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生き抜くのに必死なんです。〜パンがないならカエルを食べたらいいじゃない〜  作者: スズキアカネ
番外編

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血は争えないものですわね!


 翌日、今後のハイドラート食糧支援についての話し合いが王宮内の応接室で行われた。


 ヴィックのご機嫌伺いなのか、それとも色仕掛けするように指示されたのか、特に美しい王女さまたちがヴィックを囲っていた。

 なにこれハーレムじゃん…

 人道支援に関する真面目な会合のはずなのに……会議にそんな露出度激しい衣装である必要なくない?

 

 しかも私は別の席に通されて、物理的に邪魔できないようにされた。ぐぎぎ。

 幸いなのはヴィックが顔色一つ変えず、横のお姫様に目もくれないことであろうか

 ……それでも面白くないことは確かであるが。


 昨日の今日なので顔を合わせづらいと考えたのか、代理の人が会合に出席していた。国王の名代らしい8番目の王子である。

 割とあの国王は小心者なのだろうか。

 それとも自分でもまずいことをした自覚があって反省しているのかな。ヴィックのお怒りがよほど怖かったのかな。


『それはできない。宴の場で全員の前で話したと思うが、私たちの支援はいつまでも続くものではない。これまであなたたちに送ってきた支援はわが国民の労働の成果だ。私たちはあなた方のために働いているのではない』


 第8王子からの要望案にヴィックはNOの返事を突きつけた。相手からは無期限の支援延長を求められたが、ヴィックは当初の予定通り3年で支援終了とし、それ以降は他国同様、正規の金額での取引とすると断言したのだ。


 エーゲシュトランド側からのシビアな回答に第8王子は表情を歪める。


『しかし我が国の現状は依然として厳しいものであり……』

『あなた方はそれに対してなにか行動しているのか? 私の目には日々自堕落に過ごして、上澄みの富を吸い取っているだけにしか見えない』


 自分の年齢の2倍くらい年上の相手にもひるむことがないヴィックはかっこいい。

 緊張の場だというのに、私は旦那様に惚れ直していた。


『我が国を見捨てることと同義だとわかっているのか』

『エーゲシュトランドは、あなた方を養うために存在するのではない。私が守るべき存在は自国民だけだ』


 見捨てるなんて人聞きの悪い事を言わないでほしい。

 ヴィックを悪者扱いする言い方をして来るもんだから気分が悪くなってきた。本当に何様のつもりなんだろうこの人たち。現状の支援だけでも破格で特別扱いされているのにこれ以上甘えようとするその姿勢はとてもじゃないけど、助けてあげようとは考えられないな。


 相手は自分の言い分が通じなかったことにイライラしている様子だった。だけどこちら側としても譲歩しようとも思えないんだな。

 『これからもずっと支援してくれなきゃヤダヤダ』ばかりで、自分たちでどうにかしようという意志が全く見られない。それでも王族なのだろうか。


 支援をしても国民に行き届いていないなら支援の意味がない。だから援助を打ち切っても、国民への影響は最小限であろう。

 支援しても国は良くならない。むしろこれ以上甘やかすのはこの国のためにならないとヴィックは判断したのだろう。一国の施政者としてその判断は正しいと私も思う。こういうことはどこかで見切りをつけることも必要なのだ。


