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45話「妖精の捕縛」シャルロット王女視点



――シャルロット王女視点――




ヴォルフハート王国、宮殿、シャルロットの客室――


「妖精の特徴と好物がわかったわ!

 妖精は、緑の髪に緑の目をした七歳ぐらいの男の子よ。

 名前はフェル。彼は宙を自在に飛べるらしいわ!」


お姉様から妖精の特徴と好物を聞き出したわたくしは、体調が悪くなった振りをして客室に戻りました。


「妖精の好物はアップルパイと、桃のタルトと、みかんのケーキと、梨のパウンドケーキよ! 今すぐ用意しなさい!」


「承知いたしました、王女様」


客間には、自国から連れてきた使用人数人が待機していた。


「お姉様は愚かだわ。

 わたくしの策略にも気づかず、ペラペラと妖精の秘密を話すなんてね」


ちょっと涙を浮かべて上目遣いでお願いしたら、わたくしの嘘をあっさり信じてくれたわ。


お姉様はおマヌケね。


それとも、わたくしの演技が上手いのかしら?


もしくは、わたくしが清楚で可憐な美少女だから、皆が協力したくなるのかしら?


わたくしの可愛さは、家族も同性も虜にしてしまうのね。


自分の魅力が怖いわ。


お姉様に頭を下げるなんて死んでも嫌だったわ。


でもそれで妖精が手に入るなら、謝罪くらい安いものだわ。


ひとつ気に入らないことがあるとすれば、久しぶりに会ったお姉様が、見違えるほど綺麗になっていたことだわ。


ノーブルグラント王国にいた時のお姉様は、やせ細り着てる服もみすぼらしかった。


それなのに今日会ったお姉様は、仕立てが良く上品なデザインの青色のシルクのドレスを纏っていた。


ハーフアップした髪は美しく輝き、肌には透明感がありつやつやしていた。


お姉様がこの国で大切にされているのが、ひと目でわかったわ。


祖国に帰ったら、お姉様の監視に付いていたメイドにはお仕置きが必要ね。


ヴォルフハート王国でお姉様が邪険にされていたというメイドの報告は、まったくの出鱈目だったのだから……!


一番衝撃を受けたのは、ヴォルフハート王国の王太子がハンサムだったことだわ。


「殺戮の王太子」なんて呼ばれているか、薄気味悪い死神みたいな男か、筋肉ゴリラだと思っていたのに……。


影のある表情が魅力的で、黒髪に凛々しい容姿の、長身の美青年だった……!


誰よ! 美しい彼に「殺戮の王太子」なんて物騒な二つ名を付けたのは!


全然、彼に似合ってないわ!


今すぐに彼の二つ名を、「麗しい美青年」とか、「凛々しい貴公子」に変更するべきだわ!


気に入らないのは美少女のわたくしを差し置いて、レオニス殿下がお姉様とイチャイチャしていたことだわ!


レオニス殿下に耳打ちされたお姉様は、頬を赤らめてはにかんでいた……。


レオニス様は美しいわたくしが目に入らないとでもいうのかしら……!?


何もかも気に入らないわ!


正室の子であるわたくしを差し置いて、愛人の子であるお姉様が、レオニス殿下にちやほやされるなんて生意気よ!


「お姉様が皆にちやほやされているのは、お姉様に妖精の加護があるからよね?

 彼女から妖精を取り上げてしまえば……フフフフ」


利用価値のなくなったお姉様は、レオニス殿下にも、使用人にも、国民にも無様に捨てられるわ。


想像するだけで笑いが止まらないわ。


「妖精を手に入れたら全てはわたくしの望み通りになるわ。

 妖精の加護も、レオニス殿下も、国民からの支持も、全〜〜部わたくしの物になるのよ」


わたくしは口角を上げフフッと笑った。


お姉様から、大切な物を全て取り上げてしまいましょう。



 ◇◇◇◇◇



「牛さん、可愛かったのだ〜〜!

 バターのお礼を伝えたら喜んでくれたのだ〜〜。

 お友達が増えたのだ〜〜。

 また美味しいミルクを出してくれるって約束してくれたのだ〜〜。

 ミルクをバターに変えたら、アップルパイと、桃のタルトと、みかんのケーキと、梨のパウンドケーキが食べたいのだ〜〜!

 だけど、庭に植えた果実が実るにはもう少しかかるのだ〜〜。

 それまで待てないのだ〜〜。

 ふわわっ!

