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生き抜くのに必死なんです。〜パンがないならカエルを食べたらいいじゃない〜  作者: スズキアカネ
公妃になるなんて無茶難題過ぎます。

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22/25

私の強みはハングリー精神(本能)でしてよ!


 家族みんなで移住した際にヴィックから将来に向けて色々学んでほしいからとお城入りを打診されたが、その返事を先延ばしにして別におうちを借りて家族と一緒に住むことにした。なんか急すぎて尻込みしたとも言う。


 荒らされて、家主がいなくなった家を間借りする形で落ち着くと早速家族全員で働き始めた。予想はしていたが、あの国の国王並びにサザランド伯の手のものは好き勝手に暴れたようだ。

 ヴィックの企てた反乱が可愛いくらいにこの国は傷だらけになっていた。略奪などのひどい目にあっても国への愛着があった国民は居着いていたが、多くの国民は身を守るために国外へ逃げていったあとだった。


 私達がまず取り掛かったのは荒れた家屋一軒一軒の修理と整理整頓、路地の清掃など地味なことばかり。学さえあれば書類仕事とか小難しいことも手伝えるんだろうけどね……あいにく私たち一家は力仕事専門なもんで。モクモク働くのは得意です。


 環境が変わって慣れないことばかりだけど、私達家族はなんとかやっていけた。ここでは一からだけど、最底辺を生きていたのでこの程度全然平気。

 むしろ前よりも生活水準上がっている気がする。


 地味に毎日毎日休まず復興作業していると入植希望者が遅れてやってきた。近所に元傭兵のおっちゃんが住み着いていたり、幼馴染たちと再会したりしてスラム時代を思い出したが、近くに知り合いがいるとなんだか心強くなった。

 なるほど、私が旅立つときにみんなが寂しがらなかったのはみんなも移住予定だったからか……。


 徐々にだが荒廃していた国が人の手によって生き返り始める。自分の見える範囲ではあるが、城下町はちょっとずつ活気を取り戻していっているように思える。


 エーゲシュトランドが復興に向けて動き始めたという噂を聞きつけたらしい異国の商人が商売にやってきて、一年ぶりに再会した。お人好しな商人は今年もあっちの国のスラムに足を運んで私に芋の苗を届ける予定だったとかで、私がこの公国にいるのをひどく驚かれた。入れ違いになるところだったのでここで会えて良かったと言われる。

 ついでにヴィックがエーゲシュトランド現大公様なのだと教えると、商人の目が飛び出しそうになっていた。そうだよ、商人をロリコン扱いしてきたあの青年のことだよ。

 かなり驚いていたけど、彼は商人魂を燃やしてヴィックに定期契約取引の話を持ちかけようと画策していた。知り合い特別枠で輸入販売業者にかかる税金をまけてもらうんだと意気込むあたり、商人はやはり商人らしい。


 商人から沢山の芋の苗をもらった。今年もタダでくれるらしい。商人は本当にお人好しだ。それで商売が成り立つのか心配だが、余計なことはなにも言わずにありがたく頂戴した。芋の苗があるなら他に必要なのは畑である。

 そんなわけでエーゲシュトランド城に出向くと、私を知っているお城の使用人さんが快く私をお城の中を案内してくれた。アポなし訪問なのにそのまま入場OK。ある意味顔パスである。


 ヴィックがいるという執務室の扉を使用人さんが叩くと中から応答があった。室内に入ると彼は書類の山に囲まれていた。

 寝不足なのか少々お疲れ気味ではあったが私の顔を見るなりふんわりと優しい笑顔を浮かべた。背後にある窓から差し込む光が後光のように見えて、宗教画の天使みたいである。うわぁ美人の笑顔すごい。ついつい見惚れて息を止めてしまったよ。


「リゼットどうしたの? 待ってて、お茶を用意させるから」

「うぅん、お邪魔になるからすぐにお暇するよ。お願いしたいことがあって来ただけなの」


 私がお茶を遠慮すると、ヴィックは見るからにがっかりした顔をしていた。

 流石に大事な仕事の邪魔になるようなことはしないよ。私がいたらヴィックは気遣って仕事を中断したままになるでしょ。それはこの国のためにはならないとわかっているからすぐにお暇する。


「…全然邪魔じゃないのに……それで、お願いって?」

「耕作放棄地を使ってさつまいも栽培してもいいかな? さっきあの商人と再会して沢山芋の苗もらっちゃったんだ」


 城下町のはずれに放置されて荒れた畑があるのを発見したのだ。もともとエーゲシュトランドの国民だった人に聞いたら、その畑はだいぶ前から放棄地で土地の所有者もすでに死んでるだろうだから使ってもいいんじゃないか? と返ってきたのだ。念のために使用してもいいかヴィックに尋ねると、「リゼット、もう大変なきつい仕事をしなくてもいいんだよ?」と悲しそうな顔をされた。


 ……ヴィックは何か勘違いしているな。

 私は確かにスラム時代には食べ物に苦労したけど、農作業や狩りに関しては楽しんでいた部分もあるから平気だよ。サバイバルは人生なんだ、心配召されるな。


「ただでさえ復興作業ですれ違い気味なのに…」


 いじけたように呟かれた。

 あまり賛成ではなさそうな空気をまとったヴィックは執務をしていた机から立ち上がると私の目の前に立った。未だ埋められない身長差のせいで私は首をぐっと上げなければならず、頚椎に圧迫感を感じる。彼は私の手を引いてそばのソファに誘うと一緒に腰掛けた。座ると目線が近くなったので頚椎を追い詰めなくて済む。

 ヴィックは本当に背が伸びたよね。私に少し分けてほしい。


「私としてはね、リゼットには早く城に入って色々と学んでほしいんだよ。そのための家庭教師やメイドたちの準備も整えている」

「あー……まぁ、そうね…」

「一日も早く、君には私の妻になってほしいんだ」


 ヴィックは私の目を真剣な眼差しで覗き込んできた。

 心変わりによるトラブル防止のためのお試し期間とはいえ、そんなに猶予があるわけではない。学ぶならどっちにせよ早いほうがいいのだ。

 復興に向けて皆が働いているのに私だけお勉強ってのが気が引けてなんとなーく逃げていたけど、流石にヴィックも見逃せないらしい。


 勉強らしい勉強は前世以来なので不安ばかりなんだが……逃げてばかりなのは良くないな。向き合うことも大事だ。


「…わかった」

「理解してくれてありがとう、リゼット」


 私が頷けばヴィックは心の底から安心した様子で微笑んでいた。その笑顔の美麗なこと。

 今でも信じられないんだ。夢から目覚めたらあのスラムのあばら家なんじゃないかって気になる。今も私は生き延びるために必死に生きている。

 相変わらず前世の記憶は役に立たないし、私の人生は前世に比べたら平和とは言い切れない。この幸せがいつか消えてなくなるんじゃないかって絶望的なことも考えることもある。


 ──だけどここで廃るのはスラム育ちの女じゃない。

 どうせなら培ってきたハングリー精神でやってやろうじゃん!

 自分に発破をかけると私は立ち上がる。隣に座っていたヴィックはキョトンと私を見上げて固まっていた。


「よし! そうと決まれば早く芋の苗植える準備しなきゃ!」

「え」

「執務中なのに邪魔してごめんね! 畑耕してくるねー!!」

「ちょっとリゼット?」


 土地が変わっても、立場が変わっても、私は強く生きてみせるんだ!

 やる気に満ちた私は目の前の仕事を片付けるべく、ヴィックの執務室を飛び出したのである。


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