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生き抜くのに必死なんです。〜パンがないならカエルを食べたらいいじゃない〜  作者: スズキアカネ
公妃になるなんて無茶難題過ぎます。

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お気をつけておかえり遊ばせ!


 剣を振るう護衛さんは流石というべきか、相手を圧倒していた。お互い剣を扱う仕事をしているだけあって白熱した戦いとなっていた。私も戦おうとしたのだが、そこに割って入れない。間に入ったら斬り殺されてしまいそうである。護衛の彼らはなんとしても私には戦わせないつもりだ。

 すっかり出番を奪われてしまったので、スリングショットが命中して気絶している男の手足を縛り付けておいた。よく見るとこの男の足首、なにかギザギザなものが挟まったような怪我が……それにこの靴も……作物泥棒、見つけた。


「なんの騒ぎだ!」


 そこに背後から鋭い声が飛んできた。領民たちはその人たちが通過できるようにササッと人の波を作る。お城の護衛兵数名がやってきた思えば、その中心に守られるようにして現れたのはヴィックだった。


「リゼット!?」


 彼はしゃがみ込む私を見て青褪めていた。

 おや、朝の視察にでも来たのかなと思っていたのだが、彼の後ろに付き添う令嬢の姿を見て私の気分は急降下した。


「なんて野蛮な……労働者みたいな格好して泥だらけでなんて汚らしいの」


 彼女は私を見下ろすと、扇子で口元を隠して眉をひそめていた。目の前で起きているチャンバラよりも私の格好を突っ込むのか。…いや、ヴィックの前で私を貶すことで自分を上に見せたいだけかな、この人の場合。

 あぁ、この人に会いたくないからまっすぐ帰らずにこっちに来たのに、寄り道した意味がない……私はがっかりした。最悪の気分である。

 ヴィックについて来ていた護衛さんたちが騒ぎの渦中に割って入っていき、旧サザランド伯の私兵だというごろつき共は素早く捕縛されていた。


「取り調べをしろ。それと侵入経路の洗い出しと、その付近の警備を強化」


 素早く指示を飛ばしていたヴィックは私を腕の中に囲って逃さないように捕獲していた。別に逃げたりしないのになぜなのか。

 警備兵たちがバタバタお仕事しているのを見送った彼は私を見下ろすと眉間にシワを寄せて怒った顔をしていた。


「何をしてるんだリゼットは。護衛兵から寄り道の報告を受けて迎えに行けば、危険なことに首を突っ込んで」

「だって子どもが襲われていたから。ヴィック言っていたじゃない。民の上に立つ者は命をかけてその責務を全うせねばならないって。私はヴィックが守るべき国民を守っただけだよ」


 だから私を存分に褒めてくれて構わないのだぞ。

 ドヤ顔で自信満々に胸を張ると、ヴィックは間の抜けた顔をしていた。そして彼は過去の自分の発言を思い出し、何故かため息を吐き出していた。


「いや、自分から行くんじゃなくて…」

「大丈夫だよ、私怪我してないし」


 町なかでスリングショットを使用したのは褒められたことじゃないが、緊急事態だということで大目に見て欲しい。ああいうときは飛び道具が一番効くと思ったのだ。


「あぁもう、リゼットはなんでこうなのかな…」

「なによ」


 私がなんだというのか。

 生まれ育ちが違うことを今更嘆いているのかヴィックは。それは私の否定になるんだぞ。わかっているのか。


「お転婆なのはわかっていたけど、私の寿命がもたないよ。頼む、向こう見ずなことはしないでほしい」


 じっと真剣な目で見つめられた私は彼が心の底から心配して言っているのであると理解した。


「わかった」

「本当にわかってる?」


 素直に頷いたのに疑われた。私がムッと不満を示すと、ヴィックは身を屈めて私のおでこに自分のおでこをくっつけてきた。


「……君になにかあったら私は冷静じゃいられない。君が傷ついては元も子もないんだよ?」


 そうは言うけど、私だって同じ気持ちなんだ、仕方ないじゃないか。


「…だって私はヴィックの傷ついている顔を見たくなかったんだもん」

「君って子は…」


 ヴィックは困った顔をして笑っていた。そして彼の整った顔がゆっくり近づいてきてそっと唇が重なった。

 私はぎょっとする。お城なら100歩譲ってよしとして、ここは城下町だ。もしかしたら知り合いもいるかもしれないのに町のど真ん中でキスとか…! 私はヴィックのキスを拒もうと顔を動かして避けたが、顔を固定されて更に唇を奪われた。


「んんん…!」


 やめてやめて、羞恥ならぬ周知プレイはやめてください。なにこれお仕置きなんですか。駄目だよ、大公としての威信に関わっちゃうってば…!

