50話「シャルロット、妖精に髪をチリチリにされる」ざまぁ
「僕は妖精なのだ!
人間の薬なんか効かないのだ!
あの時はお腹いっぱいで眠っていただけなのだ!
人間の檻なんて、僕の手にかかればおもちゃも同然なのだ!
サクサク出られちゃうのだ!」
お腹がいっぱいで眠ってしまうのが、フェルらしいです。
「アリーに意地悪する根性の悪い妹なんて大嫌いなのだ!
アリーが国を出るとき、使用人に暴力を振るっている罪や、散財している罪をなすりつけたことを、僕は怒っているのだ!」
フェルが妹に向かってあっかんべーをしています。
「きーー! 腹立つ!」
妹が地団駄を踏んで悔しがっています。
「意地悪な妹付きのメイドから大体の話は聞いたのだ!
僕を閉じ込めて、アリーを脅すなんて許せないのだ!」
フェルは妹のことを睨んでいました。
「フェル、どうして私はここにいると分かったの?」
「メイドに大体の話を聞いた後、アリーの匂いを辿ってここまで来たのだ。
メイドにもそれなりのお仕置きをしといたのだ」
フェルが得意げな表情で話しました。
妹付きのメイドは、どのような仕打ちを受けたのでしょう?
「そうだったのね。
逃げ出してきてくれて嬉しいわ。
あなたが無事で本当に良かった」
私はフェルをぎゅっと抱きしめ、彼の額にキスしました。
その時、咳払いが聞こえました。
「感動の再会を果たしているところに水を差して悪いが。
夫の前で他の男とべたべたしないでほしい」
レオニス様が、睨むような目でフェルを見ていました。
フェルはレオニス様の視線に気づき、あっかんべーをしていました。
「アリアベルタ、君が先ほど俺に告げたことは、妖精殿を人質に取られ、シャルロット王女に脅されていたからの発言だろう?
先ほどの君の告白は全て偽りだと思っていいのだな?」
彼は優しい表情で私に尋ねてきました。
「はい、レオニス様のご推察の通りです。
会議中にお邪魔し、虚偽の発言をしたことを謝罪します。
私はいかなる罰も受けます」
私はレオニス様に頭を下げました。
「アリアベルタ、頭を上げてくれ。
俺も父も母も君を咎めるつもりはない。
君は妖精殿を人質に取られ、妹に脅されて仕方なく嘘をついただけだ。
誰も君を責めたりしない」
国王陛下も王妃様も、レオニス様の言葉を聞き頷いていました。
優しい人達に囲まれて私はとても幸せです。
「君に離縁を迫られた時は生きた心地がしなかった。
あの告白が君の本心でなくて良かった」
レオニス様は安堵の表情を浮かべていました。
「ご迷惑をおかけしました。
レオニス様を傷つけてしまってすみません」
「君が謝る必要はない」
私を見つめるレオニス様の瞳はとても穏やかでした。
「諸悪の根源はシャルロット王女なのだから……!」
レオニス様は険しい表情で妹を睨みました。
「レオニス殿下、わたくしの言葉を信じてください!
本当に妖精はわたくしのもので、わたくしが加護姫なんです……!」
妹が美しい顔に涙を溜め、レオニス様に訴えました。
「妖精が解放され目の前にいるというのに、まだ嘘をつくのか?」
レオニス様の表情には、憎しみを通り越し、蔑みと呆れが混じっていました。
「何よ!
妖精もレオニス様もなぜお姉様ばかり大切にするのよ!」
妹は弁明が不可能とわかると、態度を豹変させました。
「わたくしの方がお姉様よりもずっと綺麗よ!
正室の子だし、淑女教育だって受けたわ!
わたくしと結婚した方が絶対に幸せになれるわ!
妖精も美しいわたくしに付いた方がいいでしょう?
レオニス様も妖精もわたくしのことを選ばないなんて間違ってるわ!
地味なお姉様なんか捨てて、私のことを選んでよ!」
確かに妹の方が美人だし、生まれも育ちも良いです。
それは否定できません。
ですがそんな長所を全部ダメにしてしまうほど、妹は性格が歪んでいるのです。
レオニス様が絶対零度の視線を妹に向けました。
彼に睨まれ妹は怯えています。
「顔の形が整っているから?
