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51話「アリアベルタは皆に愛されていたことを知る」



やがて妹の声が聞こえなくなり、部屋に静寂が訪れました。


私はレオニス様に改めて謝罪しました。


「レオニス様、妹に脅されていたとはいえ、私は陛下や重臣達を騙す発言をしました。

 どうか私と離縁してください」


全てを妹のせいにして、逃げることはできません。


「アリーは何も悪くないのだ!」


フェルが私を庇ってくれました。


ありがとうフェル。

 

でも甘えることはできないの。


「フェルも、私以外の人に加護を与えたくなったら与えてもいいのよ。

 ノーブルグラント王国の離宮で暮らしていた頃とは違うわ。

 この国に来て色んな人と知り合って、フェルにも大切に思える人が出来たのではないかしら?

 フェルが選ぶならきっと素敵な人だと信じてるわ。

 誰に加護を与えてもあなたの自由よ。

 でも、できればこの国に留まってほしいわ」


今回のことで、レオニス様のことも、フェルのことも、必要とし傍にいたいと思っている人がいることがよくわかりました。


ですから、レオニス様もフェルも私が束縛してはいけないのです。


「馬鹿なことを言わないでほしいのだ!

 僕にはアリーしかいないのだ!」


フェルが私の胸をポカポカと叩きました。


「エリドラと色んな国を回ったときも、沢山の人に会ったけど、僕はエリドラ以外に加護を与えられなかったのだ!

 エリドラの娘のアリーだから、僕はずっと一緒にいるのだ!

 アリーの為だから僕は力を使うのだ!

 妖精の加護は、誰でももらえるわけではないのだ!」


「フェル……!」


彼にそんな風に思っていてもらえたなんて。


「だから僕はずっとアリーの傍にいるのだ!」


「ありがとうフェル!

 あなたにそう言ってもらえて嬉しいわ!」


いつの間にか流れていた涙を、私は指で拭いました。


「アリアベルタ、俺が君を手放すことはない。

 なぜ俺のことは遠ざけようとするんだ?」


レオニス様は眉を下げ、悲しげな顔をしていました。


そうですよね。


私にはフェルの加護があります。


私と離縁して、フェルの加護が得られなくなったら困りますよね。


でもそれを理由に、レオニス様を縛り付けておくことはできません。


「レオニス様はフェルの加護がなくなることを心配しているのですよね?

 でしたら心配することはありません。

 レオニス様と離縁したあとも、私は他国に移ったりしません。この国に住み続けます」


私とフェルがこの国に残れば、この国は今までと変わらず、フェルの加護を受けられます。


流石に王宮に留まれないので、フェルと地方で薬草を育てながら、のんびりと暮らします。


離縁したら、レオニス様にはもう会えないでしょう。


愛する人と離れるのは寂しいです。


だからといって、彼を束縛することはできません。


「フェルにお願いして、豊穣の加護の継続を……」


「妖精の加護の事を言っているんじゃない! 

 俺には君自身が必要なんだ!」


レオニス様が私を真っ直ぐに見据えてそう告げました。


彼の情熱の籠もった瞳が私を射抜いています。


心臓がドクドクと忙しなく音を立てています。


「君を愛している!

 だから、どこにも行かないでほしい!」


「……!」


彼にそう言われ息ができませんでした。


レオニス様が……私を愛してる?


聞き間違いではありませんよね?


彼の頬は赤く色付いていました。


私の顔も、きっと真っ赤になってると思います。


「愛しているアリアベルタ!

 だから君と離縁なんて絶対にしない!」


レオニス様は私の手を取り、ぎゅっと握りしめました。


握られた手から彼の体温が伝わってきます。


「私……妹のように美人ではありません。

 ずっと離宮に閉じ込められていたので、淑女教育もまともに受けていません。

 趣味はじゃがいも掘りや薬草の栽培で……」


王太子であるレオニス様には、もっとふさわしいお相手がいるはずです。


「淑女教育がなんだ!

 じゃがいも掘りだって立派な趣味だ! 誇っていい!

 それに、君はとても美しい!

 君の澄んだ瞳に俺は夢中なのだから!」


彼に美しいと褒められると、照れくさくなってしまいます。


「何より君は心が綺麗だ。

 餓えに苦しむ国民の為に、自ら鍬を持って畑を耕した。

 自ら率先し炊き出しをした。

 父上の為に解毒の薬草を探し、母の為に疲労回復の薬草を探してくれた」


彼は熱意の籠もった瞳で、熱弁しています。


「優しくて、思いやりがあって、勇敢な君だから惚れたんだ!