 この匂いは……!!」


客室のテーブルに妖精の好物のお菓子を用意した。


メイドに扇子で仰がせて、お菓子の匂いを外に送った。


こんなこともあろうかと、祖国からお菓子の材料と、果物を沢山持ってきておいてよかったわ。


シェフに涙目で上目遣いでお願いしたら、厨房を使わせてくれた上に、お菓子をつくるお手伝いまでしてくれたわ。


お陰で妖精の好物であるアップルパイと、桃のタルトと、みかんのケーキと、梨のパウンドケーキを簡単に用意することができたわ。


しばらくして緑色の顔の可愛らしい少年が、こちらに近付いてきた。


少年は見た目は愛らしいのですが、どこか間の抜けた顔をしていたわ。


わたくしは使用人に身を隠すように命じ、自分も家具の影に隠れたわ。


窓から入ってきた少年は、お菓子の乗ったテーブルに向かって真っ直ぐに飛んできたわ。


新緑の髪に翡翠色の瞳の、七歳ぐらいの宙に浮かぶ少年……お姉様から聞いた妖精の特徴に一致しているわ。


間違いないわ! 彼は妖精ね!


「アップルパイと、桃のタルトと、みかんのケーキと、梨のパウンドケーキがテーブルに並んでいるのだ!

 しかも『食べて』と書いたメモもあるのだ!

 きっとアリーが僕のためにサプライズで用意してくれたのだ〜〜!

 いただきま〜〜すなのだ!」


妖精は疑うことなく、わたくしが用意したお菓子にかぶりついた。


見た目通り間抜けな妖精ね。


妖精様、使用人が真心を込めて作ったお菓子をたんと召し上がれ。


愛情と共に睡眠薬もたっぷりと入れておいたわ。


妖精はお菓子を食べ終えると、テーブルの上で眠ってしまった。


「こんなに上手くいくとは思わなかったわ」


妖精が眠ったのを確認し、私は妖精の元に向かった。


睡眠薬をたっぷり入れたから、妖精は当分は目を覚まさないわ。


「間抜けな妖精さん。

 これからはわたくしのために働くのよ」


わたくしは眠っている妖精を眺め、口角を上げた。



 ◇◇◇◇◇



わたくしは使用人に命じ、眠っている妖精を起こさないように檻の中に移動した。


「彼は大事な人質よ、丁重に扱ってね」


「承知いたしました、シャルロット王女」


檻の中に入れられたとも知らず、妖精はすやすやと眠っていた。


その檻は頑丈だから、鍵がないと絶対に開かないわ。


鍵は紐に吊るして、わたくしが首から下げておくわ。


これで妖精はわたくしのものよ。


「シャルロット王女、妖精の捕縛に成功しました。このことが発覚する前に、直ぐに帰国いたしましょう」


このまま祖国に帰ったのでは、お姉様の悔しがる顔が見られないわ。


それに……。


「いいえだめよ。

 妖精の他にもう一つ手に入れたいものができたの。

 それを手に入れるまでは帰らないわ」

 

「手に入れたいものといいますと?」


「レオニス殿下よ」


「シャルロット王女は、この国の王太子との結婚を嫌がられていたはずですが……」


メイドが困惑した表情で言った。


「それは昔の話よ!

 あの時はレオニス殿下があんなに美形だとは知らなかったのよ!」


今日、レオニス殿下に会って認識を改めたわ。


「彼ってとってもハンサムよね〜〜!

 殺戮の王太子と言われてるぐらいだから、武芸に秀でてるわよね。

 頭の良さそうな顔をしていたから、きっと文武両道なんだわ。

 何より少し影のある表情が魅力的なのよ。

 背も高いし、ジュストコールを纏う姿は優雅で品があったわ。

 彼はわたくしの理想の男性像とぴったりと一致しているのよね〜〜!」


わたくしは、応接室でお会いした時のレオニス殿下の姿を思い出していた。


凛とした佇まいが素敵な方だったわ。


彼の姿を思い出すだけで口元がにやけてしまう。


彼がわたくしの伴侶になったら最高だわ!


「もともとはわたくしがこの国に嫁ぐはずだったのよ。

 レオニス殿下をお姉様なんかに譲ったのが間違いだったわ。

 譲ったものは取り返さなくてはね。

 あなた達も協力しなさい!」


「もちろんです。シャルロット王女の命令に従います」


躾が行き届いたメイドは従順で助かるわ。


「その前に、お姉様と楽しくお茶会でもしようかしら?」


わたくしは急いで手紙をしたため、手紙をお姉様に届けるように使用人に命じた。


「レオニス殿下は、元々はわたくしの夫になるはずだったお方……。

 この国の王太子妃に相応しいのは、お姉様ではなくて、わたくしよ」


レオニス様との新婚生活を想像すると、自然と顔が綻んでしまうわ。


レオニス殿下に離縁されて、惨めに落ちぶれたお姉様を想像すると、愉快で笑いが止まらなかった。




読んで下さりありがとうございます。

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