目指す未来はなんですか?
おはようございます。
ヘルプデスクです。
本日は日曜日。
皆さんは、いかがお過ごしですか?
本来、ヘルプデスクはおやすみなのですが、バレンタインデーのチョコの代わりに笑いをお届けさせていただきます。
チョコに関係ない話ですが、一笑に付していただければ幸いです。
皆藤に対するイメージがかなり変わった夢子でしたが、上長であることには変わりません。
皆藤の命令通り、圭子の面倒を見ることになりました。
「お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします、花氏さん」
「いえ、私も新人ですから、仲良くやりましょう」
深々と頭を下げる圭子に、思わずつられて夢子も頭を深々と下げます。
それを見ていた皆藤が、抑揚なく笑います。
「あはは。どうして二人で緊張しているんですか。……石野さんと花氏さんは、たぶん通ずるものがあると思いますので、仲良くなれると思いますよ」
「通ずるもの……ですか?」
そう言われても、夢子には思い当たることがありません。
相手は中学生ですから、通ずるものよりも、ジェネレーションギャップのが気になるぐらいです。
「はい、ありますよ。前に、石野さんは医学の専門家だとお話ししたでしょう?」
そう言えばと、夢子も思い出します。
しかし、彼女は中学生でしたから、その話とは頭の中で結びつきませんでした。
「石野さんは、その業界では有名な天才外科医なんです」
「…………はいっ?」
夢子は皆藤の言うことが理解できません。
皆藤は、いったいなにをほざいているのでしょうか。
「彼女は医師免許こそないものの、天才外科医の父の跡を継ぎ、医学の道に入り、今では闇の天才外科医として名を馳せているのですよ」
「もう、そんな天才、天才言わないでくださいよ。そんなたいしたものではないんですから。照れちゃいますよ、えへへ★」
「なに言っているんですか、たいしたものですよ。ねえ、花氏さん」
「……い、いや、たいしたものというか、えらいこっちゃというか……ってか、中学生ですよね!? あり得ないでしょ! 闇の天才外科医って……ブラックジ○ックですか!?」
「いえ、違いますよ。彼女は、七つの高難易度な手術を危険な橋と承知しながら挑戦し、それを見事に成功させたのです。そのことから、彼女は【セブンブリッジ】と呼ばれ、その名は古より伝説として語り継がれています」
「語り継がれるほど長く生きてないでしょう!?」
「なに言っているんですか。花氏さんも闇の天才ハッカーとして、太古の昔から語り継がれているらしいじゃないですか」
「太古の昔っていつですか!?」
「まあ、二人とも闇を背負うもの同士、話が合うのではないですか?」
「……少なくとも私は、そんな重そうなもの背負ったつもりはありませんので」
「またまたご冗談を。若干3才でペンタゴンのシステムを乗っ取り、その後に内閣調査室と契約するも、あまりに強大なその力は、国家レベルの驚異とされ、封印の腕輪にて、その能力を封じられし、伝説のハッカー……それが、ハンドル名【酔生夢死】、花氏 夢子。他のハッカーの追随をゆるさない絶対王者は、現役を退きレジェンドとなったという……」
「……一部、私が初めて知る設定があるんですけど……」
一部と言うことは、いったいどこまでが本当なのでしょうか。
「というか、その中に国家機密レベルのことがあるんですが、どうして皆籐部長が知っているのですか?」
「え? 派遣会社の職務経歴書に記載されていましたよ」
「…………」
皆籐がつきあっている派遣会社は、どこも一癖も二癖もあるようです。
「……すごい……すごいですね、花氏さん! 伝説のハッカーさんだなんて初めてお会いできました!」
圭子が目をぱっちりと開き、キラキラさせながら夢子を見つめます。
「レアです★ そんなすごい方と、なかなかお会いできるものではありませんよね!」
「……いえ、貴方の方が1,000年生きていても、遇えるかどうかわからないようなレアキャラだと思うけど」
「いえいえ。私なんてたまたまですよ、たまたま」
「たまたまで外科医になれるなら、医大なんていらないでしょ……」
