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40話「一方その頃ノーブルグラント王国では……」シャルロット王女視点




――シャルロット視点――


同日、ノーブルグラント王国王宮にて――




「どうしたわけか今年は、冷害でも水不足でもないのに作物の育ちが悪い。

 害虫の被害も報告されている。

 この数カ月、災難が続いている……」


「父上、それだけではありません。

 森や荒野にモンスターが出現するようになりました」


朝食の席だと言うのに、お父様もお兄様も暗い話ばかり。


今日も二人は眉間に皺を寄せて、難しい話をしています。


最近はお父様に、宝石やドレスをねだっても買ってもらえないし、つまらないわ。


「父上、隣国ヴォルフハート王国では、植物の成長が早く害虫の被害も少ないと聞きます」


「その話なら余の元にも届いている。その上、モンスターの被害も減っているそうだな?」


お父様もお兄様もまだこの話を続けるのかしら? 退屈だわ。


「ヴォルフハート王国に送った間者からの報告によれば、隣国が急に栄えだしたのは妖精の加護のお陰だそうです」


「何、妖精だと……!?」


お兄様の口から、「妖精」という言葉が出てお父様が目を見開きました。


妖精……って、絵本に出てくるあの幻の存在のこと?


おとぎ話や伝説ではなく本当にこの世界にいるの?


「何故、急にヴォルフハート王国に妖精が現れたのだ?

 何か前兆があったのか?」


険しい表情をしたお父様が、お兄様を問い詰めました。


「それが……言いにくいのですが……」


お兄様は言い淀んでいます。何かお父様に告げたくないことがあるのでしょうか?


「じらすな、はっきりと申せ!」


お父様が声を荒げました。


はぁ〜〜つまらないわ。


妖精のことより、バザーとか、パレードとか、舞踏会の話をしてほしいわ。


「わかりました。

 妖精はアリアベルタに付いて隣国に行ったようです。

 アリアベルタは隣国で『妖精の愛し子』や『加護姫』と呼ばれ、妖精と共にたいそうもてはやされているそうです」


お兄様が沈うつな表情で言いました。


「なんだと!」


お父様は顔を強張らせ、いきなり立ち上がりました。


そのせいでテーブルが大きく揺れました。


振動でグラスが倒れ、シャンパンが私のドレスにかかりました。


もう、最低!


お気に入りのドレスだったのに……!


「父上、落ち着いてください!」


お兄様がお父様をなだめます。


「これが落ち着いていられるか!

 アリアベルタに妖精がついていたのが本当だとしたら、由々しきことだ!

 娘が嫁いだおかげで隣国は栄え、我が国は災害に見舞われ窮地に陥っているのだからな!」


お父様は眉間に皺寄せ、唾を飛ばしながらそう話しました。


お父様は、わたくしのドレスを汚したのに謝りもしない。


新しいドレスを買ってもらわないと、お父様のことを許せそうにないわ。


「しかし、なぜだ?

 なぜ余はアリアベルタに妖精がついていたことに気づかなかったのだ……?」


「恐れながら、アリアベルタはずっと離宮で暮らしていました。

 彼女が僕達と接触する機会はほぼ無く……。

 その為、彼女に妖精がついていることに気づかなかったのでしょう。

 父上は、アリアベルタに妖精がついていることに何か心当たりはありませんか?

 もしかしたら、彼女の母親に関係しているかもしれません」


お兄様に言われ、お父様は顎に手を当てて何か考えていました。


「そ、そういえば……我が国が栄え出したのは、アレの母親を愛人として離宮に住まわせてからだった……!」


お父様の顔はみるみる青くなっていきました。


お父様には何色のドレスを買ってもらおうかしら?


クールで大人っぽく見える青のドレス?


それとも神秘的な紫のドレス?


情熱的な赤いドレスも素敵ね。


「アレの母親は妖精が住むという大陸の出身だった……。

 離宮にはいつも珍しい花が咲いていた……。

 アレの母親はときどき何もないところを見て、にっこりと笑っていた……」


お父様は何か思い出すように、話していました。


その話し方は、誰かに向かって話しかけているのではなく、独り言のようでした。


お父様とお兄様のお話が終わったら、新しいドレスをおねだりしないとね。


「アレが死んだあと、アリアベルタの世話は放棄していた。

 アレには興味があったが、娘には興味がなかったからな。

 正妻の目も厳しいので、アリアベルタのことは放置していた。

 しかしあの子は、八年もの間離宮で生き延びていた……!」


お父様が先ほどから口にしている「アレ」とは、アリアベルタお姉様の実母のことでしょう。


お母様は、お父様が愛人の名前を口にするのも嫌がっていましたから。


「アリアベルタが離宮で八年も生き延びられたのは、妖精の加護があったから……。

 そう考えれば説明がつく……!」


お姉様が離宮で生き延びて不思議だったけど、妖精に養ってもらってたからなのね。


「何ということだ!

 妖精がいれば巨万の富を築くこともできたのに……!

 アリアベルタが加護持ちと気づかずに長年放置し、厄介払い同然に隣国に嫁がせてしまった……!」


お父様はテーブルを強く叩きました。


テーブルの上に乗っていたカトラリーがカタカタと音を立てました。


お父様の体はプルプルと小刻みに震えていました。


それにしても妖精ったら見る目がないわ。


無能で不細工なお姉様に加護を与えるなんて。


加護を与えるなら、わたくしのような美少女にするべきよ!


