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一話 私、今から断罪されるみたいです(仮)

「それでは、判決を下す」

「死刑だ!」「死刑にしろ!」「そうだそうだ!」


「静まり給え!!」


 怒声を浴びた群衆たちは、そのまま固唾をのんで被告人の裁きを待つ。


「被告人、グローリア・クロフォード公爵令嬢を、貴族の名を剥奪し、国外追放とする」


 わぁあっと一気に声を上げる群衆。この国の第一王子であるアーヴィンは顔を歪める。


「どうだ、公爵令嬢よ。なにか申し開きはあるか」


 被告人は無表情で顔を上げる。


「申し開きなど、ありませんわ。婚約者様」


 にこりとした笑みを浮かべて、私は言った。


  ◆


私の名はグローリア・クロフォード。才色兼備で家柄もいい公爵令嬢で、今から国外追放されるらしい。

 そして私の目の前にいるのがアーヴィン第一王子。端正な顔立ちをしているが、実は私を国外追放するのを密かに企んでいた輩である。その隣の令嬢と共に・・・。


「グローリア!そんな・・・こんなことが起きる訳ありません!どうか殿下、裁判のやり直しを・・・」

「ああ、君はなんて優しいんだ、そんなことをする必要はないよ」


 ルシア・フォンテーヌ。フォンテーヌ家の三女で、魔法の才があり、聖女とも言われている。そんな彼女の本性はというと―――。


「だって、グローリアは私の親友なのに!いじめなど起きるはずが・・・!」

「可哀想に、あの悪女に洗脳されているんだね、でももう大丈夫だ、私が助けてあげるからね」


 めちゃくちゃ人が良かった。

 よくある「実はあんたのこと嫌いだったのざまあ」とかではなく本当にただ私のことが好きなのだ。まあそもそも従姉妹だしね。仲が悪いわけがないのに。


「というわけで!」


 というわけでじゃないわよ私の言い分も聞きなさいよこのアホーヴィン!!いっつもいつも私とルシアの関係を疑いやがって!ただの仲の良い従姉妹よ!

 心のなかでとんでもない悪態をつきつつ無表情で王子の言葉を聞く。


「さっさと国外へ出るがいい、悪女め」

「グローリア・・・!!」


 ルシアが悲痛な目をしているところ申し訳ない。私、国外に行く気なんてないから!!どっかの村とかでのんびりスローライフかまして差し上げますからね!!安心して!ルシア。

 そうして騎士に連れられ、家に着いた私は早速荷造りをすることになった。


「急がないと、早く家を出ないといけないんだから」


 そして荷造りをしている私を邪魔しにかかったのが。

 優雅に歩いてきた姉妹が、高級そうな扇をばたばた振る。


「全く馬鹿ねえリアったら、泣く泣く家に帰って来るなんて」

「本当よお姉様、せっかくの縁談を捨てるなんて。公爵家失格だわ」

「そうよねえ、あはははは」

「どうしてお姉様ったらこんなに不憫なの?可哀想だわ」


 いや別に泣いてないんだが。というか早くどっか行ってくれないかしら。まだ荷造りは終わっていないのに。

 ことごとく私をいじめる姉さまと妹、アウロラ・クロフォード。なぜか毎回毎回私が自分をいじめたと母さまに泣きつく。わたしは何度目かのため息をついて言う。


「あの・・・そんなにいやなら早く部屋から出ればよろしいのでは?わざわざここに居てまで言うようなことでは」


「ひどい!私はお姉様を慰めようといっただけなのに!どうしてそんな事を言うのですか!」

「そうよリア、謝りなさい!妹までいじめるなんて本当に性根が悪い!やっぱり国外追放されてよかったわね!」


 泣きじゃくる妹を庇う姉様。その声を聞きつけたのか母まで出てくる。


「お母さま!」


「ああ、ああ可哀想に私のアウロラ。グローリアにいじめられたのね」


 やさしく妹の頬を撫でる母。私にはそんなことしたことないというのに。


「私、何も言っていないのに!どうして私が!」

「リア!いい加減になさい!いつまでも妹に嫌がらせをして、悪いとは思わないの!」

「そんなことを言われましても。私今、荷造りに忙しいのです。妹をいじめる暇なんてありませんよ」

「なんですって・・・!」


 私の反抗的な態度に腹がたったのか、すくっと立ち上がって私を睨む。


「早く出ていきなさい、この悪女が!」

 ばたっと勢いよくドアが閉まり、急激に部屋が静かになった。


「はぁ、もうなんなのいったい・・・。それより、このあとの行き先を考えないと。まずはギルドに行って、新しく名前を作って、あっ、お仕事ももらわないと。あんまり王家とかかわらない仕事が良いわね」


