38話「薬草を発見する」
「私はフェルのおまけみたいなものですから」
私は首を横に振りました。
「そんなことはない。俺は君自身がとても……」
レオニス様が私の手を握りしめました。
握られた手から彼の体温が伝わってきて、心臓はドクンと音を立てます。
「アリー! 見つけたのだ〜〜! 心配したのだ〜〜!!」
その時、フェルが空から舞い降りてきました。
レオニス様は手を振りほどき、彼から距離を取りました。
レオニス様と手を取り合って、見つめ合っていたのを、フェルには見られていませんよね?
「フェル、心配かけてごめんなさい。でも大丈夫よ。
危ないところをレオニス様が助けてくれたから」
私の胸に飛び込んできたフェルを、キュッと抱きしめました。
「そうなのだ? なら一応、王太子にもお礼を言っておくのだ。ありがとうなのだ」
「礼には及ばない。
夫として妻を助けるのは当然のことだ。
それより妖精殿、アリアベルタとの距離が近くないか?」
気のせいでしょうか?
レオニス様が今「夫」の部分を強調したように聞こえました。
「今更、夫面してマウントとってきても僕は認めないのだ〜〜!
アリーと一番仲良しなのは僕なのだ!」
フェルはレオニス様に向かって、あっかんべーをしています。
なんだか、このやり取りには既視感があります。
お二人は喧嘩するほど仲が良いようです。
「それよりエントギフテンデス・グラースがまだ見つかりません。
もうすぐ日が暮れます。
早く見つけないと……」
「これだけ探しても見つからないのだ。
もう滅んでしまったかもしれないのだ」
フェルが淡々と言いました。
「フェル、そんなこと言わないで。
エントギフテンデス・グラースがないと、陛下を助けられないの。
時間までエントギフテンデス・グラースを探しましょう」
なんとしても、今日中にエントギフテンデス・グラースを見つけ出さなくてはいけません。
出来れば疲労回復の効果があるエアホーレンダス・ブラットも見つけたいですが、優先順位は低いです。
「いや妖精殿の言うことにも一理ある。
それに、もうじき日が暮れる。
夜になるとモンスターが凶暴化する。
今日の捜索はここまでにしよう。
エントギフテンデス・グラースの捜索も大事だが、俺にはアリアベルタと妖精殿も大事だ」
エントギフテンデス・グラースがなければ、国王陛下の治療ができません。
レオニス様、今大変お辛いはずです。
それなのに私たちを気遣って、そのように言ってくださるなんて……。
「もう少しだけだめですか? せめてあと三十分だけでも……!」
無理なお願いなのはわかっています。
それでも諦めたくはないのです。
「しかしな、アリアベルタ……」
「あーー! 王太子の足元……!」
フェルがレオニス様の足を指さしました。
「俺の足がどうした?」
レオニス様は驚いた顔で自分の足を見ています。
「ズボンについてるのは、エントギフテンデス・グラースの種なのだ!
エアホーレンダス・ブラットの種もついているのだ!」
「本当か!? 妖精殿!」
「本当なのフェル?」
植物の種の中には、服や動物の体につきやすい形状に進化したものがあります。
エントギフテンデス・グラースとエアホーレンダス・ブラットの種も、そういった進化を遂げていたようです。
「本当なのだ。僕の薬草の目利きは確かなのだ」
フェルが自信たっぷりに言っているので、エントギフテンデス・グラースとエアホーレンダス・ブラットの種に間違いないのでしょう。
「アリアベルタを捜索している時、あちこちを走り回ったからな。
その時に着いたのかもしれない。
これで父上と母上を助けることが出来る……!」
レオニス様は嬉しさを噛み締めていました。
フェルは慎重に種を採取し、袋の中に入れました。
「フェル、あなたの力を使って種から育てるのに何日ぐらいかかりそう?」
フェルの能力は、植物の成長速度を早めるもの。
果樹のように種を植えてから実がなるまでに時間がかかるものは、半年。
じゃがいものように元から成長が早いものは、一日で収穫できます。
「エアホーレンダス・ブラットは成長が早いので、庭に植えて、僕の魔法をかければ一日で採取できるのだ」
それは嬉しいです。
「エントギフテンデス・グラースは成長が遅いので、僕の魔法をかけても収穫するまでに五日ぐらいかかりそうなのだ」
「五日も……それまで国王陛下の体は持つかしら?」
「持ってもらうしかないのだ。
僕も疲労回復とか他の魔法をかけて、国王が死なないように努力するのだ」
「ありがとうフェル」
「妖精殿、恩に着る」
種とはいえ、エントギフテンデス・グラースが見つかったのは収穫です。
「種があるということは植物の本体もあるはずです。
レオニス様、どの辺を走ったか覚えていらっしゃいませんか?」
「すまない。がむしゃらに森の中を移動したので、どこを通ったかまるで覚えていない」
もうすぐ日が暮れます。
今から、レオニスが通った場所をしらみつぶしに探すのは難しそうですね。
「仕方ありません。種だけでも持ち帰りましょう」
「この森にエントギフテンデス・グラースの本体があるのは分かった。
明日俺、一人で探しに来る」
レオニス様は毒草ばかり採取していました。
彼にエントギフテンデス・グラースの捜索を任せて大丈夫でしょうか?
「無駄なことはしないで、庭に植えたエントギフテンデス・グラースが育つのを待った方が良いのだ。
誤って毒草を取ってきて、それを城中に撒かれても困るのだ」
「私もその方がいいと思います。
毒草の中には、触れただけで体に害を及ぼすものもあります。
そのような毒草に触れて、レオニス様の身体に影響が出たら大変です」
「分かった。
二人がそう言うなら単独で薬草を探すのは諦めよう」
レオニス様は不服そうな顔をしていましたが、最終的には私たちの意見に従ってくれました。
あとはエントギフテンデス・グラースの育つまで、陛下がご無事でいてくれることを願うだけです。