「父上、アリアベルタに妖精がついているのが事実だとしたら、まずい事態です。

 我々はそその事にづかずに、アリアベルタに酷い仕打ちをしてきました。

 きっとアリアベルタにも妖精に嫌われているでしょう。

 アリアベルタに嫌われるのは構いませんが、妖精に嫌われるのは困ります」


そう話すお兄様の顔は、暗く沈んでいました。


「それ以上、申すな!

 余とて、金遣いの荒く使用人に暴力を振るい顔しか取り柄のないシャルロットの身代わりに、妖精の加護を受けたアリアベルタを嫁がせたことを後悔しているのだ!」


お父様が苛立たしげに言いました。


なんですって〜〜!


お父様は、美しいわたくしがお姉様に劣ると言いたいの?


いくらお父様でも、今の発言は許せないわ!


「父上、これからどうすれば良いでしょうか?」


困惑した表情でお兄様が尋ねました。


「こうなっては恥も外聞も捨て、アリアベルタに許しを請うしかあるまい。

 それ以外、この国が生き残る道はないだろう」


お父様は苦しさと苛立ちが合わさったような表情でそう話し、眉間を抑え深く息を吐きました。


「確かに僕たち全員で頭を下げる以外……彼らに許してもらう術はありませんね」


そう言ったお兄様の表情は沈んでいました。


二人共、冗談で言っているわけではなさそうね。


このままいくと、お姉様に頭を下げ、許しを請うことになりそうですわ。


そんなの絶対に嫌!


お姉様は、わたくしなんかよりずっと下の存在なの!


なぜわたくしたちがお姉様に頭を下げなくてはいけないの!


「二人共、間違っているわ!」


これ以上、黙って二人の話を聞いてはいられず、わたくしは声を上げ立ち上がった。


お父様とお兄様が、煩わしそうな顔でわたくしを見ました。


「お姉様はわたくしたちよりずっと格下の存在!

 愛人の子供なのよ!

 なぜそんな女に、わたくしたちが頭を下げなくてはいけないの!」


私はキッと二人を睨みつきました。


「シャルロット、いま我々は大事な話をしているんだ。口を挟むな」


「そうだ、お前はデザートでも食べていなさい」


お父様とお兄様は、蔑むような表情でわたくしを見ました。


なぜわたくしが、このような扱いを受けなくてはいけないの?


「でも、お父様、お兄様……!」


わたくしが食い下がろうとすると、二人は面倒くさそうな顔をしました。


「父上、ここでは気が散ります。話の続きは会議室でいたしましょう」


「そうだな、それがいい」


お父様とお兄様は食事は、ほとんど手を付けず食堂から出て行きました。


わたくしは一人食堂に取り残されました。


お父様もお兄様も、わたくしを除け者にするなんて許せない!


まるでわたくしがいたので、大事な話ができないみたいじゃない!


お父様に「新しいドレスを買って」とお願いするの忘れてしまったわ!


そのことも合わせて余計に腹が立ちますわ!


それにしても、お姉様に妖精がついていたなんて……。


その上、隣国に嫁いで「妖精の愛し子」や「加護姫」と呼ばれてちやほやされてるなんて……。


メイドからの報告と全然違うじゃない!


お姉様がわたくしより幸せになるなんて許せない!


「そうだわ!

 もし本当に妖精がいるのなら、お姉様から妖精を奪ってしまえばいいのよ!

 妖精の加護は、清楚で可憐なわたくしにこそふさわしいのですから!」


妖精のような貴重な存在を、貧相で不細工なお姉様が独占しているのは間違っているわ。


「お姉様から妖精を奪い、この国に連れて帰れば、お父様もお兄様も私を見直すはず。

『妖精の愛し子』『加護姫』と呼ばれて、民にちやほやされるのは、清楚で可憐なわたくしの方がふさわしいわ」


可憐なわたくしが「加護を与えて」と妖精にお願いしたら、妖精はわたくしの魅力にメロメロになるはず。


そうなれば、妖精に何でも願いを叶えてもらえるわ。


妖精だってみすぼらしいお姉様より、絶世の美少女であるわたくしに仕えたいわよね?


他の人に何か聞かれたら、

「妖精は元々わたくしのものだったの。それをお姉様がわたくしから奪って、逃げるように隣国に嫁いでしまったんです」

って言えばいいわ。


きっとみんな、不細工なお姉様の言葉より、美しいわたくしの言葉を信じてくれるわ。


そうと決まったら早速隣国に行きましょう!


お姉様から妖精を奪わなくては!


隣国に行くことは、お父様とお兄様には内緒にしましょう。


お父様たちには「別荘に行く」と伝え、隣国には僅かな供と一緒にこっそりと行きましょう。


二人はわたくしを無能だと思い込んでるわ。


わたくしの素晴らしい計画を話しても、協力してもらえない可能性があるわ。


それどころか、二人に計画を邪魔されるかもしれない。


だからこっそり計画を実行に移すわ。


わたくしが妖精を連れて帰ったら、お父様もお兄様もびっくり仰天するわね。


二人共、わたくしのことを見直すはずよ。


二人の驚く顔を想像していたら、笑いが込み上げてきましたわ。


妖精の加護があれば、豊作が続いて、また贅沢三昧ができるのよね?


その上、国民には今まで以上にちやほやされるのよね?


いいこと尽くしじゃない!


何が何でも妖精を捕まえないと!


待ってなさい妖精!


美しいわたくしがあなたを見つけだし、死ぬまであなたを酷使してあげるからね。




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