身分や育ちが良いから?
それが何になるというのだ?」
レオニス様が妹に問いかけました。
「えっ?」
レオニス様からそのような言葉を投げかけられると思っていなかったのか、妹は大きく目を見開き、口をポカンと開けていました。
「お前は義母姉であるアリアベルタに、浪費癖と使用人に暴力を振るうという濡れ衣を着せ、自分の代わりに我が国に嫁がせた!
アリアベルタがこの国に嫁いだあとも、彼女に自分の息のかかったメイドを監視につけ虐めていた!」
レオニス様はそこで一度そこで言葉を区切りました。
「自分の代わりに嫁がせてておきながら、アリアベルタに妖精の加護があると知ると、恥知らずにもこの国を訪れた!
アリアベルタの隙を突いて妖精を誘拐し、妖精を人質に取ってアリアベルタを脅した!
そのような卑劣極まりない人間を、妻にするわけがないだろう!!
お前のような人間を、俺は一番軽蔑する!!」
レオニス様は厳しい表情で妹を睨み、冷たい口調でそう言い放ちました。
「王女付きのメイドに聞いたのだ。
そのメイドは、ジャネットをアリーに付けたのはお前だって言ってたのだ。
僕の大事なアリーを虐める奴なんか大嫌いなのだ!
意地悪王女の髪なんてチリチリになっちゃえばいいのだ!
ついでに鼻毛が伸びて蝶結びになっちゃえばいいのだ!!」
フェルがそう言った瞬間、妹のふわふわの美しい金髪は、雷に打たれた後のように、黒焦げのチリチリになっていました。
そして彼女の鼻毛が伸び、蝶結びを作っていました。
「きゃーー!
何なのよこれ!?
もうお嫁にいけないわーー!!」
妹はチリチリになった髪と、鼻を押さえその場にうずくまりました。
気の毒な気もしないでもありませんが……妹はフェルのことを人質にとりました。
私の命令に従わなかったら、フェルのことを殺すと脅しました。
これくらいの仕返しは、されて当然かもしれません。
「意地悪王女なんか大嫌いなのだ! 王女にもノーブルグラント王国にも加護なんか与えないのだ!」
フェルは妹に対して、とても怒っているようでした。
「妖精殿、俺も同感だ!
俺も大切な妻を傷つける人間が大嫌いだ!!」
レオニス様の言葉に、胸がドキンと音を立てました。
私の聞き間違いでなければ、レオニス様は今、私のことを「大切な妻」と言っていました……?
それは彼の本心でしょうか?
それとも陛下や王妃様や重臣達の前だから、仲の良い夫婦を演じているだけ……?
「なんなのよ!?
地味なお姉様ばかりちやほやして……!
美しいわたくしの髪をめちゃくちゃにして!
愛らしいわたくしを責め立てるなんて間違っているわ!
こんなのおかしいわ!」
レオニス様とフェルに完全に否定され、妹のプライドは粉々に砕かれたようです。
「シャルロット王女。
妖精の誘拐及び、監禁および、妖精の殺害未遂。
並びに我が国の王太子妃を脅迫した容疑で逮捕する!
その女を捕えよ!」
レオニス様が兵士に命じると、彼らは一斉に妹に飛びかかりました。
「離して!
わたくしは一国の王女なのよ!
ノーブルグラント王国の宝石なのよ!
汚い手で触れないで……!!」
妹は抵抗しましたが、そんな抵抗が兵士に通じるわけがなく、あっけなく拘束されました。
「シャルロット王女を貴族牢に放り込んでおけ!」
「承知いたしました!!」
兵士達が妹に縄をかけ、彼女を連行しました。
「わたくしにこんな事をしてただで済むと思っているの!?
このことがノーブルグラント王国に伝わったら、お父様もお兄様も黙っていないわよ!
レオニス殿下、わたくしを選ばなかったことを後悔しますよ!」
妹は兵士に連行されながら、ずっと喚いていました。
自慢の髪の毛をチリチリにされても、鼻毛を蝶結びにされても折れないあのメンタルは凄いと思います。
妹が退室し、ようやく会議室は静けさを取り戻しました。