 口の中を余すことなく舐められ、舌を吸われ、音を立てて解放されたときには私は腰砕けになっていた。な、情けない。キスなんてたくさんしてきたのにここでヘロヘロになるなんて。それに…自分たちに突き刺さる好奇の視線がいたたまれなくて、私はヴィックの胸に顔を隠した。恥ずかしくて死ねる。


「お姉ちゃん顔真っ赤!」

「こら!」


 先程助けた少年には悪気なくからかわれるし、幼い少年に見せてはいけないものを見せてしまって申し訳ないと言うか…


「今度また無茶したらまたするよ?」


 私にだけ聞こえるように念押しされた言葉に私はビクッとした。

 ヴィックとしては脅しなんだろうけど、私は期待してしまった。彼の胸から顔を上げると、ヴィックは私を見て甘く微笑んでいた。


「…私はこういう心優しくて強い彼女に惹かれたんだ。まぁお転婆は大概にしてほしいけど」


 誰に向かって言っているんだろうと思ったら、そばに令嬢が居たことを思い出した。彼女は唖然とした顔をして固まっていた。そんな彼女に見せつけるようにヴィックはもう一度私にキスしてきた。

 令嬢の存在とかどうでもいいと言わんばかりにヴィックは私にキスをする。むしろこれで諦めてくれと念を込めていそうなキスだ。


「…わたくしに対する侮辱と受け取りましたわ! このことは帰国次第お父様に言いつけますわね!」


 令嬢を放置してちゅっちゅとキスを続ける私達にとうとう切れた彼女は怒って踵を返していった。

 …お父さんに言うの? エーゲシュトランド大公が人目憚らず女とキスしていたって? …なんかそれ恥ずかしいからやめて欲しい。


「…大丈夫なのあれ?」


 唇が離れた瞬間に掠れた声で問いかけると、ヴィックは仕上げに軽い口づけをして離れた。


「彼女の領地との取引が無しになるけど、それなら別の客先を当たればいいだけだよ。……うちで作るワインがお好きなあの娘の父親が愚かでなければそんなことしないだろう」


 令嬢の父親は沢山あるワインの中でエーゲシュトランド産が好きなお得意様だったらしいけど、そこと取引がなくなると痛手を負わないのだろうか。大丈夫なのかな。


「むしろやっと出ていってくれる」


 私の不安を察したのかどうかはわからないが、ヴィックはホッとした様子だった。散々帰るように促し続けてようやくだったのでそっちの気持ちのほうが大きいのかもしれない。



□■□



 城下町で騒ぎに巻き込まれ、朝ごはんを食べそこねた私は遅めの朝ごはん兼昼ごはんとしてブランチを摂っていた。もちろんヴィックも一緒にだ。私がお城入りしてからはいつも一緒にご飯を食べるのがお決まりなので普段通りお互いの一日のスケジュールを確認しあって、お話する和やかなお食事タイムだった。


「なぜ引き止めませんの!? 謝罪するのを待っていましたのに!」


 そこに割り込んできたのは出ていく雰囲気満々だった令嬢である。


「まだいたのか。外に港まで向かう馬車を待たせているから早く帰国すると良い。お父上にどうぞよろしく」


 なんて報告されようと構わないというスタンスを貫くつもりのヴィックには『食事中に不躾な…』という目で見られ、私達のお食事のお世話をしてくれている使用人たちには『あんたまだ出ていってなかったの?』という目で見られる令嬢。

 城下町で起きたあれからもう2・3時間経過しているし、城の中も静かだったからもう出ていったかと思ったのにまだ居たのか。なるほどヴィックの謝罪待ちしてたから静かだったのか。

 むしろなんでヴィックが謝らなきゃいけないのか。この令嬢の思考回路がよくわからない。


 私が小さく切ったパンケーキを口に入れて咀嚼していると、令嬢がこちらをギッと睨みつけてきた。

 なんか言われるかなと身構えつつ、オレンジジュースで口の中を潤していると、彼女の前に1人のメイドが近づいた。


「どうぞ、お外までお見送りいたします」


 堅実にキャリアを積んできたこの道のプロのメイド長である。彼女は待ってましたと言わんばかりに、男性使用人たちの力を借りて令嬢の荷物を外に運び出していた。


「えっちょっと!?」

「さぁ馬車にお乗りください。道中お気をつけて」


 流れるような追い出し作業だった。

 メイド長は中間管理職のような立場もあってそこそこストレスをためていたらしく、追い出した後は実に晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。その他の使用人たちも解放されたと言わんばかりの笑顔で……私、みんなのあんな晴れ晴れとした笑顔初めてみた。

 でも私も心の底から安心したので気持ちはよーくわかる。



 あ、ちなみにごろつきたちの侵入経路はまさかの私が利用している畑の裏にある里山だったそうだ。

 それ相応の扱いを受けることが決まったと報告を受けただけだけど……きっと彼らは生きて旧サザランドには戻れないだろうなって私は予想している。

 血なまぐさい話だが、危険因子を生かしておけないって理由もあるのだろう。


 ヴィックと結婚することになれば大変だよ、とお母さんには言われていたけど、私が思っている方向とは別の方で大変です。


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