35話「森でのモンスター退治と薬草探し。アリアベルタ、王太子の勇敢な姿に見惚れる」
「せいやぁっ!」
王太子殿下が剣を振るうと、モンスターが断末魔を上げて、倒れました。
ドゥンクラー・ヴァルトには、話に聞いていたよりモンスターが多いです。
ですが、襲い来るモンスターは殿下があっという間に倒してくれます。
剣を振る彼の姿を初めて見ました。
精悍な顔でモンスターを睨みつけ、モンスターを蹴散らしていく彼は、凛々しくて勇ましくて……。
見ていると胸がドキドキします。
「アリアベルタ、怪我はないか?」
「はい、殿下が守ってくださいましたから」
彼に見つめられると、変な気持ちになります。
「僕も王太子の体力と素早さが上がる魔法をかけたのだ!」
フェルが、腰に手を当てて自慢気に言いました。
「そうね、フェルのお陰ね。
ありがとう」
私がフェルの頭を撫で撫ですると、彼は嬉しそうに目を細めていました。
「俺には……」
「はい?」
「俺も頑張ったのだが、頭を撫でてはくれないのだろうか?」
王太子殿下が、照れくさそうに言いました。
「王太子殿下は、大人ですから」
「そうなのだ〜〜!
アリーのよしよしは僕だけの特権なのだ〜〜!」
「頭を撫でて」とか、可愛いことをおっしゃる方だとは思いませんでした。
「そうか……大人は駄目なのか」
殿下は肩を落とししゅんとしていました。
こんなに気落ちするなら、頭ぐらい撫でてあげれば良かったでしょうか?
「殿下、あの……」
「ならばせめて……『レオニス』と、名前を呼んでほしい……!」
彼は私の手を握り、じっと見つめてきました。
彼の真紅の瞳で見つめられ、心臓がドクンと音を立てます。
「お名前でお呼びしても、宜しいのでしょうか……?」
「ぜひ、名前で呼んでほしい。出来れば『レオ』と愛称で呼んでほしい」
い、いきなり愛称で呼ぶのはちょっと……。
「愛称でお呼びするのは少しためらってしまいます。
レオニス様とお呼びするのでは駄目ですか?」
「いや、駄目ではない。嬉しい」
彼は目を細め、口角を上げ、優しく微笑みました。
ドクン……! とまた心臓が音を立てました。
こんなに優しい表情の出来る方だったのですね。
「君のことを、『アリー』と呼んでもいいだろうか?」
「えっ……?」
お母様とフェル以外の人に愛称で呼ばれたことはありません。
「えーっと……それは……」
彼に「アリー」と呼ばれるところを想像すると、こそばゆい気持ちになります。
「駄目なのだ!
アリーのことを、『アリー』って呼んでいいのは僕だけなのだ!!」
フェルが背後から私に抱きついてきました。
声から察するに彼はとても怒っているようです。
「ごめんなさい。
フェルが嫉妬してしまうのでそれはちょっと……」
「そうか……ならば今まで通り、『アリアベルタ』と呼ぼう」
彼は眉を下げ残念そうに言いました。
「そうしてください」
レオニス様に、毎回「アリー」と呼ばれるのは心臓によくありません。
彼に愛称で呼ばれなくてホッとしたような……どこか残念なような……不思議な気持ちでした。
◇◇◇◇◇
「フェル、この草はどうかしら?」
「凄いのだ、アリー!
よもぎに似ているこの草は、ハイレンデス・クラウトというのだ。
ハイレンデス・クラウトには、怪我を治す効果があるのだ。
回復ポーションの材料になるのだ!」
「まぁ、よかった」
私は採取した薬草をポーチに入れました。
薬草がたくさん生えている場所まで来ました。
薬草を集めフェルに鑑定してもらっています。
この国は魔物がとても多いです。
回復ポーションがあれば、兵士や旅の行商人なども助かるでしょう。
たくさん作って一般の人まで流通させたいです。
他国に売ればいいお金稼ぎができるかもしれません。
「妖精殿、こっちの草と木の実はどうだろう?」
レオニス様が赤い木の実とオレンジの草を、フェルに見せました。
「どちらも毒があるのだ。
早く捨てるのだ。
それから、毒草を触った手でアリーに触れないでほしいのだ。
さっさと手を洗うのだ」
「そうか……」
フェルに辛口の判定を受け、レオニス様はしょんぼりしていました。
この地には毒草も多く生息しているようです。
誤って持ち帰らないように、気をつけなくてはいけません。
「フェル、この植物はどうかしら?
キャベツに似ていて美味しそうなんだけど」
私は採取した植物をフェルに見せました。
「アリー、凄いのだ。
それはグレンツェンダー・コールというキャベツの一種なのだ。
貧しい土地や痩せた土地でも育ち、成長も早いのだ」
「そのような植物なら、国中に植えれば民が飢えから救われるわね」
とてもいい植物を発見しました。
「グレンツェンダー・コールは食べるとお肌がつやつやになるのだ」
観光客向けに食堂で出してもいいかもしれません。
グレンツェンダー・コールを食べてお肌ピチピチになるツアーなども組めるかもしれません。
夢が広がります。
「僕の妖精の加護は国中に伝わるまでにしばらく時間がかかるのだ。
その間、国民にはグレンツェンダー・コールを食べて過ごして欲しいのだ」
「フェルの加護って、庭の野菜に直接与える以外にもあったの?」
フェルが魔法をかけると、野菜は一日で、りんごなどの木の実は種から育てても半年で収穫できます。
そういえばこの国に嫁いで来た時、ノーブルグラント国では二十年ほど豊作が続いてると聞いたわ。
大寒波の年も、日照りの年も、害虫が大量発生した年も、ノーブルグラント国ではずっと豊作だったと……。
それは全部フェルの加護の影響だったのね。
フェルは私と一緒にヴォルフハート王国に移動したわ。
なのでこれからは、妖精の加護をヴォルフハート王国が受けることになるのね。
そうなると、妖精の加護を失ったノーブルグラント王国はどうなるのかしら?
それよりも今は、国王陛下の解毒するエントギフテンデス・グラースを探すのが先決よね。
「妖精殿、この植物はどうだろうか?」
レオニス様の手には、毒々しい紫色と黄色のストライプの植物と、赤と黄色の水玉模様の植物が握られていました。
「王太子が手にしているのは毒草なのだ。ばっちいのでポイするのだ」
フェルは、レオニス様の持っている薬草を見て顔をしかめました。
自分が手にしていた植物が毒草だと分かり、レオニス様はショックを受けているようでした。
「フェル、もう少しオブラートに包んで言ってあげないと……」
馬は一頭しかおらず、レオニス様しか馬に乗れません。
彼が落ち込んでしまうと、帰りが心配です。
「はっきり言わないとわからないのだ。
それに、毒草を持って帰ったら大変なのだ」
「妖精殿の言う通りだ。毒草を城に持ち帰るわけにはいかない」
レオニス様はキリッとした表情で言いました。
「城に帰ったら、毒草の特徴を兵士に伝える。
後日、城の兵士を山に派遣し、毒草を焼却処分する。
近隣の村人にも、毒草の特徴を伝え、毒草を口にしないよう注意を促す」
毒草の特徴を伝え、食べないように注意するのは大事なことです。
読んで下さりありがとうございます。
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