47話「祖国はこの計画に関与しているの?」
「シャルロット、一つだけ聞かせて。
この計画はあなた一人の計画なの?
それともノーブルグラント王国全体の計画なの?
この計画をお父様やお兄様も知っているの?」
国を上げてフェルを誘拐しようとしたのか、それとも妹の単独行動なのか、はっきりさせておく必要があります。
「お父様も、お兄様も、何も知らないわ。
彼らには『別荘に行く』と嘘をついて出てきたから。
二人はわたくしがこの国にいることも知らないでしょうね」
お父様とお兄様がこの件に関与していないことに、私は少しだけホッとしています。
妖精の誘拐を企てるほど、彼らは腐ってはいなかったようです。
「お父様とお兄様は、お姉様が妖精の愛し子だとわかった瞬間、手のひらを返したわ。
今までお姉様を蔑ろにしてきたくせに、妖精がいなくなって作物が思うように収穫できなくなったとわかった途端、お姉様に頭を下げて妖精の加護を分けてもらおうなんて言い出したのよ」
お父様とお兄様がそんなことを……。
虐げていた私に頭を下げるのは、彼らにとって苦痛なはず。
それでも彼らは、プライドよりも国民の生活を優先した。
お父様とお兄様が為政者としてまともだとわかり、私は安堵していました。
「わたくしよりずっと格下のお姉様に、媚びて生き延びようとするなんて信じられないわ!
それが大人の男の発想なの?
情けないったらないわ!
お姉様に頭を下げて生き延びるなんて絶対に嫌よ!!」
妹が鋭い目つきで私を見つけ、苛立たしげに言いました。
「お父様もお兄様も愚かよ!
妖精なんて、お姉様から奪ってしまえばいいのに!
そうすればノーブルグラント王国はまた豊かになる!
わたくしは、加護姫と呼ばれ国民にちやほやされるのよ!」
妹が唇を歪ませ邪悪な笑みを浮かべました。
妹にとって、自分が一番であることが何よりも大切なようです。
人としても、王族としても間違っています!
「あなたの要求には従えないわ! フェルを返して!」
ゴメンね、フェル。
私のせいで危険な目に遭わせて……!
こうなったのは全部、私が間抜けなせいよね。
「残念だけどお姉様に選択肢はないの。
わたくしの言う事を聞けないというのなら、
妖精を殺すわよ!」
妹のメイドに合図を送りました。
合図を受けたメイドは、フェルの首元スレスレまでナイフを近づけました。
背筋が凍るような寒さを感じました。
「やめて……!
フェルのことを傷つけないで!」
「ならわたくしの言う通りに動きなさい!
わたくしの言う通りに動くなら、妖精の命を助けてあげるわ!」
妹が凍えるような視線を私に向け、不気味な笑みを浮かべながら、冷たく言い放ちました。
残念ですが……私に抗う術はありません。
フェルを人質に取られては何もできません。
「お姉様は皆の前でこう言うのよ。
『妖精は元々妹のものでした。妹のようにちやほやされたくて、嫁入りする時に妹から奪い取りました。私ではなく妖精の愛し子は妹のシャルロットです。私は嘘つきで意地悪などうしようもない女です。レオニス様の妻でいる資格はありません。離縁してください』
とね」
「……!」
妹の計画のあまりの酷さに、私は言葉を失いました。
彼女は、私を妖精を奪い取った性悪な嘘つき女にしたいようです。
その上、レオニス様との離縁まで迫られるなんて……!
「その後こう伝えるのよ。
『心が清く見目麗しく、妖精の愛し子である妹のシャルロットこそが王太子妃にふさわしいです』とね。
そうすれば私は、レオニス殿下と結婚できるわ!」
妹には人間の血が流れているのでしょうか?
私を見下し邪悪な笑みを浮かべる彼女は、とても人間には見えませんでした。
彼女は悪魔か何かの生まれ変わりです。
どうしてこんな酷い計画を思いつくのでしょう?
レオニス様と離れたくありません!
彼の隣で妹が笑ってるところを想像するだけで、胸がズキズキと痛みます!
でもフェルの命には代えられません……!