「いりますよ! 免許とるには勉強も必要ですから。わたし、まだ無免許なので見つかると大変なんですよぉ~。だから、収入があっても隠さないといけないし」
「……下世話なことを聞いちゃうけど、やっぱり闇の天才外科医の手術代とかって高いんでしょう?」
「そうですねぇ。1M単位でしか話さないのは確かですね。あっ! 闇のハッカーさんのお仕事も高そうですね」
「そうね。やっぱり1M単位で話すわ」
「ああ! おそろいですね★」
「私は社会勉強的にここに来たけど、石野さんはなんでここに?」
「あ、はい。私の父が医者の不養生で死んでしまって、その病院を継いだのですが、その病院を維持するのにお金が必要で。でも、闇のお金なんて使えませんから、ここで稼ごうかなと思いまして」
「そうなんだ。なかなか大変そうねぇ」
「そんなことないですよ。ここ給料が飛び抜けて良いですから。それに困った人を助ける仕事はやりがいもありますし」
「そうか。……じゃあ、お互いにがんばりましょう。まずは電話の取り方から教えますね」
「はい!」
明るくうなずく圭子を見て、皆籐が満足そうにうなずきます。
これでまた、ヘルプデスクはより多くの方々を助けられることでしょう。
「……皆籐君」
と、満足そうにしている皆籐の背後から、男の野太い声がかけられました。
皆籐が振りむくと、そこにはスキンヘッドの強面が立っています。
「あ。幸﨑専務。お疲れ様です」
「うん。お疲れ様。で、ちょっと後ろで話を聞いていたのだがね」
「……どのへんからでしょう?」
「『通ずるものがある』あたりからだが」
「はあ……」
その話を横で聞いていた夢子に緊張が走ります。
これは、完全にお説教パターンです。
「君はこんなメンバーを集めて、ヘルプデスクをどうしたいのかね?」
至極まともな質問です。
夢子は「私はともかく他のメンバーは問題あるしなぁ」と、自分のことは棚の上で心配します。
「ふふふ。それはもちろん……」
しかし、皆籐が無表情のまま不敵に笑います。
「もちろん…………優勝を目指します!」
「――なんのですか!?」
ほぼ反射的に、夢子は横からツッコミを入れてしまいました。
(やば……)
それをまずいと思いながらも、夢子は専務の顔色を横目でうかがいます。
途端、専務の目が、これでもかというぐらい、カーッと見開いたのです。
そして、その手が皆籐の両肩をポンッと叩きます。
「さすがだ! それでこそ、私が見込んだ男だ、皆籐君! ぜひ優勝を目指してがんばってくれたまえ!」
「はい、専務! おまかせください! まずは全国制覇! そしてワールドカップに向けてがんばります!」
無表情のまま迷いなく未来を見すえる皆籐の視線を見て、「突然、トーナメント戦とか始まるジャンプ展開はないよね」と、夢子はよけいに不安が募るのでした。
■用語説明
●ジェネレーションギャップ
これが少ないと、若い奥さんをもらえる年の差婚とかしやすいので、減らすように心がけると良いでしょう。
●「ブラックジ○ック」
説明はいらないでしょう。
●「セブンブリッジ」
役を作るゲームです。
けっこう複雑なルールなのでググって調べてください。
●「酔生夢死」
略して、DOD。
彼女にハックされた相手は、「まるで悪い夢でも見ていたようだぜ、アッハー!」と口をそろえて言う。
だが、その真価が発揮されるのは、封印の腕輪を外した時らしいが、誰もその姿を見たことがないという。
●「1M」
M=メガ=10の六乗=100万のこと。
●「ここ給料が飛び抜けて良い」
とんでもない時給のようです。
巷の噂によると、1年働くと郊外に4LDKの家が買えるそうです。
もちろん、そういう所に就職したいという願望の表れにすぎません。
●「ジャンプ展開」
まったく戦う話でも何でもないのに、人気がなくなると、ライバル、友情、敵などをだして、戦い(トーナメント戦)展開に持っていって人気を稼ごうとする手法です。
この展開になると、主人公の強さがインフレを起こします。
強さのバブル経済です。
波に乗れなかったキャラクターたちは、戦いの舞台ではなく、応援席に回されることになります。
せつないです。
だから、PVやポイントが少なくとも、その展開にする予定はありません。
 




