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生き抜くのに必死なんです。〜パンがないならカエルを食べたらいいじゃない〜  作者: スズキアカネ
公妃になるなんて無茶難題過ぎます。

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どんなに見た目を着飾っても中身が伴っていなければ台無しですわ!


 お城入りして以降、メイドさんに毎朝毎晩いろんな物を塗りたくられ、マッサージされ続けた私はかなり変わった。血色もだけど、色艶も全く違う。

 栄養状態が良くなったお陰で頬はほんのりピンク色、唇も手先も髪先もしっかり保湿されているのでつやつやトゥルトゥルしている。当然、石鹸洗いでぼわぼわになっていた鳶色の髪の毛は天使の輪が輝くようになった。枝毛? 何それ美味しいの? それでもってドレスを身に着けたら見違えるほどに変化する。

 意外と私って可愛い…? と鏡をまじまじ見ながらナルシスト思考に陥ったことは数多い。毎日ヴィックが可愛い可愛いと愛でてくるせいで、自分でも可愛いかも? って思い込み始めているだけなのかもしれないけど。


「今日も可愛いねリゼット」


 周りに使用人がいてもお構いなしにキスをしてくるヴィック。最初は人に見られると恥ずかしいからとやめるようにお願いしたけど、愛情表現だからと言ってところ構わずキスをされるようになってもう慣れてしまった。

 周りの使用人さんはできた人ばかりなので、何も見なかったことにしてくれるか、「愛されてますね」と私をヨイショしてくれるかのどっちかである。

 私もちゃんとヴィックのことを想っているつもりなんだけど、ヴィックからの愛の割合が大きいんじゃ…? と疑問に思う今日この頃である。


 公妃教育は一朝一夕では終わらない。

 どんなに頑張ってもすぐに身につくものではないし、一気に詰め込んだら私がパンクするだろうということで、私には自由時間が設けられている。

 与えられた時間はヴィックとお茶したり、お城の庭を散歩したりと色々であるが……ここ最近の私は城下のはずれに耕したさつまいも畑のお世話をしに行くことが増えた。

 もちろんお目付け役のメイドさんと護衛さんも同行の上でだ。畑の世話くらい一人で大丈夫だとヴィックにも言ったけど、彼は私のことが心配でたまらないらしい。『できるなら自分が同行したいけど仕事が終わらない…』と泣き言を言っていたくらいである。


 彼は自分の息抜きは後回しにして私がしたいことを最大限譲歩してくれているんだ。とても優しい。だから私も頑張れるのだ。

 こうなったら秋に美味しいさつまいもをたくさん生産して、それを使ったお菓子をコックさんに作ってもらおう! なんかそれらしく説明すればスイートポテト的なものが生まれるでしょう! ヴィックもさつまいもは好きなのできっと喜んでくれるはずだ!


 やる気を漲らせながら畑にたどり着くと、青々とした緑が広がっていた。太陽の光を浴びて伸びた芋のつるを囲うようにして生えた雑草に手を伸ばすとブチブチと抜き始める。

 手を怪我してはいけないからとヴィックから手袋もらったけどこれはいいね。以前は作業中に手を怪我することが多かったから助かる。それに汚れてもいい、動きやすい作業着なんてものも準備してくれたんだ。日焼け対策に麦わら帽子をかぶって作業している私を傍から見たらきっと農民であろう。

 公妃になられるお嬢様が畑作業なんて…と嘆いているメイドさんたちの声が畑の外から聞こえてきて耳が痛い。


 ついてきてくれた護衛のお兄さんおじさんたちが雑草抜きを手伝ってくれたので予定よりも早く終わった。まぁ、日が経てばまた雑草が生えてくるのでまた除去作業しなきゃいけないんだけどさ。


 太陽の光と自然の空気を沢山吸った私は生き返った気分だった。

 別に城での空気が悪いとかそういうんじゃないけど、環境変わるとやっぱり体調崩したりするし、精神的に不安定になってしまうもんだから、こういう息抜きの時間を設けてくれたのには改めて感謝である。

 スッキリした気持ちでお城に戻ると、何やらお城の人がバタバタしていた。水場で土に汚れた靴の裏とか手を洗っていた私は何があったんだろうと首を傾げる。


「リゼット様!」


 そこへお城待機組のメイドさんが駆け寄ってきた。

 なんだなんだ。ただ事じゃないな。何が起きたんだと彼女に状況を説明してもらおうと声を掛けた。


「何が起きたんですか?」

「一大事にございます! ヴィクトル様の、婚約者候補であったというご令嬢が…」


 何やら不穏な単語が聞こえたな。

 ヴィックの婚約者候補、だって?


