】レベルのギャップではないですか、それ」
夢子の嘘に冷静に突っこむ皆籐でした。
■用語説明
●フロッピーディスクドライブ
最も歴史のある記録メディアと言えます。
多くのサイズがありますが、有名なのはやはり3.5インチと呼ばれるサイズでしょう。
逆に8インチのような大きなサイズは、一般人が触ることのない伝説のメディア媒体かもしれません。
8インチのフロッピーディスクを触ったことのある人は、伝説の武器の所有していた勇者のように周りに誇って良いかと思います。
きっと誰も理解してくれないと思いますが……。
●USB
この規格が出た当初、認識しない、安定しないと、「なんてだめな規格なんだ/(^o^)\」とみんな思っていたことでしょう。
今でこそ広まっていますが、考えられないほどの評価の低さでした。
まあ、今でも5V電源規格としての方が有効な気がしますが。
●SDカード
ガンダムの「ガチャポン戦士」をやっていた人は、きっと「SDカード」を「スーパーデフォルメカード」だと思ったことでしょう。
●MO
「モウ」とかアイスのような読み方ではなく、「エムオー」と呼びましょう。
光磁気ディスクのことです。
大容量媒体としては、けっこうがんばった方です。
ただし、日本ではですが。
●ZIP
圧縮ファイルの拡張子とは別物です。
アメリカで開発されて、それなりに流行ったメディアです。
MOをよりアクセスは速かったですが、日本では逆に流行りませんでした。
●PCMCIA
昔のノートパソコンの多くについていた、カード型の追加デバイス用インターフェイスの規格です。
(※正確には【当初は「PCMCIAカード」「PCMCIAスロット」などと呼ばれたが、1993年に規格の統一呼称として「PCカード」が制定されたため、「PCMCIA」とは規格策定団体を指すようになった。】wikipedia抜粋……とのことです)
昔のノートは、これがないと未来がないようなイメージさえありました。
大袈裟ですが。
●フラッシュメモリーカード
今のSDカードとサイズや容量や速さ以外、大差ありません。
……書いてみたら、意外に大差ありますね。
●紙テープ/半鑽孔テープ
科学特捜隊とかが使っていた気がします。
穴が空いたテープが、無駄なランプのついたコンピューターから吐きだされるシーンはよくあったと思います。
詳しくは、ググってみると楽しいかも知れません。
ちなみに記録メディアとは、ちょっと違うかも知れません。
●QD
「クエストドラゴン」で「ドラゴンクエスト」のパクリ商品です。
嘘です。
クイックディスクというフロッピーディスクの一種で、ファミリーコンピュータ・ディスクシステムで利用されていました。
●バブルカセット
伝説の富士通製パソコン「FM-8」の右上に搭載されていた、謎の窪みに入れると言われていた、まさに伝説のメディア。
しかし、それはあくまで伝説で、その窪みは灰皿だというのが定説です。
●カセットテープ
カセットテープに入っているアドベンチャーゲームをやるのは、かなり根気が必要でした。
なにしろシーンを移動する度に、コーヒーを入れて一息ついて、トイレにいって戻ってくるぐらいの時間がかかるのですから……。
そして、やっと話が進んだのに、途中でエラーになってゲームが進まなくなるなんて言うことが日常的にあったのです。
●「テレビの副音声でプログラムの音を流して」
「パソコンサンデー」とかでやっていました。
当時はパソコン入門のテレビ番組がいくつかあり、「コンピュートナイト」とかよくわからない主旨の番組もありました。
●「シーケンシャルファイルか、ランダムファイルかの区別がつくようになった」
これはすぐに聞き分けることが出来るようになります。
できれば、友達に自慢できますよ。




