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エプティミア!  作者: got run do
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2/2

エプティミア(素体)

ねっむ、限界。

 霞んだ白色の拳が空を切る。


 鳴らすはずであった打撃音が、暗闇に消える。


 ギイィィィイィィンッ!!!!!


 その代わりと言わんばかりに、青年の身体から黒板を強く引っ掻くような嫌な音と火花が飛び散った。


 “バダルエプティミア”の鉤爪による攻撃が、青年の胴体へと炸裂したのだ。


 青年の体は後方へと弾き飛ばされ、地面に転がる。


 攻撃を受けた部分からは、シャー……という音と共に煙が上がった。


 弾き飛ばされた青年に対し、バダルエプティミアは左手を向ける。


 いや、正確には左手についた機械のようなもの、その発射口を。


「……っ!?」


 ガチョォンッ! ガッ!


 ジャララララララララララララッ!!


 青年に向かって、黒い大量のメダルが吐き出される。


「!」


 青年は必死に身を翻し、それを避ける。


 ガシャガシャガシャガシャ!


 が、避けきれない。

止めどないメダルの波が、青年を襲う。


「……ッ!」


 一枚一枚が鉄球を投げられたかのような威力のメダルの雨に青年が苦痛の声を漏らした。


 青年はなんとか移動しようとするが、足がメダルの波に飲まれてうまく身動きが取れない。


 今青年にできることは、この攻撃が止むことを願いながら、全力で守りを固めることだけであった。


 ……が、止まない。


 止まる気配がない。


 ────────ガツっ。


 にぶい殴打音が鳴る。


 と同時に、なぜかメダルの攻撃が止んだ。


「………?」


 青年が、音のした方へと目をやる。


「!!!」


 そこには、近くにあったコンクリートブロックで、バダルエプティミアを殴りつけたであろうあの女性?が立っていた。


 なんで……逃げて……ない……。


「あ……」


 束の間、女性?が小さく声を漏らす。

おそらく、出そうとして出したものではないであろうそれが、直後来る静寂に消える。


「う”っ!!」


 一瞬の静寂の後、バダルエプティミアは素早い動きで女性?の首を掴むと、彼女の体を左手だけで宙に持ち上げる。


 そして女性の脇腹に、人間であれば口があるはずの部分を、ギュッ、と押し付ける。


 …………ジュぷくゥ…………。

 

 水音。


「ギッ”!!??? あ”あ”ぁ”ア”ッ”ッ”!!!」


 女性?がまた、自分の意思とは関係ない声を吐き出した。


 目は大きく見開かれ、急速に充血していく。

あっという間に、多量の涙が、輪郭を伝い始める。


 女性?は首を絞めているバダルエプティミアの腕を掴みながら、空中で激しく両足をばたつかせている。


 が、次第にそれも弱くなる。


「ケホッゲホッ……う”ぁ”ぁ”……うぅ……」


 悲痛な声も、初めこそ叫ぶように大きくあげられていたが、すぐに、嗚咽混じりの鳴き声へと変わった。


「あ…………。あ…………」


 そして最後には、衰弱した、今にも消え入りそうな声へと変わる。


 バダルエプティミアは、女性?の変化など意に介さず、自身の顔を、女性の腹部、深く、深くへと押し込めている。


 女性?の着た水玉のキャミソールと黄色いショートパンツに血が滲む。


 ぴちゃ……ぴちゃ……。


 咀嚼音では無い、もう一つの水音が聞こえ始める。


 どうやら女性?は失禁しているようだ。


 黄色いショートパンツが、血液とは違う液体で影を広げていく。


 キィーーーー……。


 いつの間にか、女性?の方へと砲口が向けられていた右肩のキャノン砲。

それが、あまり響かない甲高な音を強め始める。


 どうやら、砲口の向きはある程度自由に変えられるようだ。


 ィーー……。


 叫ぶ女性?に向けられたその砲口に、光が収束していく。


 ガシャ! ガシャン! ガシャッ!


 青年は、とっくに足元に散らばる黒いコインの海を掻き分けバダルエプティミアへ向かって走り出していた。


 女性?が首を掴まれる前から。


 が、大量のメダルに足が取られ、思うように進む事が出来ない。


 ガシャ! ガリガリガリッ! ジャラ!


 青年は、メダルの波をかき分けることを諦め、強く踏み込める地面を探す。


 ガジャ! ガジャ! ガッ!


 青年は足でメダルの地面を掘り進め、ついにアスファルトの地面へと辿り着く。


「ふぅぅぅ…………」


 青年は深く息を吐くと、強く地面を強く踏み込み一気に跳躍する。


 ジャラジャラジャラジャラジャラッ!


