あなただけの花嫁になりますわ。
ヴィックのお母さんの形見のティアラと歴代の公妃がつけていたブラックオパールのネックレス。これらはヴィックの部屋で大事に保管していたそうだ。鍵のかかった引き出しに厳重に保管されていたものを取り出したときは何事かと思った。
そんな大切なものを私の首元、そして頭上に装着され、私は落ち着かなかった。本来であれば挙式のときに初めて身につけるものなのにいいのかな…と困惑していると、ヴィックは泣き腫らした目元を緩めて微笑んでいた。
「私が愛しいと思えた女性は君だけなんだ。絶望のときに厳しいことを言いつつも寄り添ってくれたのは君だけだ」
その言葉に私はなんだか泣きたい気分になった。
ヴィックは友好関係だったはずの相手にそっぽ向かれて孤軍奮闘していた時期があったんだ。婚約話が持ち上がった相手も知らんぷりして……それが政治の世界と言われたらあれだけど、当時の彼はまだ子ども。国も両親も奪われ、世界中が敵になったような状況に置かれてものすごく絶望したに違いない。それなのに腐らず目的へ一直線に行けたのはすごい。
「リゼットがいなければ今の私はいない。擦り切れたワンピースを着て、泥だらけになりながらも強く生きていた君が何よりも美しい存在なんだ。私の希望なんだよ、リゼット」
そんな、大げさな、と言いたくなったけど、ヴィックの場合ガチでそんなこと思ってそうだから否定できない。
ヴィックの言葉に嘘はない。彼は心から私を想ってくれているってわかる。
「神ではなく、私を命懸けで守ってくれた我が両親に誓おう。リゼット、君を一生大切にすると」
彼に手を握られ、薄水色の美しい瞳に熱く見つめられる。私の高鳴る胸は期待していた。次に言われる言葉を私は今か今かと待ちわびていた。
「愛してるよリゼット。私と結婚してくれるね? 私の妻となって、ずっと私の隣にいてほしい」
私はすぐに頷いた。最初にプロポーズされたときは驚きと戸惑いばかりだったのに、二度目のプロポーズは素直にうなずけた。
見届け人も誰もいない二人きりの部屋で結婚の誓いをした。
今ならはっきり言える。私はヴィックを愛している。大公ではなく、ヴィクトルという一人の男性を心から愛していると断言できる。私は彼の手をとって生きていくと心に誓った。
降ってきた彼の唇を受け入れ、私達は何度も口づけを交わした。口づけを交わしているだけなのに私の身体は待ちきれないと熱くなっていく。そっと唇が離れた瞬間、閉じていた瞳を開くと、ヴィックと目が合った。私は縋るような目をしていたと思う。
もっとキスがほしいと背伸びをして彼の唇に自分から吸い付くと、ヴィックが私をひょいと抱き上げた。
それが合図だった。
キスをしながらベッドまで運ばれた私はヴィックにドレスを脱がせてと目で訴えた。彼は何も言わずに黙って私のドレスの編み上げ紐に手をかける。
なんとかお互い着ているものを脱ぎ去ると、ヴィックとキスをしながらシーツの波に溺れた。
隙間なくピッタリ抱き合いたい。
一方的に与えられるだけじゃ嫌だ。早くヴィックのものになりたい。
「愛してる、愛してるよ、リゼット」
もしもヴィックと一つになってしまったらどうなるだろうと不安もあった。
予想通り私はもうヴィックと離れることはできなさそうだ。だってこんなにも幸せなんだもの。
私を見下ろす彼の瞳は私が愛おしいと訴えてきた。私は彼の愛に包まれて幸せでたまらなかった。
好きな人と結ばれることがこんなにも幸せなことなんて、彼と出会わなければ知ることすらなかったかもしれない。
「リゼット、愛している」
「うん、私も愛してるよ、ヴィック」
ヴィックはまた泣いていた。だけど今度は嬉しそうに泣いていたから、私は笑ってしまった。幸せそうに涙を流す彼が可愛くて目元にキスをしてあげる。
私がヴィックの涙をいつでも拭ってあげる。私は貴方の伴侶になるんだもの。
このまま彼の腕の中で溺れて抜け出せなくなってもいい。いつまでも愛されていたい。
──その日、私は本当の意味でのヴィックのお嫁さんになった。




