32話「王妃の容態と親孝行な息子」
国王陛下の毒の治療方法を考えるのが最優先です。
「フェル、国王陛下の毒を治療する方法はないのかしら?」
「エントギフテンデス・グラースという赤紫蘇に似ている薬草があれば、解毒ポーションが作れるのだ」
フェルが得意げに言いました。
やっぱりフェルは頼りになるわ。
「その薬草がどこにあるかわかる?」
「僕はこの国に来たばかりだから、薬草の生えている場所まではよくわからないのだ」
フェルが首を横に振りました。
そうよね。フェルでもわからないことはあるわよね。
「薬草は学者たちに調べさせる。もしかしたら薬草園に目当ての薬草があるかもしれない」
殿下がそうおっしゃいました。
この国のことは、この国の専門家に聞いた方が早いですものね。
「僕も庭に来た鳥さんたちに聞いてみるのだ」
もしかしたら学者よりも、フェルのお友達の鳥さんの方が薬草に詳しいかもしれませんね。
陛下の治療方法が分かり、王太子殿下は少し穏やかな表情をしていました。
彼が不機嫌でカリカリしていたのは、ご両親の体調不良から来る心労からだったのかもしれません。
王太子殿下は、親孝行で優しい方のようです。
◇◇◇◇◇
「父上の症状はわかった。
エントギフテンデス・グラースの生息地を学者に調べさせる。
街の薬屋や病院や雑貨店にエントギフテンデス・グラースがあるかもしれないから、兵士に手分けして探させる。
妖精殿、すまないが母上の様子も見てもらえないだろうか?」
王妃様は心労と過労で倒れたんですよね。
「フェル、私からもお願い。
王妃様の様子を見てあげて」
過労なら、フェルの魔法でなんとかなるかもしれないわ。
「アリーのお願いだから聞いてあげるのだ」
「ありがとうフェル」
私はフェルの額にキスしました。
フェルは嬉しそうに笑っていました。
「ふ、不純だ!
額へのキスは家族愛を超えている!
夫の前で堂々と浮気など……!」
殿下が、怖い顔でこちらを睨んできます。
「殿下、病人の前ですよ。お静かに」
私が「しー!」というと、彼は不服そうに口をつぐみました。
「額へのキスは家族間でもします。
私もお母様が生きている時に、額にキスしてもらいました」
「僕もエリドラが生きている時、たくさん額にキスしてもらったのだ」
エリドラお母様は、額へのキスをするのが好きな方でした。
「二人の女性を手玉に取るなど……。
可愛い顔をしているが妖精殿はなんたる魔性……!」
殿下がブツブツと何か言っています。
「家族間で額にキスして良いのなら、俺もアリーに額にキスしてほしい……! 俺は彼女の夫で家族なのだから! それに、俺もアリーの額にキスしたい……!」
彼の独り言は今に始まったことではないので、無視してもいいでしょう。
◇◇◇◇◇
王妃様の寝室に行くと、ベッドの傍にお医者様とメイドが控えていました。
殿下が人払いをすると、彼らは速やかに退室しました。
彼らが出て行った後、フェルが姿を露にしました。
宮殿に来てから姿を消したり出したり、フェルも大変です。
やはり、離宮で作物を育てながらのんびり暮らすのが私たちの性に合っています。
壁には、若い頃の王妃様を描いたと思われる絵が飾られていました。
絵の中の王妃様は、黒髪のロングヘアで大きな赤い瞳をしていて、優雅で洗練された微笑みを称えていました。
絵の女性はどことなく王太子殿下に似ていました。彼は母親似のようです。
天蓋付きのベッドに、四十代前半の女性が横たわっていました。
眠っていてもわかるほど、気品があって美しい顔立ちをしていました。
髪は黒く長く、ほっそりとした体型をしていました。
国王陛下ほどではありませんが、王妃様も苦しそうに息をしています。
それに、顔色もよくありません。
「フェル、王妃様の容態はどうかしら」
「こっちはただの過労なのだ。
疲労回復の魔法をかけて、疲労回復に効果のあるハーブティーを飲ませればすぐに治るのだ」
さすがフェル、頼りになるわ。
「妖精殿、そのハーブティーの材料はわかるのか?」
「もちろんなのだ。
エアホーレンダス・ブラットという名前の、赤色のつるに赤い葉が特徴的なハーブなのだ」
「すぐに学者たちに調べさせる!
薬草園や町の薬屋なども探させる!」
ハーブが直ぐに見つかってくれるとよいのですが。
エアホーレンダス・ブラットが見つかったら、離宮の庭で栽培したいです。
採れたてのじゃがいもと一緒にハーブティーを飲んだら、きっとじゃがいもをより美味しく感じられると思います。
「取り敢えず疲労回復の魔法をかけておくのだ」
フェルが魔法をかけると、王妃様の顔色が少しよくなり、寝息も先ほどより穏やかになりました。
王妃様が回復したのを見て、王太子殿下は安堵の息を吐きました。
あとは、エントギフテンデス・グラースとエアホーレンダス・ブラットが見つかることを祈るだけです。




