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52話「ノーブルグラント王国から謝罪に来た男」




二週間後――


ヴォルフハート王国、王宮、謁見の間――




妹が祖国に強制送還される日が来ました。


送還される妹を引き取りに来たのは、バーナードお兄様でした。


「実妹シャルロットが大変ご迷惑をおかけしたこと、心より謝罪いたします。

 シャルロットは王女の身分と王位継承権を剥奪し、僻地にある修道院に終生幽閉します。

 妹の罪はこちらで厳しく裁きます。

 どうかシャルロットが王太子並びに、王太子妃に対して犯した罪を寛大な心を持ってお許しください」


お兄様は、国王陛下と王妃様とレオニス様に謝罪していました。


謁見の間で頭を下げるお兄様は、祖国で見たときの傲慢さはありませんでした。


妖精の加護を失い、食物の育成が思わしくなくなり、考えや行動を改めたのかもしれません。


シャルロットとの会話から、フェルの誘拐事件は彼女の独断で行ったことと判明しています。


お父様とお兄様は、私に頭を下げて妖精の加護な恩恵を受けようとしていた。


彼らを責めることはできません。


「バーナード殿、顔を上げなさい。

 この度のことは、シャルロット王女が独断でしたことと調べがついている。

 ノーブルグラント王国にまで罪を問うつもりはない。

 ノーブルグラント王国はアリアベルタの祖国。

 わしは、これまでと変わらず友好関係を続けたいと思っている」


陛下は、ノーブルグラント王国を罪に問いませんでした。


「ヴォルフハート王国の国王陛下のお慈悲に、心より感謝申し上げます」

 

お兄様は、もう一度深々と頭を下げました。



 ◇◇◇◇◇



「お兄様が謝罪に訪れるとは思いませんでした」


私はお兄様と強制送還される妹を見送る為に、正門前の広場まで来ていました。


妹は鉄格子付きの黒塗りの、しっかりした作りの馬車に乗せられています。


妹に逃げられない為に、馬車の周りには沢山の兵士が整列しています。


「妹がこれだけの問題を起こしたのだ。

 謝罪には王族が直接赴くしかないだろう?

