アメリカの「トリプルレッド」でトランプ独裁体制になるのか?
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
日本ではアメリカが大統領、上下両院が共和党が多数のいわゆる「トリプルレッド」の体制になったために「権力の肥大化」「トランプ独裁」と言う状況になったのではないか?
と言うまるで「この世の終わり」かのような日本の報道があります。
しかし、僕の視点としてはアメリカは現状ではそこまで暴走することは無いのではないか? と思っています。
そして、どういう時が一番危険なのか? 日本の党議拘束について僕なりの視点で見ていこうと思います。
◇日本と構造的に全く「権力構造」の様相が異なる
質問者:
「トリプルレッド」で共和党の支配――つまりトランプさんの支配が確立したという事では無いんですか?
筆者:
皆さん「日本と同じように」考えてしまっているために「事実誤認」している可能性があると僕は思っています。
日本においては衆院3分の2あれば、内閣総理大臣の指名が行え、あらゆる法案が通せます(参院で否決されても衆院再可決できるので)。
更に党議拘束やそれに反すれば党役職停止、追放などの重い処分があるので「党首=内閣総理大臣」と言う状況もあって権力構造が内閣総理大臣に一点集中しがちです。
しかし、アメリカでは「大統領候補」や「大統領」が事実上党を取り仕切るという事はあるのですが、「党首」と言うのは存在しておらず、党内の処分を大統領が行うことはまず無いです(圧力をかけることはありますが)。
質問者:
えっ……そうなんですか!? 共和党ならトランプさん。民主党ならバイデンさんかハリスさんが党首だとてっきり思っていました……。
筆者:
勿論、それらの方々から支持された候補者と言うのは非常に強力なバッグがあるので、
選挙には当選しやすくなります。
しかし、大統領には党内での処罰権限は持っていません。
また上下院共に党議拘束もありませんから、法案や審議について自由に投票できます。ここが日本との決定的な違いです。
敢えて言うのであれば「上院院内総務」というのが日本の「党首」に近い、党を取り仕切る立場だと言われています。
そして、共和党には「ライノ(名ばかり共和党員)」と言われる勢力が議員にも少数ながらおり、トランプ氏の一部の政策に反発する方もいるようです。
トランプ氏1期目では同じ「トリプルレッド」の状態になりましたが、
「ライノ」筆頭格であるミッチ・マコーネル氏が上院院内総務に鎮座していました。
そのためにトランプ氏の強硬な政策の一部は阻まれてきた(抑制できたという見方もある)ということが過去の経験則としてあるのです。
11月13日に上院院内総務が交代することが決まりましたが、マコーネル氏の右腕として支えてきたジョン・スーン議員(サウスダコタ州)がイーロン・マスク氏の推すリック・スコット氏を破り次期共和党院内総務に選出しています。
スーン氏は自由貿易の擁護者でもあり、関税や対ウクライナ支援を巡りトランプ次期大統領と対立する可能性が出てきています。
※トランプ氏は具体名を挙げて推薦しませんでした。スコット氏の方が良かったもののあまりの劣勢のために「敗北実績」を作りたくなかったと言われています。
質問者:
なるほど……。アメリカは日本より自由なので見た目以上に大統領は力が弱いんですね……。
新しいスーンさんと言う方がいることでトランプさんの政策が抑制される可能性もあるわけですか……。
筆者:
アメリカは面白いことに、「与党少数派」が大きなカギを握ることがあります。
今年の始めには15回投票して「下院議長がようやく決まった」と言ったことが起きましたが
これはトランプ氏に近い集団と言われる「フリーダム・コーカス」が下院議長の政策に対して抵抗したことから難航しました。
最終的にはトランプ氏側に折れたマカーシー氏が選ばれましたけどね。
今後はその逆としてトランプ氏側では無い人間が上院の人事、下院の予算などでキーパーソンになる可能性があります。
質問者:
個人の自由が尊重されると少数派でも力を握れるわけですか……。
◇「閣僚指名」が重要なポイント
筆者:
もっとも、トランプ氏に寄っていれば閣僚ポストの付与や当選のしやすさと言うのは上がりますから、最もアメリカで権力があるのはトランプ氏であることは間違いないです。
※実際に「ライノ」と呼ばれる共和党議員は上下院共にこの8年で減少しています。
ただ、アメリカの場合その閣僚ポストも自由にできるわけではありません。
上院が大統領によって指名された人物を個々人ごとに承認(各省長官、最高裁判所裁判官、高位の軍司令官など)をする権限があり、「ライノ」が反発すれば承認されない可能性があります。
現在、各長官候補として
中国への強硬姿勢を進める可能性が高いと言われている国務長官候補のマルコ・ルビオ上院議員や司法長官候補に司法行政の経験がないマット・ゲイツ前下院議員。