 先程まで青年のいたスペースへと、メダルが流れ込む。


「!」


 メダルの海が大きく音を立てたのを聞いて、バダルエプティミアが女性?の脇腹から顔を離す。


 赤い目のうち二つが、青年へと向いた。


 その間にも、砲口へと光は収束し続ける。


 本体は殴り飛ばしてもよろける程度。


 なら。


 一軒家に飛び移れるほどに高く飛び跳ねた青年は、拳を握りしめ、振りかぶる。


 そして、渾身の力を込めて拳を放った。


 狙いは女性?に向けられた、砲口を有する羽。


 ガギィン!


 硬い物が無理矢理曲げられた様な音がして、羽の先端、砲口の向きが回転した。


 その砲口は左に九十度回転し、パドルエプティミアの頭部のある方向へと向いている。


 そのまま炸裂しろ……!


 きぃいいぃぃー……!!!


 が、青年の願いを見透かすように光の収束は急速に霧散していく。


 しかし、最初に殴った時とは違う。

最初に殴った時は、電池が足りないみたいな霧散の仕方だった。

たが今度は、まるで急にコンセントを抜いたかのような感覚で一気に霧散した。


 おそらく一定方向に曲がるとエネルギーが伝達しなくなるのだろう。


 そしてそれは、多分だが本体の方向。


 ……つまり、自滅は期待できない……。


「チッ……」


 青年が舌を鳴らす。


 強すぎる……スペックに差がありすぎる……。


 ……フぉん……。


「!」


 ゴッ! 


「グ……ッ!」


 拳を打ち出した青年のガラ空きの腹部へ、バダルエプティミアが先ほどまで女性?の首を掴んでいた左手で作った拳を叩き込む。


 斜め下から斜め上、放たれた鋭い一撃により、青年の体が宙へ浮きはじめる。


 ガチョォンッ! ガッ!


「!」


 拳を叩き込んだ瞬間、バダルエプティミアは左手の機械のようなものを作動させる。


 そして。


 ジャララララララララララララッ!


 青年の身体が拳から離れ、宙に浮くと同時に、あのメダル攻撃が発射される。


 ジャララララララララララララッ!


「グぅ……!!」


 吹き飛ばされた、正確には吹き飛ばされ続けている青年の体は、ついに住宅街の中にある一軒の住宅の外壁へと激突すると、その外壁をぶち破る。


 ゴォッ! ガラガラガラガラッ!


 轟音がして、瓦礫が青年の身体を押しつぶす。


「お……重……っ。……くそっ…………!」


 気付けば、青年の身体がもとに戻っている。


 どうやら限界のようだ。


 ダンッ! ガッ!


 バダルエプティミアが、青年の開けた大穴の縁に立ち、もとに戻った青年を、三つの赤い目で見下ろす。


 バッ、ぐにぃ……。


 そして一蹴りで瓦礫に下半身が埋まったままの身動きの取れない青年の元へと近づくと、青年の腹部に馬乗りになった。

 そして腕を伸ばし、青年の白く、細長い首を深く掴んだ。


 ギリィ……!


 バダルエプティミアが、左手を使って青年の首を強く締める。


「う…………」


青年は首に強い圧迫感を感じて、喉の奥から弱々しい苦痛の声を漏らした。


 キィーーー……。


 キャノン砲に、光が収束していく。


 照準は、もちろん青年だ。


「……………………。」


 ーン……。


 光の収束が終わった。


 あとは放たれるのみ。


 ……ガシィッ!!!!


「!??」


 青年が突然、キャノン砲の砲口を掴んだ。


 収束し切った光が、青年の手に流れる血潮を真っ赤に透かしている。


 さっきのでわかった。

これはお前の体の方に向かっては炸裂しない。

エネルギー伝達が、途切れるようになっているから。


 なら僕の方になら?


 暴発する可能性はあるはずだ。


 青年は左手で、バダルエプティミアの右肩のキャノン砲の砲口を強く握りしめる。


 ……もしかすればこの光のエネルギーは暴発などせず、僕の手を貫通し僕を撃ち殺すだけかもしれない。

そもそも、この状態で顔面を殴られるだけでも、僕は十分死ねる。


 だから賭けだ。


 これは賭け。


 それに、何もせずとも撃ち抜かれて死ぬだけだ。

それなら自身で建てた仮説くらい試してから死のう。


「やるよ……どうせ右利きだ」


 発射直前。入り口で詰まった収束した光が、バダルエプティミアの顔面の近くで炸裂する。


 ピキュィンッ!! 