 王家と関わらない仕事といっても、魔法を扱える仕事は存在する。まぁ、そんなに気落ちすることでもないかな。

 荷造りを進めながら、私はそんな事を考えていた。







 私が家を出ることに反対する家族はいなかった。逆を言えば家族以外は反対していたわけで――――。


「うわぁああん!お嬢さまぁぁ、いなくならないでくださいぃぃぃ」

「ちょ、ちょっと声が大きいわよ・・・」


 馬車の御者がドン引きするほど泣きわめいているメイドを私は急いで落ち着かせる。

 メイドのアリス。少しおっちょこちょいだがそれが可愛く、すでに我儘化していたアウロラと違い、小さい時から妹のように可愛がっていたのを覚えている。


「大丈夫よ、ほんとに国外へ行くわけじゃないってさっき言ったでしょう?」

「だとしても嫌ですよぉおお、今まで旦那様の仕事をこっそり手伝ってくれていたのに、急にいなくなったらほんとに経営が終わっちゃいますよぉ」

「安心して、ちゃんとその後のことは書いているから」

「そういうことじゃないんですよぉおお・・・。もっとですね、自分の心配も・・・」


 ぶつぶつ言っているアリスに、私は微笑む。


「じゃあね、アリス。今までありがとう。またいつか会いましょう」

「お嬢様ぁあ・・・。っ、あの、私の実家、ローズウッドっていう名前の本屋なんです。だから、いつかそこに来てください。1ヶ月後のお祭りの日に会いませんか!」

「アリス・・・」


 私も召使いには恵まれたわね。・・・家族には恵まれなかったけど。


「お嬢様、俺の実家にも祭りの日に来てください。きっといますから」


 私の護衛だったアルフォンソも涙ながらに言ってくれる。


「・・・ありがとう、みんな!また会いましょう!」


 笑顔を見せて、私は馬車へ乗り込んだ。

アリスもアルフォンソも、馬車の窓から私が見えなくなるまで、ずっと手を降ってくれていた。

 私は申し訳ない気持ちを抱えながら、窓へもたれかかる。


「......リア、いいのかよ。本当に行っちゃって」


 御者に話しかけられた私は、そのままツンとした顔をする。


「いいって何よ、アレン。むしろ私は重罪を犯そうとしているのよ。国外追放って言われたのに国内に留まろうとしてるんだから」


 アレン・ターナー。私の幼馴染で、ずっと前から御者の仕事をしている。

御者台にいるから彼の顔は見えないけれど、きっとアリスたちと同じ顔をしているはずだ。


「......そんなに静かになるなよ、またいつでも会えるだろ、この国にいれば。」

「そうね、そうよね」

「俺はリアがあの女をいじめたとは思ってないし、だから誰もやりたがらなかったお前の御者なんてしてるんだよ」

「・・・ごめんなさい、わざわざアレンがやる必要なんてなかったのに」

「だから俺は!......まあ、リアには分かんねぇよな」

「何がよ」

「恋とか青春とかそういうやつだよ」


私は自分の胸に手を当てて考えてみる。


「・・・確かに?」

「ははっ!!」


 がたっとアレンが笑った拍子に馬車が揺れたので、私は慌てて文句を言う。


「ちょっと揺らさないでよ!結構大事なものも入ってるのよ!そんなんじゃまだまだ半人前ね」

「リアと久しぶりに会ったときくらいには上手になってやるよ」

「あら楽しみ」

「......アリスもアルも言ってただろ、1ヶ月後にお前に会いに来てほしいって」

「ええ、そうね」

「俺も楽しみにしてるからな」

「あら、1ヶ月で上手くなるつもりなの?随分と減らず口を叩くわね」

「やってやるよ」


 がたっと馬車が揺れ、ゆっくりと停止する。

 アレンがわざわざ荷物を出してくれ、重くならないよう魔法をかけてくれる。


「ありがと、結構重かったから助かったわ。」

「どーいたしまして」


 手についた土をぱんぱんと払い、アレンは急に黙り込む。


「・・・ちょっと、どうしたのよ」

「......本当に、行くのか」

「だからそうしないといけないって言ってるでしょ。出発前にも言ったわよこれ」

「でも、リアは今までメイドがずっとついてた暮らししてただろ。いきなりメイドがいなくなって暮らせるのかよ。それに、庶民がどんな服を着てるかだってわからない。そんな様子じゃ、すぐに見つかって今度こそきつい処罰が」

「アレン」


 私はアレンの頬を両手で挟む。


「私は今までだってメイド無しで暮らしてきたも同然。時々街に降りていたし、宿の適正料金だってわかる。」

「リア......」

「私はもう姉様や母さまの言うことばかり聞く人形じゃない。ちゃんと感情のある、普通の人間よ」

「......っふ」

「!な、何よ」


 アレンが急に笑うものだから、私は慌てて手を引っ込める。

「いや、そうだよな。リアは昔はこうだったんだよな。何でも自分でやらないと気がすまない性格で、メイドの言うことは全く聞かないお転婆で」


 アレンがあまりにも懐かしそうに私のことを語りだすものだから、私は急いで話を遮る。


「もう、うるさいわよ!また会えるって言ってるでしょう?」

「ああ、そうだな」


 アレンはそう言って空を一度見て、その後私を見て、跪いた。


「リアに祝福があらんことを」

「・・・何言ってるの、気持ち悪い」

「おい、そんな強く手拭くなよ!傷つくだろ!せっかくかっこよく終わらせたかったのに」

「残念ね、私がいるせいで」


 私は荷物を持ってぐるっと一回りして、にこっと笑ってみせる。


「じゃあね、アレン!」


 そう言って、私はアレンの元を去っていった。



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