「そうすればこの国にも妖精の加護を与えるわ。
言う通りにしないなら妖精を自国に連れ帰り、この国には妖精の加護を与えないわよ。
ヴォルフハート王国は、妖精の加護のお陰でせっかく豊かになり始めたのに。
お姉様のせいで元の貧しい生活に逆戻りね」
妹が目を細めクスリと笑いました。
この国の人達が、元の貧しい生活に戻るのは辛いです。
国民が飢えに苦しむことになったら、レオニス様はきっととても悲しみます。
「お姉様、返事ぐらいしたらどうなの?
まだ自分の立場が分かってないよね?
わたくしはあなたにお願いしているのではないのよ。
命令しているのよ。
何なら今ここで妖精の命を奪ってもいいのよ」
妹は眉間に皺を寄せると冷たく言い放ちました。
「それだけは絶対にやめて!」
フェルを死なせるわけにはいきません!
彼は私の友人で、お母様が亡くなってからはたった一人の家族だったのです!
「フェルを殺したら、妖精の加護を得られないわよ!」
なんとかフェルだけでも助けたいです。
妹に、フェルを生かしておくメリットを伝えなくては……!
「妖精の加護を得ることや、レオニス様を手に入れることももちろん大事よ。
でもそれ以上に、わたくしはあなたが幸せなのが許せないの!」
妹は目を血走らせ、私を睨みました。
それは一体どういう意味でしょう?
「お姉様が、隣国でちやほやされて暮らしているのが耐えられないの!
あなたはわたくしの下にいなくてはいけないのよ!」
酷い理屈です。もはや難癖です。
「お姉様がどうしても、わたくしの言うことを聞けないというのならそれでもいいわ。
妖精を今この場で殺してやるから……!
祖国もこの国も貧しくなればいいのよ!
わたくしが不幸なのに、他の誰かが幸せなんて許せないのよ!!
わたくしが不幸な時は、全員不幸にならなくてはいけないのよ!!
その為なら私は何だってやるわ!」
妹は目を血走らせ、歯をむき出しにしてそう言いました。
妹が、なぜそこまで私に執着するのかは分かりません。
おそらく妹は、一度格下だと判断した人間が、自分より上にいるのが許せないのでしょう。
その人物を、地獄に落とすためなら手段を選ばないのでしょう。
自分が幸せになることより、人が不幸になることを願うなんて哀れな子です。
それ故に彼女は何をするかわからない怖さがあります。
彼女はやると言ったことを、本気で実行するでしょう。
妹の言う通りに動かなければ、フェルは殺されてしまいます。
それだけは避けなければなりません。
フェルの加護がなくなったら、この国の人達は再び困窮します。
妹の望みは、フェルとレオニス様を手に入れること。
妹がレオニス様と結婚した場合、フェルの力をこの国のために使ってくれるでしょう。
国が貧しくては、妹が望むような贅沢三昧の暮らしはできませんから。
私がいた場所に妹が座るだけ。
それだけで、この国の人たちの幸せは約束されるのです。
私が消えるだけで済むのなら……。
レオニス様も、見目麗しい妹のことを気に入るかもしれません。
今も、私ではなく妹と結婚したいと思っているのかもしれません。
レオニス様と離縁するなら、彼の再婚相手は賢くて気高い女性が良かった。
……嘘です。
自分以外の誰かが、レオニス様のお傍にいたら私は嫉妬してしまいます。
今頃になって気づきました。
私は……レオニス様を愛しています。
もっと早くに気づいていればよかった。
レオニス様に「好き」も「愛してる」も言えずに、宮殿を離れなくてはいけないのですね。
一度宮殿を離れたら、王太子である彼には二度と会うことはできません。
胸がズキズキと痛み、心臓が抉られるようでした。
「分かったわ。
シャルロット、あなたの言う通りにするわ」
私の言葉を聞いて、妹は口角を上げにたりと笑いました。
フェル、レオニス様ごめんなさい。
私には妹に従う以外の道はありません。
私は、心の中でフェルとレオニス様に謝りました。
遠くにいても、この国の繁栄と国民の幸せを祈っています。
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