 小さく、軽い爆発音がして、ほんの一瞬、辺りが昼よりもっと明るくなる。


「ジャボジャボジャボジャボジャボジャボジャボジャボジャボジャボッ!!!!!」


 バダルエプティミアは水の中にたくさんのメダルが落ちたような絶叫を上げ、羽の形を成したままの左羽を苦しそうにバタバタとばたつかせている。


 両の手でダメージを受けた顔面を何度も何度も引っ掻き、また大きく鳴き声を上げた。

どうやら、鉤爪が自身の顔面を酷く傷つけたらしい。

しかも光が炸裂したのも右側だ。


「どぶぉん……どぶぉん……どぶぉん…………」


 よろよろと立ち上がったバダルエプティミアは、目の前の何もない空中に、ゆっくり、ゆっくりと手を伸ばす。


 まるで、なにかが見えているように。


 遠のいていっているのだろうか、バダルエプティミアはガクリガクリとよろめきながらも歩き始める。


 そして、何度も、何度も、何かを掴もうと宙を掻いた。


 何度も何度も……。


 突然ダメージ負った右半身から、バダルエプティミアの身体が崩壊し始める。


 ボロリ、ボロリと。


 世久せく 金華きんかは、崩壊する自身の身体を見つめていた。


 三つに増えた目の内のひとつが、彼女にそれを見せていた。


 身体は、まだ残り二つが見せる幸福な幻想を追い求め、前へと進んでいる。


 ふと、衝撃を感じて、彼女の体が後方へ倒れる。


 どうやら、壁に衝突したようだ。


「…………………………。」


 バダルエプティミアから世久 金華に戻った彼女は、頭部を自由に移動するまぶたのない瞳を虚に振り回す。


 そして、後頭部に移動したところで、おそらく自分のせいであろう破壊痕を見つけた。


 その一番下には、瓦礫と、その瓦礫の下敷きになった見知らぬ青年がいる。


 よく見れば青年の左肩から先が弾け飛んでいる。


 おそらく自分のせいであろう。


「……………………。」


 金華は崩れかけの身体を無理矢理起こすと、青年の方へと歩き寄る。


 最早右半身はほぼ無く、うまく歩けない。


 倒れそうになりながら、なんとか青年の元へ辿り着く。


 青年は、血が吹き出し痛みに震える左肩を抱きながら、金華の動向を伺っている。


 もうそうする他ないからだ。


 金華が、残った左腕を青年の頭部へと向ける。


 青年が目を閉じる。


 覚悟はできてる。


 ごめんなさい、僕は生きる事が出来なかった。


 ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャッ!


「……………………?」


 青年の身体に衝撃が来ない。


 ただ、少し激しい振動だけが伝わる。


 ぐいっ。


「!?」


 急に、青年の上半身が持ち上げられ、背後に轟音が響いた。


 ガガガガガガガガバガァッ!!


 ……すっ……。


 下ろされた青年の上半身に、さっき倒れていた時とは違う重力がかかる。


 青年の上半身が倒れていた背後の床が、金華によって破壊されたのだ。


「! ……………………。」


 驚く青年をよそに、金華は青年の足元に覆う瓦礫を左手で除去し始める。


 ガラガラ……ガラガラ……


 青年にのしかかる瓦礫を少し動かすたび、瓦礫の山がぐらぐらと揺れる。


 ……ずるりっ……。


「!」


 金華が一際大きな瓦礫を持ち上げたタイミングで、青年の身体が瓦礫から解放された。


 金華が床を破壊し作った小さな窪みに、青年の体が滑り台を滑るように落ちたからだ。


 金華はそれを見届けると、青年が解放されたことでできた瓦礫のスペースにメダルを流し込んだ。


 だが、メダルは彼女の体のように崩れ、消えていく。


「……!」


 金華がそれに気付くと同時に、瓦礫全体がガラリと大きく振動する。


 青年一人分の堆積を失った瓦礫の山はバランスを崩し、ついに崩壊を始めた。


 瞬間、青年は、金華がぶつかった後方の壁へと投げ飛ばされた。


「! …………。」


 投げ飛ばされる最中、青年の瞳には、崩れいくあの黒いメダルの塊が目に入る。


 ガラガラガラガラガラガラガラガラ!


 金華の姿が、瓦礫の波に飲まれる。


 もう二度と、出られないだろう。


 瓦礫の波は、反対側の壁に到達する前に止まった。


 投げ飛ばされた青年の足元ギリギリで。


 投げ飛ばされた青年は、倒れ込んだまま右手で左肩の傷跡を押さえる。


「っ痛……………………!!」


 血はまだ滲んでいる。


 それに、とても眠い。


 薄れいく視界の中、青年は、先ほどまで金華がいた瓦礫の山に目をやる。


「…………………………。」


 最後に見たアレの表情は……とても、申し訳なさそうな顔をしていた、ように見えた……。


 表情なんて……見えない……はず……なのに……。


 青年は、左肩の苦痛で意識を手放すまで、今し方、目の前で消えた命のことを、考え続けた。

ねっむ、限界。

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