カエルかと思いきや、原石を発掘いたしましたわ!
視察を終えた後は来た道を引き返す砂漠の旅リターンだ。
ラクダの楽な乗り方をマスターした私は、この長旅をどう楽しむかをテーマに復路を進んでいた。
空はどこまでも遠い青。
夏のエーゲシュトランドの空よりも色濃い気がする。一面の砂漠の世界なので砂で描かれた地平線がどこまでも続いている。
日差しは相変わらず厳しい。
私はこっちの女性のように一枚布を被ってその上に麦わら帽子を着用するという奇妙なスタイルで日光避けしている。
こちらで作られた布は通気性がよく、あったほうが暑さをしのげることがわかったのだ。しかし太陽の眩しさはそれだけじゃ避けられないので、つばの広い麦わら帽子で日光避けしているのだ。
見た目は奇妙かもしれないが、眩しいんだから仕方ない。
目を眇めながら地平線の先を見つめていると、遠くから砂煙が近づいてきた
一瞬砂嵐かと思ったが、違う。
ラクダに乗った複数の人影が近づいてきているのだ。
「……誰か来る」
私のつぶやきに、同じラクダに乗っていたヴィックが反応する。
砂漠の舟と呼ばれるラクダにとって、一面の砂なんて地面同様なのだろう。平均的な体力の人間が走るよりも速い速度で駆け寄ってくるその光景は圧倒される。
砂を舞い上がらせながら走るラクダに跨がるのは、物騒なものを掲げた男たち。
あれは……刀だ。
「盗賊だ! 配置につけ!」
個人で雇った傭兵が叫ぶ。
私達の間は緊張感が走った。
視察中の私達も水浴び程度しか身を清めることは出来てないけど、彼らはそれすらもしてないように見えた。ここは貧しい国。衛生面は後回しなのだ。私が生まれ育ったスラムと同じく。
ひげを生やしっぱなしで整えていないから人相も年齢もわかりにくい。着古して変色した衣類を身にまとったその姿からは、現在の厳しい経済状況が伺える。
盗賊も多いだろうと想定していたが、まさか砂漠のど真ん中で遭遇するとは。
「女がいるじゃねぇか!」
「女と金をよこせ。置いていけば男たちの命は助けてやるよー」
げへへと下品な笑い声を漏らしながら盗賊たちは言った。なかなか信用できないセリフである。
もっとも、ヴィックはそんなこと許さないと思うけども。
護衛さんや傭兵さんたちは、私とヴィックを守るように囲むと一斉に剣を抜く。
降り注ぐ太陽光と刃先が反射してギラリと光った。
「守りに徹しろー!」
「おうっ!!」
誰かの気合の声が青空の下、響き渡る。
剣同士がぶつかり合う鋭い音があちこちで鳴り渡り、殺気におびえたラクダがよたよたと動き回っていた。
盗賊のめちゃくちゃな剣さばきに圧され気味な味方陣営を見ていると私はいてもたってもいられなかった。
ヴィックはといえばラクダに跨ったまま剣を鞘から抜き取っている。その視線は鋭く盗賊たちの動きを注視している。
護衛たちが破れたら自分から戦いに行くつもりなのだろう。
なんかヴィックってばすっかり修羅場慣れしちゃったよね。
立場からして仕方ないんだけどさ。
でもひとりでは戦わせないよ。私も一緒だから。
「きゃああっ!」
自分の手持ちカバンに収めていたお守りを取り出していると、女の人の悲鳴が聞こえた。
盗賊のひとりが女性の足を掴んでラクダから引きずり降ろそうとしているのが見えた私は素早くお守りを構えると、躊躇いなく発射した。
「がっ!?」
力の弱い女人に不埒な手を伸ばしていた盗賊は後ろにばたっと倒れた。その上ではラクダにしがみついたハンナさんがぶるぶる震えていた。
我ながらナイスなヘッドショットである。
「ハンナさん、無事!?」
「はっ、はい!」
恐怖から回復しきれていないようだが、怪我はなさそうだ。
間に合ってよかった。
あいつら、戦闘にかこつけて女の人を攫おうとしている。許せん!
「私のメイドに手出しはさせないよ!」
子どもたちに貰った石をカバンの中に入れっぱなしにしておいてよかった。
石をお守りのスリングショットにセットすると、盗賊の頭めがけて放つ。ズビシと命中させてダウンさせ、また石をセットする。
相手が動くから外すこともあるが、今のところ味方には当てていないので良しとしよう。
「うーん……よし!」
ラクダの背中からだと見晴らしはいいけど、いかんせん身動きがとりにくいな。
仕方ない、地上に降りて狙うか! と気合十分にラクダから飛び降りようとしたが、グッとおなかに腕を回されて「ぐげぇ」とカエルが潰れたような声を漏らしてしまった。
「…リゼット、何するつもりなの?」
「た、戦いに」
「足を引っ張る可能性があるからおとなしくしてて」
なんと。邪魔になるからラクダに乗って高みの見物をしていろと言うのか。
反論しようとしたけど、ヴィックの有無を言わさない重い雰囲気に黙り込むほかない。
しかし何もしないのは癪なので、護衛さん&傭兵さんの後衛に徹することにした。
こちらの非戦闘員に手出ししようとする盗賊はスリングショットで成敗しておいた。
ははは、まだまだ小石はあるぞ。子どもたちにもらった何の変哲もないただの石ころだけど、命を守るための大切な武器に変わったよ!