 父上はお年だ。

 その上、不作で心が弱っている。長距離の移動には耐えられない。

 謝罪には、第一王子である僕が赴くしかなかった」


お兄様は憂いを帯びた瞳で、遠くを見つめました。


「重臣にシャルロットの迎えをまかせたら、シャルロットが途中で逃げ出しそうだったからな。

 シャルロットなら言葉巧みに重臣や兵士を惑わすだろう」


確かに、妹ならそれくらいのことはしかねません。


「妖精の誘拐を企てるなど、シャルロットはどうかしている。

 妖精を傷つけた人間に、妖精が加護を与えるはずがないのに……。

 どうしてあいつは、そんな簡単な事がわからないのか……」


お兄様は沈うつな表情で深く息を吐きました。


「その上、妖精は元々自分のものだったと嘘をつき、レオニス王太子に結婚を迫るなど……」 


お兄様は眉間に皺を寄せ、ため息をつきました。


「王太子とアリアベルタが仲良く暮らしているという報告は、我が国にも届いていた。

 二人の仲が良好なら、妖精についての情報が、アリアベルタの口から王太子に伝わっていると想像できたはずだ。

 後から出て行って『妖精は実は自分の物でした』と言ったところで、誰が信じるというのか……」


お兄様は厳しい表情で肩を横に振りました。


指摘され、私は胸を抉られました。


私は、妹の穴だらけの計画にまんまと乗せられてしまったのです。


長年お母様とフェル以外の人間と接して来なかったので、私は人の策略や嘘を見抜くのは苦手なようです。


王太子妃として生きていくなら、人を見抜く目を養わないといけません。


これからの課題です。


「シャルロットは厳しい修道院に入れ、二度と外に出さない。

 シャルロットに従っていた者達も、厳しく罰するから安心してほしい」 


お兄様は厳しい目つきでそう言いました。


今は彼の言葉を信じるしかありません。


お兄様は、妹ほど愚かではないと信じています。


「アリアベルタ、父は僕に王位を譲り、隠居することになった。

 正式な発表はまだだが、君には先に伝えておきたかった」


「お父様はどこか体の調子が悪いのですか?」


数カ月前にお会いした時はお元気そうでしたが……。


「我が国の君に対するけじめだよ。

 君の母親が亡くなったあと、父は君の世話を放置していた……。

 父はその責任を取って退位する」


祖国にいたとき、私が放置されていたのは、使用人が怠けているからだと思っていました。


どうやら使用人の行動は、お父様の私に対する無関心から来ていたようです。


「父は、『妖精の加護を受けている娘を、長年に渡り虐待していた男が国王では隣国に示しがつかない』……と言っていた。

 父なりに君にしたことを反省しているんだ」


お兄様が沈うつな表情で言いました。


あのお父様が反省なさるとは、祖国の経済状態はよっぽど悪いようですね。


「……僕だって同罪だ」


お兄様が苦しげな表情でそう漏らしました。


「この国に来たのは、シャルロットを引き取る為だけじゃない。

 君に直接謝罪したかったからだ。

 アリアベルタ、今まで本当にすまなかった」


お兄様が私に向かって深々と頭を下げました。


彼に謝罪されるとは思っていなかったので、私は面食らってしまいました。


「君の母親が亡くなったあと、父が君の世話を放置しているのは知っていた。

 知っていたのに……僕は何もしなかった。

 本当に申し訳ない!!」


お兄様に謝罪される日が来るとは思っていませんでした。


ついこの間、妹から似たような謝罪をされました。


妹の謝罪は、フェルを誘拐するために私を油断させる為の演技でした。


お兄様の場合はどうなのでしょう?


ノーブルグラント王国の為に、とりあえず頭を下げてるだけかもしれません。


「お兄様、頭を上げてください」


それでも、謝罪されて悪い気はしません。


妹に騙されたばかりなのに、兄の謝罪を受け入れてしまうのですから、私もかなりのお人好しです。


「祖国でされたことを全部許せるかと問われたら、今は『はい』とは言えません。

 ですがノーブルグラント王国は母が愛し、留まる事を決めた国です。

 その国の人々が飢えに苦しむのは、私も天国のお母様も望んでいません」


ノーブルグラント王国が滅んだら、きっとお母様が悲しみます。


「だから、ノーブルグラント王国の未来をお兄様に託します」


私は麻袋をお兄様に手渡した。


「この袋は?」


麻袋を受け取ったお兄様が、首を傾げています。


「貧しい土地でもよく育つ植物の種を入れました。

 ノーブルグラント王国は妖精の加護を失いました。

 これから様々な苦難が降りかかるでしょう。

 お兄様には、この種を撒き民を困窮から救ってほしいのです」


お兄様に渡したのは、グレンツェンダー・コール、ハイレンデス・クラウト、エントギフテンデス・グラース、エアホーレンダス・ブラットの種です。


グレンツェンダー・コールは食料になります。


ハイレンデス・クラウトとエントギフテンデス・グラースはポーションの材料になります。


ポーションほどではありませんが、そのまま食べたり、傷口に貼り付けても回復や解毒の効果があります。


エアホーレンダス・ブラットは疲労回復の効果があるので、お茶にして農民や兵士に飲ませると良いでしょう。


「お兄様なら、この種を民の為に正しく使ってくださると信じています」


私はにこりと微笑みました。


「僕たちは君に酷い扱いをした……!

 それなのに君は……!

 ありがとう!

 この恩は生涯忘れない!」


お兄様はそう言って、ボロボロと涙を流しました。


私には、お兄様が嘘泣きしているようには見えませんでした。


お兄様はこれから国王として、ノーブルグラント王国を立て直していかなくてはいけません。


エアホーレンダス・ブラット入りのハーブティーを沢山飲んで、バリバリ働いていただきたいです。


お兄様は深々と頭を下げ、馬車に乗り込みました。


私は馬車が門の外に出ていくのを見送り、踵を返しました。





※下記の長編を投稿中です。2025年1月20日

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