国防長官候補に対ウクライナ支援に対して懐疑的なFOXニュース司会者で行政経験の無いピート・ヘグセス氏。
国家情報長官候補には「太平洋侵略を思い起こすと、現在の日本の再軍備は本当に良い考えだろうか」と発言しているギャバード元民主党下院議員。
厚生長官候補には現状の医療体制を疑問視しているロバート・ケネディ・ジュニア氏。
新設される「政府効率化省」を担当し「200兆円以上削減」などを宣言している実業家のイーロン・マスク氏。
と、これまでの方針の根幹から転換する「濃すぎるメンバー」が次々と候補として挙がってきています。
しかし、ここまで振れ幅が大きそうな人選ですと、上院で25年1月以降に行われる承認で共和党が承認する可能性と言うのは低いのではないか? とまで言われています。
質問者:
なるほど……日本で言う組閣の段階で承認が必要と言うのは面白いですね。
筆者:
ただトランプ氏はこれをも回避しようと画策しているようで、
『次期政権のポストが「タイムリーに」補充されるよう、上院の承認なしでの休会中の任命を支持しなければならない』
と発言しているようです(11月11日のBloomberg日本語版より)。
こんな掟破りが許されていいのかは僕にはちょっと分からないんですけど……。
上記の「濃い人事」がほとんどそっくりそのまま認められてしまう可能性があるとも言われています。
質問者:
それは大変ですね……。民主的に選ばれてほしいところです。
この人選が世界にも影響を与えそうですからね……。
筆者:
トランプ氏も閣僚や上院が反対しまくれば流石に止まることになるでしょうからね。
世界的に注目しているのはウクライナとイスラエルの支援でしょうね。
民主党は基本的にウクライナ支援、イスラエル支援で一致しており、ついこの間まで上院で同数(正確には副大統領で民主党優位)と言う状況でも問題は無かったわけです。
この2つの支援が止まるか否か。
日本に影響が大きそうなこととしては、関税が爆上がりしてしまうかどうかは上院・下院の共和党の議員次第という事です。
※アメリカ上院には外国政府との条約の批准の権利もあります。
アメリカ下院には予算の審議と税金の決定をする法案を決める権利があります。
質問者:
ともかく、25年1月以降に組閣が決定されるまではまだまだトランプ大統領の周辺メンバー全容と言うのは分からないという事なんですね?
筆者:
そうなります。密かに焦点は「閣僚ポストに上院が介入できるか」が重要だという事です。
いよいよ閣僚が決定してからまた情勢がどうなるかについて考えていこうと思います。
僕もトランプ氏が最初に登場してから8、9年で随分と詳しくなりました(笑)。
◇日本の「党議拘束」は民主制度を破壊している
質問者:
アメリカでは思ったより独裁的では無い印象を受けるのですが、
日本では何か党に縛られすぎている印象を受けますね……。
筆者:
前々から僕は問題としていますが「党議拘束」って言うのは本当に「アホらしい規則」だと思います。
特に、国会での法案の賛否ぐらい自由にさせてくれないものかな? と思ってしまいます。
23年のLGBT理解増進法案では自民党の委員会では半々ぐらいで賛否が分かれていたのに、決議では棄権した人が数人ずつ出ただけと言う有様でしたからね。
これは「議員個人の喪失」を意味していますから、党単位でしか見れなくなってしまいます。
この間の総理指名選挙でも党単位で完全に動いていましたしね。
こんなことをされては、国民が政治から離れていっても仕方ないと思います。
質問者:
確かに、民主的ではあまりにもありませんね……。
これが問題として挙がってこないのはまた異常だと思うのですが……。
筆者:
マスコミではなく「プロパガンダ機関」だと思った方が良いですからね。
「党議拘束の文化」があった方が与野党ともに党内を支配しやすく、
好都合なので「党議拘束全面撤廃」は中々厳しいように思います。
しかし本来であれば全ての議決に対しては自由であり、そうで無ければ「総理大臣=党代表」の思いのままになってしまいます。
これは行政と立法の癒着とも言っていい状況で「民主主義は崩壊」していると言って良いでしょう。
現在は衆議院過半数では無いので違いますが、ついこの間まで自民党総裁の「事実上の独裁」に完全になっていました。
質問者:
「政治とカネ」や「裏金」の問題も勿論大事だと思いますけど、こういった細かいところも重要になってくるんですね……。
筆者:
こういう地味な論点についても問題点として指摘していこうと思いますね。
という事でここまでご覧いただきありがとうございました。
今回は「トリプルレッド」そのものにはトランプ氏の権力増強にはつながらず、
どちらかと言うと「閣僚指名」や「ライノ」と言った要素の方が重要であるという事。
日本には「党議拘束」があるために全く民主的では無いので改善するべきだという事をお伝えしました。
今後もこのような日本に関係する国際情勢や政治経済について個人的な考察をしていこうと思いますのでどうぞご覧ください。