表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/53

39話「国王と王妃の回復、妖精の存在の公表」




ドゥンクラー・ヴァルトで採取したエントギフテンデス・グラースとエアホーレンダス・ブラットの種を、持ち帰り離宮の庭に植えました。


フェルが魔法をかけたので、エアホーレンダス・ブラットは次の日に、エントギフテンデス・グラースは五日後に収穫することができました。


フェルの指導のもと薬師さんたちの協力を得て、エアホーレンダス・ブラットでハーブティーを作りました。


また、エントギフテンデス・グラースから解毒ポーションを作りました。


解毒ポーションを処方された国王陛下は、みるみる回復しました。


エアホーレンダス・ブラットから作ったハーブティーを処方された王妃様も、元気になられ今ではバリバリ仕事をこなしています。


王宮では、おめでたい雰囲気に包まれていました。


陛下と王妃様が回復されたので、王宮にたくさんの人を集め、国王陛下と王妃様が回復されたことを伝えることになりました。


王宮の庭に国民を集め、二階のバルコニーに国王陛下をはじめ、王妃様とレオニス様、そしてフェルと私が立ちました。


病から回復したばかりの陛下に代わり、レオニス様が国民に、国王陛下と王妃様の回復したことを伝えました。


それと同時に、フェルの存在を国民に伝えました。


フェルは国王陛下が毒に冒されていることに気づいたこと。


ドゥンクラー・ヴァルトでエントギフテンデス・グラースの種を見つけたこと。


フェルの魔法でエントギフテンデス・グラースが五日で収穫出来たこと。


フェルの指導のもと解毒ポーションを作ったこと。


彼が豊穣の妖精であること。


これからこの国には妖精の加護が与えられ、土地が豊かになることを伝えました。


妖精の加護が国中に届くまでには時間がかかるので、それまではグレンツェンダー・コールを育て飢えをしのぐことも一緒に伝えました。


レオニス様がそのことを伝えると国民から歓喜の声が起こりました。


国民から賞賛を浴びるレオニス様とフェルの後ろ姿を、私はぼんやりと眺めていました。


国民が求めてるのも、レオニス様が求めているのも、豊穣の妖精であるフェルだけ。


私は彼のおまけでしかないんですよね。


そのことを肝に銘じ、調子に乗らないようにしましょう。


「妖精の愛し子様〜〜!」 

「加護姫様〜〜!!」


群衆から時々そのような声が上がりました。


そのような呼び名を、私は人ごとのようにぼんやりと聞いていました。



 ◇◇◇◇◇




三カ月後――


ヴォルフハート王国、離宮――




国王陛下と王妃様が回復し、フェルの存在を皆に明かしてから三カ月が経ちました。


フェルの存在を皆に知らせたので、品種改良して育ちが良くなったじゃがいもを、祖国から持ち込んだと嘘をつく必要がなくなりました。


なので、庭でじゃがいも以外の野菜も育てることにしました。


果樹園でりんご、梨、桃、蜜柑、杏を。


野菜畑では、じゃがいも、グレンツェンダー・コール、トマト、なす、にんじん、ピーマンを。


薬草畑では、ハイレンデス・クラウト、エントギフテンデス・グラース、エアホーレンダス・ブラットを育てています。


薬草畑で育てた薬草を元に、薬師さんたちが回復ポーションや解毒ポーションを作っています。


今はポーションの数が少なく、兵士に持たせる分しかありません。


もっと多くのポーションを作れるようになったら、旅の行商人などにも売りたいです。


そうしたら、きっと良い収入源になり財政も潤うと思います。


国が豊かになるのはいいことですよね。



 ◇◇◇◇◇



その日は朝から離宮の庭園で農作業をしていました。


今日もじゃがいもが豊作です。


収穫したじゃがいもは、食堂に持っていき使用人のご飯になります。


残りは市民に配ります。


私がじゃがいもを収穫していると、畑の向こうから賑やかな声が聞こえてきました。


「フェル様、クッキーを召し上がりませんか?」


「私はタルトを作ってきました!」


「パウンドケーキを焼いてきたんです。召し上がってください」


「わーい! お菓子がいっぱいなのだ〜〜!」


愛らしい容姿で明るい性格のフェルは、庭師の女性に大人気です。


フェルの存在が皆に受け入れられてとても嬉しいのですが、少し不安になります。


フェルが今まで私の傍にいたのは、他の人と接触してこなかったからです。


彼がたくさんの人と触れ合って、その人たちと仲良くなったら……。


フェルは、その中の誰かと一緒にいたいと思うかもしれません。


それは大変喜ばしいことなのですが、少し寂しくもあります。


フェルを気に入った方が、この国を愛して、この国にとどまってくれるといいんですが。


