41話「アリアベルタを励ます会」
――アリアベルタ視点――
一週間後――
ヴォルフハート王国、離宮――
「王太子妃様、本日はじゃがいもの収穫は庭師や使用人がいたします。
なので、作業着ではなくこちらのドレスに着替えてください」
朝食のあと、クレアさんに寝室に連れて行かれ、青いドレスに着替えさせられました。
髪をハーフアップにされ、ドレスと同色の青いリボンが結ばれました。
なぜかお化粧もされました。
鏡に映る自分は、ドレスアップして、髪を綺麗に結っていて、薄く化粧が施されていて……別人のように見えました。
グレンツェンダー・コールを食べているからか、お肌の艶が良いです。
「そろそろ準備が整った頃かしら?」
クレアさんが時計をちらりと見て言いました。
「アリー、リビングに来てほしいのだ〜〜」
フェルが部屋に飛び込んで来ました。
「今日のアリーは一段と可愛いのだ! 王太子に見せるのは癪なのだ〜〜」
フェルが私の周りをくるくると飛び回りました。
「王太子妃様、準備が整ったみたいです。リビングに参りましょう」
「ええ……?」
クレアさんに促され、私はリビングに向かいました。
リビングの扉を開けると……。
部屋の中は綺麗に飾り付けがされていて、テーブルには美味しそうなお料理やお菓子が並んでいました。
テーブルの前に、漆黒のジュストコールを纏ったレオニス様が花束を抱えて立っていました。
「えっと……これはいったい?」
今日は何かの記念日だったでしょうか?
「最近アリーが元気ないから、皆でアリーを励ます会を開くことにしたのだ〜〜!」
「私を励ます会……?」
私はフェルの言ったことを反芻しました。
「お花はお城の人から種をもらって僕が育てたのだ〜〜」
「グレンツェンダー・コールやじゃがいものお陰で、国民が飢えることも少なくなってきた。
なので、そろそろ庭園に花を植えてもいいと思ってな」
レオニス様が私に花束を手渡してくれました。
花束には赤いチューリップと、マトリカリアの花が使われていました。
受け取った花束から甘い香りがします。
「お菓子は、庭師やメイド仲間と共にわたしが作りました」
クレアさんは、はにかみながらそう説明しました。
テーブルに、クッキーやパウンドケーキやシフォンケーキが並んでいます。
「お茶はエアホーレンダス・ブラットから作ったハーブティーです」
ティーポットから甘く爽やかな香りがします。
「俺からは上質のバターを贈る。
茹でたてのじゃがいもと一緒に食べたらきっと美味しい」
茹でたてのじゃがいもが、お皿の上で湯気を立てていました。
じゃがいもに乗せられたクリーム色のバターが、程よく溶けています。
私が落ち込んでいたのに気付いて、プレゼントを用意してくれたのですね。
皆にこんなに思われて私は……。
「アリー、なぜ泣いているのだ?」
フェルが私の顔を覗き込みました。
「もしかして、その花が気に入らなかったのだろうか?
チューリップより、薔薇やガーベラの方が良かっただろうか?」
レオニス様が、震えた声で尋ねてきました。
大きなお体で、おろおろするギャップが可愛らしいです。
「いえ、とても嬉しいのです」
私は指で涙を拭いました。
「こんなに心配していただけて、沢山美味しい物まで用意していただけて……!
その上、花束までいただけて、こんなに幸せなことはありません!」
ずっと不安でした。
フェルとレオニス様に、他に大切な人ができたら、私は捨てられてしまうのではないかと……。
でもこんなに優しい二人が好きになる人なら、とっても素敵な女性に違いありません。
フェルとレオニス様が愛する方と暮らすようになっても、お願いすればお二人に会わせてもらえますよね?
「せっかく、皆さんが用意してくれたものです。冷めない内にいただきますね」
フェルが育てたじゃがいもに、殿下がプレゼントしてくれたバターを付けて食べたら、どのような味がするのでしょう?
とっても楽しみです。
◇◇◇◇◇
「レオニス様が持って来てくださったバター、フェルが育てたじゃがいもによく合いますね」
じゃがいものほくほくした食感に、濃厚なバターの味が合わさり、絶妙なハーモニーを奏でています!
「そうだろう?
最近餌が良いおかげか、王宮で飼育している牛たちの乳の出が良くなった。
上質なバターに仕上がったのだ。バターはパンにつけても美味いぞ」
牛のエサはおそらくそのへんの雑草のはず。
雑草にも、フェルの豊穣の加護の効果が及んでいるみたいですね。
「それは是非食べてみたいですね」
「上質のバターで作ったからなのか、クッキーもパウンドケーキも絶品なのだ〜〜!」
フェルが片手にクッキーを持ち、反対の手にパウンドケーキを持ちながら、満面の笑顔でそう言いました。
「フェル、お口の周りに食べかすが付いているわよ」
私はフェルの口の周りについた食べかすを手で取りました。
「なんだかそうしていると、三人が親子みたいですね」
クレアさんがにこにこと笑いながら言いました。
親子……? 私とフェルとレオニス様が……?
レオニス様と自然と目が合いました。彼は目を細め、頬を赤らめ、はにかむように笑っています。
私は今……どのような顔をしているのでしょうか?
みっともなくにやけていないと良いのですが……。
「ええ〜〜、僕は王太子みたいなパパはいらないのだ〜〜」
フェルは顔をしかめました。
彼のそんな反応を見たレオニス様は、少し落ち込んでいるようです。
「フェル……」
もう少しオブラートに包んだ言い方をしないと、レオニス様は割とデリケートな方なのだから……。
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