 俺の妻は君以外の人は考えられない!

 だから、離縁するなど言わないでくれ!」


彼にそんな風に思われていたなんて……。


感動で胸がいっぱいです。


「レオニス様が良くても、国王陛下や王妃様や重臣の方々がなんと言うか……」


レオニス様が許してくださっても、他の方々が許してくれないかもしれません。


「お取り込みのところ悪いが、発言しても良いかな?」


陛下が発言すると、場が静かになりました。


「わしが病に倒れている間に、息子が結婚していたことには驚いた。

 だが、それも息子なりに考えあってのことだと思っている」


陛下はレオニス様を見てにこやかに話しています。


「わしの体が魔物の毒に侵されていると見抜いた妖精殿。

 危険を顧みず魔物のいる森に解毒の薬草を取りに行った王太子妃。

 そのような優秀な妃を、些細な過ちで責めるほどわしは狭量ではないよ」


国王陛下が、穏やかな表情でおっしゃいました。


「わたくしも陛下と同じ気持ちですわ。

 アリアベルタ、あなたはこの国の為に、わたくしたたちの為に尽くしてくれました」


王妃様が穏やかな声で話はじめました。


「そして何より重要なのが、長年女っ気のなかった息子がアリアベルタに惚れ込んでいるという点です。

 あなたをおいて、レオニスを支えられる人はいないわ。

 レオニスの側にいてちょうだい」


王妃様が優しく微笑まれました。


「聞いただろ?

 父上も母上も君のことを受け入れている」


国王陛下と王妃様に、そのように思われているとは思いませんでした。


「王太子殿下、発言してもよろしいですかな?」


その時、重臣の一人が席を立ちました。


「許す、話せ」


レオニス様の許可を得て、重臣の一人が話しだしました。


「ありがとうございます。

 王太子妃殿下、あなたが育てて下さったじゃがいもは実に素晴らしい。

 私も当家の使用人も領民もじゃがいもに救われました。

 そんなあなたを誰が悪く言う者など我が領地にはおりません」


別の重臣が立ち上がり、会話に加わりました。


「わしの領地では、魔物が人や家畜を襲う被害が多発しておりました。

 王太子妃殿下が育て、妖精殿の監修の元作られた回復ポーションと解毒ポーションに多くの兵士と民が救われました。

 あなた方には足を向けて寝られません」


また、別の重臣が立ち上がりました。


「それはわたくしの領でも同じです!」


「俺の領でもだ!」


気がつけば重臣たちが全員立ち上がっていました。


「この国の民は皆、王太子妃殿下に感謝しています。

 先ほどの件は、王太子妃殿下の妹君に非があることは明快です。

 あなたは妹君に妖精様を人質に取られ、彼を救うために仕方なく嘘をついたただけです。

 誰もあなたを責めたりしません」


「そうです!

 王太子妃殿下は何も悪くありません!

 ですからどうか、王太子殿下と離縁するなどと言わないでください!」


「王太子妃殿下、妖精様と共にこの国を支え、王太子殿下と仲睦まじくこの国で暮らしてください!」


重臣達がその場に跪き、臣下の礼をとりました。


「皆様……」


私の瞳から涙がこぼれ落ちました。


こんなに大切に思われているなんて、知りませんでした。


私の目からは涙がとめどなく溢れ、止まりませんでした。


「アリー、泣かないでほしいのだ」


「アリアベルタ、涙を拭ってくれ」


レオニス様がハンカチで私の涙を拭ってくれました。


「聞いただろ? 

 この国には君が必要なんだ。

 君は皆に必要とされている。

 もちろん俺も君を必要としている。

 だから、俺と離縁するなんて言わないでくれ……!」


レオニス様が縋るような目で私を見つめました。


私はここにいてもいいのですね。


「はい、レオニス様。

 私もこの国に……レオニス様の側に……ずっといたいです!」


「良かった!」


レオニス様は私の体を抱き寄せ、そのまま強く抱きしめました。


彼に抱きしめられて、心臓がドクンドクンと音を立てています。


「愛しているアリアベルタ!

 君を絶対に手放したりしない!」


彼に耳元で囁かれ、顔に熱が集まりました。


その様子を見ていた周りから、拍手が起きました。


レオニス様に抱きしめられるのは嬉しいのですが、皆が見てる前だと恥ずかしいです!


こうして、妹との突然の来訪から始まった事件は幕を閉じたのです。




読んで下さりありがとうございます。

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