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5話「王太子との対面」

もうすぐ国境だと兵士が話しているのが聞こえて来ました。


「ねぇ、ジャネット。

 あなた、隣国の王太子殿下の特徴を知っているかしら?

 知っているなら教えてほしいの」


私はメイドのジャネットに尋ねました。


私は彼について「殺戮の王太子」と呼ばれていることしか知りません。


もし隣国に着いたとき、大勢の前に立たされて「王太子に挨拶してください」と言われても、彼の特徴を知らないのでは、挨拶のしようがありません。


「あなたでもそんなことが気にするんですね」


ジャネットは嫌味たっぷりに言いました。


「アリーにそんなことを言うと、靴だけでなく服にも虫をいれるのだ!」


フェルがジャネットの耳元で囁やきました。


フェルは今姿を消しているので、彼の声は私にしか聞こえていないはず。


ですがジャネットは何か感じるものがあったのか、鳥肌を立て、体をブルブルと震えさせていました。


フェルの姿は見えなくても、悪寒のようなものは感じるようです。


「良いでしょう。

 教えて差し上げます。

 私も陛下から手短に説明されただけなので、詳しくは知りません。

 王太子殿下は、黒く短い髪と、赤い瞳の持ち主だそうです。

 ガッチリした体つきで、長身で、いつも軍服を纏っているとか」


殿下は黒い髪に赤い目のガッチリした体格の長身の男性なのですね。


覚えました。


「ありがとうジャネット。

 助かったわ」


私がお礼を伝えると、彼女は「フン」と言ってそっぽを向きました。


「お礼に今日はいたずらしないでおくのだ」


フェルったら、「今日は」ということはもしかして毎日ジャネットにいたずらをしていたのかしら?


彼女の言動に腹を立てても、いたずらしないように伝えておかなくてはね。



 ◇◇◇◇◇



そうしている間に私を乗せた馬車は国境に着きました。


国境には、隣国の王太子と兵士が迎えに来ていました。


馬車の中から見た彼らは、鎧に身を包み、隊列を組んでいて、とても勇壮でした。


隣国はモンスターの被害が多いと聞きます。


おそらく王太子自ら指揮を執り、先頭に立ってモンスターと戦っているのでしょう。


殺戮の王子という二つ名は、そうしたことから付けられたのかもしれません。


異母妹は怖がっていましたが、民を守る為に率先して戦うなんてかっこいいと思います。


隣国の兵士が私の乗った馬車のドアを開けました。


馬車から降りて挨拶しろということなのでしょう。


私の態度はそのまま祖国の評価に繋がります。


私は王族にも国民にも嫌われています。だからといって彼らの顔に泥を塗るような行動はできません。


自分自身の誇りにかけて、優雅な立ち居振る舞いをしなくては!


私は姿勢を正し、お姫様らしく上品に降りようと思ったのですが……。


慣れないドレスに足を取られ、バランスを崩してしまいました。


このまま頭から地面に激突したら……かっこ悪いを通り越して、大怪我をしてしまいます!


ですが、いつまで立っても地面の固い感触はありませんでした。


人のぬくもりを感じ、どなたかが支えてくれたことに気が付きました。


どなたかわかりませんが、危ない所を助けていただきました。


お礼を伝えなくてはいけません。


私が顔を上げると、燃えるような真っ赤な瞳と視線が合いました。


私を支えて下さった方は、漆黒の髪に、切れ長の真紅の瞳と高い鼻を持っていて、とても整った顔立ちでした。


そしてきっちりと軍服を纏っていました。


ジャネットから聞いた特徴と一致しています。


このお方が、おそらく隣国の王太子、レオニス・ヴォルフハート様なのですね。


「助けてくださりありがとうございます。

 失礼をお許しください」


私は彼からぱっと体を離しました。


フェル以外の殿方に触れたのは、人生で初めての経験です。


それにしても、ドレスの裾を踏んで転ぶなんて、かっこ悪いにも程があります。


穴があったら入りたいです。


「アリー、平気なのだ? 

 怪我しなかったなのだ?」


フェルが心配して飛んできてくれました。


ですが今フェルは姿を消しているので、私以外誰も彼の姿も声も認識できません。


人前では返事をするわけにはいかないので、私はフェルの目を見て小さくコクリとうなずきました。


いつまでも動揺しているわけにはいきません。


殿下にきちんとご挨拶しなくては!


私は王太子に向き直り、淑女の礼をしました。


「お恥ずかしいところをお目にかけました。

 私の名はアリアベルタ・ノーブルグラント、ノーブルグラント王国の第一王女です。

 ヴォルフハート王国のレオニス殿下ですね?

 この度は、私の為に国境まで足を運んでくださりありがとうございます。

 ふつつか者ですが、幾久しくよろしくお願いいたします」


私が挨拶をすると、周囲からどよめきが起こりました。


目の前にいる王太子も、私の顔を見て訝しげな顔をしています。


私のカーテシーと挨拶はそんなに酷かったのでしょうか?


母から一通り淑女教育を受けましたが、ずっと離宮にいたのでカーテシーを披露する機会がありませんでした。


私のカーテシーはとんでもなく下手だったのかもしれません。


隣国に着いたばかりだというのに、二回目の恥をかいてしまいました。


私はこの先、この国でやっていけるでしょうか?


不安が募ります。



読んで下さりありがとうございます。

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