フェルがその人と暮らすようになっても、彼には毎日会いたいです。


なので、出来ればフェルの家のすぐ近くに住みたいです。


「妖精殿は庭師の女性に大人気のようだな」


「レオニス様」


振り返るとレオニス様が立っていました。


彼はいつもの漆黒の軍服ではなく、白の長袖のシャツと、茶色のズボンと、黒の長靴を身に着け、手には白い手袋を付けていました。


このところモンスターの被害が減っているので、時々こうして収穫のお手伝いをしてくれます。


軍服を着てるときは凛々しく感じましたが、作業着を着ると笑顔が似合う爽やかな好青年に見えます。


レオニス様がその格好で女性に笑いかけたら、彼を怖いと敬遠していた女性たちからも、黄色い声が上がるかもしれません。


レオニス様の魅力に気付いた女性たちが周りにたくさん集まってきたら……。


その中に、レオニス様の心を射止める素敵な女性が混じっていたら……。


レオニス様に愛する人ができたら、私は身を引くつもりです。


私には妖精の加護があるので、彼からは離婚を言い出せないかもしれません。


その方を正室にし、私を側室にすることで、丸く収めようとするかもしれません。


レオニス様は、愛する方と、妖精の加護を両方手に入れられます。


側室に降格されても傷ついたりしません。


ですが、できればレオニス様が愛する女性と仲睦まじくしてるところを見たくありません。


なので、王宮を出て遠くに住むことを許可して欲しいです。


フェルが他の人に懐いたと仮定したときは、それでもフェルに毎日会いたいと思いました。


でも、レオニス様が他の人を愛したと仮定した時は、彼に会うのを辛いと感じました。


なぜそう思ったのか、自分でもわかりません。


どちらにしても、二人が私から離れていっても生きていけるように、体力をつけておかねばなりません。


城から出たら、一人で生きて行かなくてはならないのですから。


農家で雇ってもらえるように、畑仕事のノウハウをしっかりと身につけておきましょう!


「こ、こんなに可愛らしいアリアベルタがいると言うのに他の女性に目移りするとはな。

 妖精殿は思いの外浮気症なのだな。

 その点、俺は他の女性に目移りしたりなどしない……!」


レオニス様がこちらを見て何かを言っています。


遠くにいる庭師の女性とフェルの笑い声が大きくて、彼の声は風にかき消されてしまいました。


レオニス様は背が高いので、周囲が騒がしい時に、ボソボソと喋られるとよく聞き取れないのです。


彼の声はよく聞こえませんでしたが、彼の顔が赤いのはよく分かりました。


もしかしたら、彼は熱中症にかかったのかもしれません。


「レオニス様、まだ日差しが強い時期です。

 農作業をする時は帽子をかぶった方がいいですよ。

 私、麦わら帽子を取ってきますね!」


私は彼を畑に残し、離宮へと戻りました。


「アリアベルタ、違うんだ……!

 俺の顔が赤いのは……熱中症ではなくて……」


畑に取り残された彼が、何か叫んでいる気がしました。



 ◇◇◇◇◇



離宮に戻ると、クレアさんが冷たいハーブティーを用意していました。


せっかくなので、お茶を一杯いただきました。


「農作業用の服を着て畑に向かう王太子殿下は、とても楽しそうでした。

 あの方が穏やかな表情をされるなんて、数カ月前までは想像もつきませんでした」


確かに、この国に嫁いできた時の彼は、怖いくらいの気迫に満ちていました。


モンスターの被害、天候不順による農作物の収穫量の減少、両親の病、これだけ重なったら、彼から笑顔が消えても不思議ではありません。


「王太子殿下は鍬や鋤を持ったこともないのですよ。

 その殿下が剣をクワに持ち替え、軍服を農作業用の服に変えて畑仕事をする日が来るなんて……。

 王太子殿下はよほど王太子妃様のお傍にいたいのですね。意地らしいですね」


レオニス様が、私に近づくために農作業をしている?


ちょっと想像できません。


私がフェルと仲良しだから、私の機嫌を取ろうとしているのでしょうか?


可能性としては十分あります。


レオニス様にとって、私はフェルの付属でしかないのですから。


そう考えたら胸の奥がモヤモヤしてきました。


彼のことを思うと、胸の奥がズキズキして、鬱々として、切なくて、複雑な気持ちになります。


この感覚は一体なんなのでしょう?

 





読んで下さりありがとうございます。

少しでも、面白い、続きが気になる、思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。執筆の励みになります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