後編
名乗りを聞いたマルディンは目を丸くした。
それから取り巻きを見回し、これ見よがしに大笑いする。
「"暴食"だって? そいつは世界最強の剣士の二つ名だ! てめえみたいな飲んだくれが名乗るもんじゃねえよ」
「つまり偽物だって言いたいのかい?」
「そうに決まってるだろうがッ!」
マルディンが漆黒の剣を振るう――否、振ろうとした。
攻撃を仕掛ける寸前、彼の右手と剣が丸ごと消失したのである。
手首の断面から噴き出す鮮血を見て、マルディンは思考停止する。
「は……?」
「すまんね。隙だらけだから喰わせちまった。恨むなら弱い自分を恨んでくれ」
エイクが軽い動作で剣を横薙ぎに動かす。
鞭のようにしなり伸びた刃がマルディンの首を刎ねた。
さらに切り離された頭部に刃が巻き付くと、溶かすようにして吸収してしまう。
一瞬の出来事だったので、エイク以外の人間は目視すらできなかったろう。
取り巻き達は、首を失って倒れるマルディンを目の当たりにしてパニックに陥る。
「うおおおああああああああっ!?」
「頭がやられたっ!」
「やべえぞ、逃げろッ!」
取り巻き達が酒場の出口へと殺到する。
そこにエイクの刃が襲いかかった。
変幻自在に歪み浸食する斬撃は、取り巻き達を薙ぎ払うように解体する。
そして残骸を啜るように溶かして吸収していく。
酒場のマスターは頭を抱えて怯えていた。
致死の剣を振り回すエイクは、平然とした顔で述べる。
「悪いが逃がすつもりはないんだ。こいつが腹を空かせてるもんでね」
ものの一分足らずで荒くれ者は全滅した。
彼らは誰一人として酒場から出られず、エイクの剣に捕食されてしまった。
剣を鞘に戻したエイクは、恐怖で動けないマスターに詫びる。
「騒いじまってすまんね。迷惑料はこいつらの死体から取ってくれ」
「はっ……い、いえ……」
マスターは震えながら応じる。
そして酒場を出ていこうとするエイクに恐る恐る問いかけた。
「……あんた、本当に"暴食"のエイクなのか?」
「ああ、そうさ。ただの薄汚れた飲んだくれと思ってたろ」
「えっ!? いや、そ、そんなまさか……」
「ははは、気にしないでいい。周りからどう見えてるか分かってるよ」
エイクは肩をすくめて笑う。
そして彼は言った。
「傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、怠惰……もし他の連中が来たら伝言を頼むよ」
「で、伝言……?」
「エイクがお前らを喰いたがってる、ってな」
獰猛な目で舌なめずりをした後、エイクは酒場を出て行った。