 話し合いは両者の言い分がぶつかり、どちらかが折れることはなかった。

 我慢できなくなったらしい第8王子がバッと立ち上がって何やら小さく悪態を吐いた後に、ひとり執務室から飛び出したことで話し合いは中断。

 そんな訳で話し合いを切り上げた。


 あちらは納得してないようだが、もう決定のようなものである。支援する側が判断したのだから。

 それにしても他国の人間との会合で飛び出すとは…。子供じゃないんだからさぁ。



 私は話し合いに口出しすることはなかったが、向こうの言い分を聞くのに疲れてしまった。呆れるというかなんというか。

 応接室を出ると、私は服を着替え直すために一旦ヴィックと別れた。



『────』


 すっかり着替え専用の部屋になった部屋に向かおうとすると、背後から何かを言われた。

 何かと思って振り返ると、先ほどまでヴィックの隣を陣取っていた王女……確かシャリア王女だったかな。彼女が私を睨んでいた。

 早口すぎて聞き取れなかった。あと習ってない単語が飛び出してきたからわからなかった。


 今なんて言ったんだろう。

 喧嘩売っている事は間違いないだろうけどと考えながら、怪訝な表情を浮かべる。


『貰うわよ』

「……え?」


 何も理解していない私を見て、にやりと不敵な笑みを浮かべた王女。

 ……なにを貰うつもりなんだろう。


 なんだか不穏なものを感じつつ、どういうことだと本人に確認することなく、彼女の去っていく姿を呆然と見送っていた。



 すっきりしない気持ちを抱えつつ、私はハンナさんと一緒に部屋のあるフロアに戻ってきた。

 ハンナさんが「お飲み物用のお湯をもらってまいりますのでお部屋でお待ちください」と言ったので、そこで別れてひとり、部屋の扉を開いた。

 そこで私は目の前の光景に呆然とした。

 部屋一面にはもわっと煙が立ち込めており、不思議な匂いが鼻腔をくすぐった。


「……なにこの煙!?」


 火事が発生したのかと思って部屋に飛び込んで煙の元を探ったが、どこにも火は起きていないみたいだった。


 未使用である寝台の周辺をくまなく探していると、サイドテーブルに安置した隕石が折りたたんだ布の上に鎮座していた。隕石から出火な訳がないし……なんだろう、この煙。

 とりあえず火元が見られないので換気をしようとバルコニーの窓に手を掛けた。


 その時、ごそっと物音が立った。

 それは私が立てた物音じゃない。しかも近い距離から聞こえた気がする。


 バッと振り返ると、壁に掛けられた飾りの絨毯が動いた。

 目の錯覚かと思って目を凝らしてみたが、見間違いじゃなかった。


 絨毯が壁側から浮いて、そこから男が出てきたのだ。

 先ほど見た相手である。ヴィックと舌戦を繰り広げていた第8王子。

 その人が私に充てられた宿泊部屋の壁の奥から出現。払いのけられた絨毯がバサリと音を立てた。


 なに、マジックかなにか?

 ──いや違う……壁に穴が空いているんだ!


 なぜ私にあてがわれた部屋にこの人がいるのか。

 なぜ壁の奥に穴が開いていてそこから出入りしているのか。

 この奇妙な煙と匂いは一体何なのか。


 次から次へ疑問が出現する。

 しかし言語化するには私が混乱しすぎて訳せなかった。


『色気のない女だ…真っ白で細くてガキみたいで。わが妹のほうがよほど美しいというのに』


 しかし相手の悪意はクリアに伝わってきた。

 悪口って伝わりやすいよね。侮辱されたのははっきりわかった。


『食指はわかないが……憂さ晴らしには持って来いだ』


 大きい手がこちらににゅっと伸ばされた。

 嫌な予感しかしない。 

 捕まってなるものかとそれから避けて逃げようとしたが、背後から髪を引っ張られて足止めを食らった。


「いたぁい!」


 頭皮が引き攣る痛みに私は悲鳴を上げた。

 メイドさんが綺麗にまとめてくれた髪を力任せに掴まれたんだ。ぐちゃぐちゃにされたのがわかる。

 どこの国でも女の髪は大切なものだとされている。それなのにこういう扱いするということは、この男の人間性がよくわかる。


 この王子はエーゲシュトランドと敵対して断交でもしたいのか。

 生まれはスラムだとしても、私は大公妃という地位にいるのだ。こんな扱い受ける筋合いはないっていうのに。


「こん、にゃろぉぉ!」


 髪を引っ張る男めがけて、ヒップアタックならぬ体当たりをかます。

 どすっとぶつかった相手は私からの反撃に身構えていなかったようでもろに攻撃を受けて、どがしゃーんと派手な音を立てて室内の調度品にぶつかって倒れこんだ。


 第8王子は調度品のサイドテーブルに向かって倒れこんでおり、そこに安置してあった隕石がゴトンと絨毯の上に転げ落ちていた。


『ヒッ! 災厄!!』


 彼はこの真っ黒な隕石がここにある事を今知った様子で、小さく悲鳴を上げていた。

 それを見た私は少し溜飲が下がる。 

 ずきずき痛む頭皮を手のひらで抑えながら、すっと自分のスカートの中に手を差し込む。自己防衛のナイフを手にするために。


『この、ガキがぁぁ!!』


 怒りと恐怖が原動力になったのか、第8王子の動きは素早かった。 

 避ける間もなく、力任せに突き飛ばされた私は背後にあった寝台へ思いっきり体を叩きつけられた。その拍子にナイフが手から離れてしまう。


「う、ぐぅ……!」


 息が詰まって呻いていると、第8王子がのしっと上に覆いかぶさってきた。

 グイっと胸倉をつかまれたと思えば、ぶちぃっと胸元で嫌な音が聞こえた。

 ぎょっとして自分の胸元を確認すると、無骨な男の手が私のブラウスのボタンを引きちぎっていた。下着であるシュミーズが露になってしまっているではないか。

 まさかこの人、私に乱暴するつもりなのか!?


『よくも舐めた真似を……! お前を犯して、あの若造の前に引きずりだしてやる!』


 おいおい、兄弟揃ってやることおんなじか!

 細かいところは異なるけど行動が同じ!

 部屋に侵入してから危害を加えるって同じ行動パターンじゃないか! 血は争えないってか!


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