それに関してはヴィックは止めなかった。
こんな状況だし、私の狩りの腕を信じてくれているのだろう、多分。
戦闘はこちら側が有利に変わっていった。
盗賊は自分たちの分が悪いと気づくと、這う這うの体で逃げて行った。砂の上に大の字になった仲間を見捨てて逃げる様は情けないことこの上ない。
貧しさゆえの盗賊と言え、牙をむいた時点で敵である。情けなどかけてやる必要もない。その辺に放置だ。
『安全な道を選んだつもりなのですが……こんな目に遭わせて申し訳ない』
ガイドさんは責任を感じているのか、謝り倒していた。
『いや、貧困には強盗が付きものだ。最初からその危険を承知の上で来た。気にするな』
ヴィックの言う通りだ。
それに大きな怪我をした人間もいなかったし、本当に良かった。
だけどこの辺は安全じゃないということが分かったので、安全地帯まで移動してしまおうとその場を急いで離れることにした。
◇◆◇
安全地帯に入るとそこで休憩となった。先ほどの戦闘のこともあったので、長めの休憩時間を取ることに。
私はラクダに乗ったままスリングショットを放ってただけだけど、護衛さんや傭兵さんは本職とはいえ、とても疲れているだろう。各々涼しい場所で仮眠を取ったりして身体を休めていた。
私はラクダ移動で凝り固まった体をほぐすために砂の上でひとりストレッチをしていた。
ラジオ体操を思い出しながらぶんぶんと身体を動かしていると、ふと視界の端で何かが動いた。
「……?」
また新たな刺客かと警戒してみると、それは砂の上をぴょこっと跳んだ。
そう、跳んだのだ。
平らな頭に小さな瞳、茶色の肌をしたそれは、私が慣れ親しんだソウルフード。
砂漠にもいたのか、カエルよ。
考えるよりも先に体が動いていた。
饅頭みたいな体のそれを捕獲しようと飛びついたが、私が捕まえるよりも先にカエルは砂の中に潜って回避してしまった。
ここで見失うのが悔しくて、私は何が何でも捕まえてやろうという気分になった。
ざかざかと犬よろしく砂漠の砂を手で掘っていると、手に硬いものが当たる。
「ん…?」
「リゼット、何してるの?」
「カエルが砂の中に…」
「お腹すいているなら携帯食があるから……」
私が空腹でカエルを探していると勘違いしているらしいヴィックに止められそうになったが、私は砂に埋まった硬い何かを掘るのをやめなかった。
「よいしょっ」
砂の中から持ち上げたのは子どもの頭くらいの大きさの石である。両手で持ち上げるとごそりと重い。
ついている砂を払ってみてみれば真っ黒な石があった……いや鉄の塊?
なんだろうこれ。動物の遺体…ではないよね。
よくよく観察すると、スポンジみたいな穴が空いていて、そこから黄緑色の鉱石のようなものが見える。
『それは災厄の痕跡だ! 悪いことは言わない、離すんだ!』
突然不穏なことを叫ばれた私は、膝の上に石を乗っけたままぽかんと固まった。
叫んだのは傭兵として雇っている現地の人だ。私の膝の上に乗っかった黒い石を見た彼は見るからに怯えていた。
『災厄?』
ヴィックが怪訝な表情で聞き返すと、傭兵の彼は手をバタバタさせながら語りだした。
彼曰く、この石は真っ暗な夜空を燃えながら落ちて来たもので、災厄を運んでくる縁起の悪い物だとされているのだそうだ。
この国の宗教的な考えの一つで、国を滅ぼしかねない危険なものだと言われていて、触れただけでたちまち呪われるいわくつきなものらしい。
興奮気味に語られたが、私はそういうオカルトな存在とは思えなかった。
「これって、隕石なんじゃ……?」
そういえば隕石の中には宝石が含まれていることもあると言う。
私の瞳と同じ色であるペリドットと同じものが、宇宙から持ち帰った石にも含まれてたとかを前世の自分が本で読んだことを憶えている。
この世界はおそらく地球と同じ形をしていて、外には宇宙があるのだと思う。
さつまいもが存在するんだ。隕石があってもおかしくない!
『大丈夫ですよ! おそらくこれには宝石が含まれています。加工すればお金になります』
隕石から作られたペリドットはパラサイト隕石と呼ばれていて、前世では希少なものとされていた。
おそらくこの世界でも数多く出回ってないはず。
大気圏で燃え尽きず、ここまで生き抜いた石なんてかなりかっこいいじゃん!
私の言葉が信じられないのか、傭兵並びに現地のガイドさんまで胡散臭そうに私を見てくる。
『ほら、ここ緑の石が見えるでしょ? 濁って見えるけど、加工したら透明感が出て美しくなりますよ!』
わかりやすく教えたけど、現地の人は引いていた。物理的に隕石(推定)から距離を置きたいらしい。
隕石は時に危険なものではあるけど、決して不吉なものじゃないと思う。
この国の人は迷信深いのかな。
これが美しい宝石になることを証明するために国に持って帰って加工することにした。
もちろん国に持ち帰っていいか国王に確認してからになるが。
少年にもらった美しいガラス石以外の小石をすべて盗賊迎撃に使ってカバンが軽くなったのに、また荷物が増えてしまった。
「重くなってごめんね、ラクダさん」
座り込んでいるラクダに荷物を積みなおした時にそう謝罪すると、ラクダは大きな目をパチパチさせていた。
こんな至近距離から顔見るの今世が初めてだけど、可愛いなラクダさん。




