53話「それはとてものどかな」最終話
翌日――
ヴォルフハート王国、庭園――
今日はとても天気が良いので、庭園にテーブルと椅子を並べ、そこでお茶をしています。
フェルとクレアさんは、宮殿でお菓子作りに勤しんでいます。
今日は庭師の方もお休みなので、いま庭にいるのは私とレオニス様だけです。
モンスターの出現が減ったので、彼が離宮に来る頻度が増えました。
宮殿や離宮にいるとき、彼は軍服ではなくジュストコールを纏うようになりました。
私はというと、クレアさんに桃色のドレスを着せられ、髪をハーフアップにされ、髪にドレスと同色のリボンが結ばれました。
私が嫁いで来たとき荒れ果てていた宮殿の庭園は、半分は畑に、半分は手入れされ美しい花々が咲き乱れています。
私達が今いるのは、花が咲いている方の庭園です。
クレアさんに、レオニス様と二人きりにされた気がします。
畑ではなく、庭園でお茶をいただいているのもムード作りのためでしょうか?
私は畑で農作業着をしているレオニス様も気に入っているのですが。
彼の光る汗が見られなくて残念です。
「グレンツェンダー・コール、ハイレンデス・クラウト、エントギフテンデス・グラース、エアホーレンダス・ブラットの種を、バーナード王子に渡したそうだね」
「すみません。
レオニス様に内緒で勝手なことをして……」
「あの植物は君が見つけたものだ。
どうしようと君の自由だ」
レオニス様は優しく微笑みました。
「それに、君が祖国を見捨てるとは思っていない」
レオニス様は、全てお見通しのようです。
「祖国を見捨てられない優しい君だから、僕は惚れたんだ」
「惚れた」などと言われると、顔に熱が集まってしまいます。
「ところでアリアベルタ。
こうしてクレアが場を整えてくれたことだし、妖精殿もいないし、君に聞きたいことがある」
「はい、何でしょうか?」
「俺は君に『愛してる』と告げたが、君からの返事を聞いていない」
レオニス様は私の手を取り、真っ直ぐに私を見つめました。
あの時は、妹のことがあって動揺していましたが……。
よく考えると大勢の人の前で告白され、抱きしめられたんですよね。
今頃、恥ずかしさが込み上げてきました。
私の心は決まってます。
「私もレオニス様の事を……お慕いしております」
言葉に出すのは照れくさいものがあります。
「妖精殿よりも俺は上だろうか?」
「二人共大切な存在なので上とか下とかは……」
それは大事なことでしょうか?
「フェルは一緒にいると落ち着いて、楽しくて、家族のような存在です。
レオニス様は一緒にいるとドキドキして……見つめられると顔が熱くなって……」
私は何を説明しているのでしょうか……?
「少し前まで、フェルとレオニス様が、それぞれに大切な方を見つけたときのことを想像していました。
フェルとはそれでも毎日会いたいと思いました。
ですが、レオニス様が他の方と仲睦まじくしているのを見るのは辛くて……遠くに行きたいと思いました」
私の言葉を聞いて、レオニス様は目を細め、頬を赤らめ、口角を上げ、フッと笑いました。
「つまりそれは妖精殿の事は家族や弟や友人として好きで、俺の事は恋愛対象として、つまり異性として愛しているということだな」
彼はとても機嫌が良さそうでした。
「そうなのでしょうか?」
「友人や家族なら、その人に他に愛する人が出来ても傍にいたいと思う。
だが、異性として愛している存在に他に好きな人が出来たら、一緒にいるのが辛いと思う、そういうものだ」
彼に説明されて、ようやく腑に落ちました。
「アリアベルタ、愛している。
ずっと君にキスしたいと思っていた」
「レオニス様……そんな急に……」
彼は私を真っ直ぐに見つめ、私の頬に手を置きました。
「アリアベルタ、嫌なら俺を引っ叩いてくれ。
それができないなら、同意と取ってキスする」
そんないい方はズルいです。
レオニス様のことを平手打ちできるはずがありません。
彼の顔が近付いてきて……私は瞳を閉じました。
彼の唇が私の唇に触れたのはその少し後のこと……。
◇◇◇◇◇
「アリアベルタ、聞いてもいいか?
妖精殿の口にキスはしたか?」
「いいえ、フェルの頭や額にはキスしていました。ですが唇には……」
お母様が唇へのキスは愛する人としかしてはいけないと教えてくれました。
「では俺はアリアベルタのファーストキスをいただいたわけだ」
レオニス様は嬉しそうに微笑みました。
そんな風に言われると照れくさくなってしまいます。
「セカンドキスも、サードキスも全部俺のものにしたい」
彼にその後、何度も口付けをされました。
余りに長い時間、レオニス様とキスしていたので……。
クレアさんとのお菓子作りを終えたフェルが庭園にやってきて、レオニス様とキスしてるところを見られてしまいました。
そのときは、顔から火が出るほど恥ずかしかったです。
レオニス様とフェルの口げんかが始まったので、私はクレアさんとお菓子を食べながら二人の様子を眺めることにしました。
レオニス様がフェルをお菓子で釣って、フェルを他の場所に移動させ、フェルのいない時にキスを迫って来るようになったのは……もう少し先のお話です。
――終わり――