「──まぁ、汚らしい。なんですのこの下女」


 そこにギスギスした声が振りかかってくる。

 私が声の方へ視線を向けると、アンバーカラーのくねくねした長い髪を高く結い上げた女性がいた。タレ目がちの瞳は一見して優しそうに見えるが、その目は私への嫌悪と侮蔑に満ちている。

 ひと目でわかった。その人は上流階級の人間であると。


「そこのお前、わたくしの前から今すぐに消えなさい。目障りですわ」


 うーわー。典型的な高飛車お嬢様現れる。

 ていうかここはヴィックのお城なのに何故、我が物顔で人を排除しようとしているのか。


「まぁ! リゼット様に失礼ではありませんか!」

「おだまりなさいメイドの分際で。女主人となるわたくしに逆らってタダで済むとお思いなの? わたくしはヴィクトル様の婚約者ですのよ?」


 えっ、えぇー…ヴィックってば婚約者がいたの!? 初耳なんですけど!

 国の混乱で婚約話がうやむやになったのかもしれないけど、向こうがまだ約束が続いていると考えているなら、私との結婚どころじゃないんじゃ……


「──候補、というだけで、本決まりはしていなかっただろう。勝手に女主人ぶらないでくれないか」


 呆れたような声で高飛車令嬢を注意してきたのは疲れの色が見えるヴィックだった。彼はげんなりした様子で高飛車令嬢を見ていたが、その後ろに私がいると気づくと笑顔に様変わりした。


「リゼットおかえり。畑はどうだった?」

「あ、うんただいま…畑は順調だった。護衛さんたちが手伝ってくれたから今日の作業はもう終わったよ…」


 高飛車令嬢を避けて私の前に立ったヴィックは土に汚れた作業着なんてお構いなしに私をハグしてきた。あああ、ヴィックの服が汚れる! 土で汚れるから! と私が離れるように身体を押し返すも、ヴィックはそれを無視して頬ずりしてくる。

 もう絶対私汗臭いのに…。


「ヴィ、ヴィクトル様まさか、その娘ですの…!? 下賤な生まれの娘を気に入って連れ帰ってきたという噂は聞いていましたがそのような…!」


 高飛車令嬢は私とヴィックを見てわなわな震えていた。その顔は青ざめ、今にも卒倒してしまいそうだった。


「…彼女は私の大変な時に側で唯一支えてくれた人なんだ。彼女がいなければ私はあの国で野垂れ死にしていたに違いない」


 彼はそう言って私の片手を持ち上げると、恭しくキスを落とした。それに高飛車令嬢が「んまぁ…!」とテンプレな声を漏らす。んまぁって言う人初めて見たよ。


「国を復興しなくてはいけない今、私の心の支えになっているのは彼女だ。どんな向かい風にも負けないリゼットの前向きな強さが私には必要なんだ」

「そんな! 許されるはずがありませんわ! こんなの、あなたのお父様がお知りになれば…」

「父亡き今は私がエーゲシュトランド大公だ。文句を言う輩は排除する」


 排除しちゃうの? この人、本当に婚約者候補だったの? ってくらいヴィックは高飛車令嬢に冷たい態度である。

 もしかしたら大勢いた候補のうちの一人で、最有力候補ではなかったってオチなのかも……


「周りがどう言おうと私が妻にと望むのはこのリゼットだけ。それでも文句があると言うなら私は真っ向からお相手しよう」


 ヴィックは私の腰をぐっと引き寄せて密着してきた。今の私は作業着姿なので絵面的にあんまりロマンス感がないなぁと他人事のように考えていた私は少しばかり現実逃避していた。


「まぁ…彼女に勝てる女性などこの世のどこにも存在しないと思うがな。勝てると思うならかかってくるといい」


 ヴィックはいわゆるドヤ顔で決め台詞を吐き捨てた。

 でもね……そんなことないと思う。私のこと美化しすぎぃ!

 あー…でも逞しさでって意味でなら、けっこういい所まで行けるとは思う。サバイバルなら慣れています。


 私を選んだと胸張って言われるのは嬉しいけど、そんなこと言われるとプレッシャーすごいんですけど……私、カエルの丸焼き好きな野生児ぞ?


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