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ちょっと転生させてみた

作者: 夜山 楓

 私は今、ネット小説にはまっている。

特にはまっているのがVRモノと転生モノ。

VRは無理だけど転生モノなら実現可能な地位にいる。

だからちょっと転生させてみる。


 一人目は彼。求人中無職な三十路男性。お気に入り小説が私と被る被る。

なので、メッセージを送ってみた。

『剣と魔法の中世的な世界の神様やってんだけど、転生してみない?』

そして、返信がこれだ。

『やれんならやるけどよ。痛いのとか嫌だし、召喚待ち。てか、お前だれよ』

『だから、神様だって。痛くなかったら転生するの?』

『おう。するする』

『じゃあ、やってみよう!』

そうして、彼を亜空間へと引きずり込む。


 雰囲気重視で真っ暗な闇の中、彼の目の前にぼんやりと浮き上がるよう姿を現す。

「いよぉう。私がさっきメッセージを送った神様だ。本当に転生する? ここで頷いたら引き返せないよ」

「まじかよ……」

彼は茫然としている。マジですよ。

「答えは?」

「このままではどうしようもないのは解ってる。転生するよ」

郵便局の正月バイトも断られたしな。と呟く。

「それじゃ、肉体から魂を抜き取りまーす」

ひょいっと魂を抜き取り、彼は己の肉体と対面する。

「おおう……幽体離脱……」

呆然とする彼に、戻れないから幽体離脱じゃないよ。と突っ込みを入れる。


 そんじゃあ、次行こう!


 2人目がいるのは極楽浄土。清廉な空気、色鮮やかな世界、無職の彼は居心地が悪そうにモジモジしている。

「男のモジモジとか、やめてくれない?」

「いや、それはそうだけどよ」

落ち着かない、と無職ーーいや、求職者と呼ぼう。ニートと混同されたら可哀想すぎるーーは呟く。

池の畔に沿って歩んでいくと朗々とした声が聞こえてくる。

「桃太郎か」

声の主は幼い子供達に囲まれて桃太郎を臨場感たっぷりに物語っていた。

「彼だよ」

16で死去した彼は50年もこの地にいる。

不整脈で亡くなった彼は、ドナー提供したために未だ輪廻の輪へと向かえてない。

転生の基準値である善行ポイントと悪行ポイントが未だに増えていたからだ。

彼の胃を提供された元医者と網膜の提供を受けた地主から間接的に増やされていた。

元医者は一昨日亡くなり、地主が亡くなるのが5分後な予定。輪廻に行く前に約束を取りつけよう。


 桃太郎が終わるのを見届け、声をかける。

「こんにちは」

「こんにちは」

子供達も一斉に『こんにちはー』と挨拶してくれたので笑いかける。

「お兄さんに話があるんだ。彼を貸してもらえるかな?」

「わかったー」

「お兄ちゃん、バイバイ」

「はい、じゃあねー」

子供達が駆けていくのを見送り、彼はこちらを向く。

「えっと、話ってなんですか? おじさん」

「おじさんじゃなくて、お兄さんだよ!」

「男もおじさん言われると傷つくんだ。覚えとけ!」

「う、え、はい。すみません」

うん。お兄さん、素直な子は好きだよ。

「君、転生してみない?」

「あ、やっと輪廻の輪に入れるんですね」

分かりました。と微笑む彼は、50年に及ぶ極楽浄土の影響で煩悩が欠落した善人である。

見目の良い好青年と分かり、求職者はチッと舌打ちする。

「この転生は普通の転生とは違って前世の記憶を持ったまま異世界に産まれるんだ。私はこれから向かう異世界で芸術の神であるアルツ。こちらの彼は異世界転生を題材とした小説を好む、就職活動中の求職者。名前は必要ないね? 求職者。彼は50年に及ぶ極楽浄土生活で煩悩を欠落させた死因不整脈の少年だよ」

彼らはそれぞれの紹介に思うところがあって嫌そうに顔をしかめる。

「転生にあたって1つだけ神様の贈り物をしようと思うのだけど、何がいい?」

求職者が目を光らせる。

「武術と魔法の才能」

「却下。しぼれ」

転生チートなんか、やらせないよ?

もっとしぼりこんで貰わないと困る。

体の柔軟性とか、動体視力の高さとか。


 宙をぼんやりと眺めて考えていた不整脈がこちらを向く。

「健康」

ポツリと不整脈が呟く。

「病気もなく、健康に生活できたらそれだけで幸せです」

「蘇れよ、煩悩!」

10代半ばの言葉と思えない願いに求職者はブルリと身を震わせる。

「まあ、それくらいなら頼めるかな? 不整脈の贈り物は健康ね」

善行ポイントから悪行ポイントを引いても善行ポイントが高めなので転生体は素質が高めになる。

しかし、贈り物が健康ではチートはできないだろう。

そういう意味でもそれでいい。


 う~。と悩んでいた求職者はよし! と声をあげる。

「魔法の才能!」

「却下。しぼれ」

「どこまでしぼればいいんだよ!」

どこまでって、そりゃあ……

「魔力用量の高さとか」

「そこまで!?」

愕然とする求職者に不整脈は話しかける。

「そもそも、魔法を誰でも習得できる世界なんですか?」

「あっ」

「大きな都市にいて、10代半ばまでに魔術学校の推薦人と会うことができたら魔法を使えるかな」

魔法使いになるにはかなり運が必要なのだ。

求職者は地面に膝をついて項垂れた。

「お兄さん。ここはもう、地道に身体能力を上げたほうがいいん違いますか? ……戦闘能力で生き残れるとも限らないし」

求職者はハッと不整脈を見る。

「食べ物が少ない農村に産まれるかも知れない、か?」

「食べ物がなくて貧困するものがいない世界なんてないと思います」

天界や極楽浄土を除いて、と彼は付け足す。

「だな。じゃ、身体能力を上げてくれ」

「分かった。それくらいなら行けると思う。どのくらい上げれるかは知らないけどね」


 私の世界に続く輪廻の輪に二人を案内して、列に並ばせる。

「それじゃ、私は君達の贈り物を用意するようにお願いしてくるよ。贈り物、用意できたらいいね?」

「は?」

「芸術の神様ですもんね」

「ちょっと待て!」

私は駆け出す。勿論待たないさ。

「アハハハハ! それでは Good Luck!」


 地球人2人を転生させて、8年の歳月が経った。


 求職者は都市にある冒険者が泊まる宿屋の倅という恵まれた環境に産まれる。

本人の望む通り、泊まる冒険者に教わって剣術を教わって訓練しているし、都市の宿屋などは魔術学校の推薦人が拠点にしやすい。


 不整脈が産まれたのは山の麓にある農村だ。

春先の今は農耕馬が畑を耕し、羊や牛を放牧する牧歌的な情景が心和ませた土地だったのだ。本来は。

しかし、現在は健康の贈り物を授かった不整脈が疫病で亡くなった村人たちの墓穴を掘っていて、枯れ木のように痩せ細った足の不自由な老人が遺体を燃やす火の番をしている。

彼はかなり運が悪いのだろうか。疫病で村が1つ滅んでしまった。

2人は生き残った2人の乳児を養いながら村を出るという。


 己の能力を磨き、意気揚々と未来に胸をふくらます求職者と、3人と生き延びるんだと固い決意をする不整脈に幸運(Good Luck!)を。


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