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31話「国王と王妃の病」




それから私たちは国王陛下の部屋に向かいました。


私は、すぐにでも向かいたかったのですが……。


フェルが「お腹が空いて力が出ない」と言い出して……。


ちょうどそこに、クレアさんが朝ごはんを運んできました。


クレアさんが来たので、フェルは姿を消しました。


そんなわけで、朝食を食べてから陛下の元に向かうことになりました。


なぜか、王太子殿下も一緒に朝食をいただくことになりました。


思えば、彼と一緒に食事をするのは初めてです。


じゃがいもを食べる時とは違い、殿下は優雅に品よく食事をしていました。


武芸に秀でていても、王太子なのだなぁ……と感嘆の息が漏れました。



 ◇◇◇◇◇



食事を終えたので、今度こそ出発……と思ったのですが。


「父上の部屋に行くのにメイドの服では駄目だ」……と、王太子殿下が言い出しました。


私は王太子の使用人としてついて行ってもよかったのですが、彼はそれでは納得いかないようです。


なので、王太子殿下からいただいたドレスの中から比較的控えめなデザインの水色のドレスを選び、それに着替えました。


髪は、クレアさんがハーフアップにしてくれました。


陛下にお会いするのに、こんなに準備が必要とは思いませんでした。


ドレスアップした私を見て、王太子殿下は頬を染め口をポカンと開けていました。


「殿下は、王太子妃様のあまりの麗しさに見惚れているようですね」


クレアさんが私の耳元で囁きました。


そうでしょうか?


彼のことだから「似合わない」とか、「母上の服が台無しだ」とか思っているのではないでしょうか?


フェルが私にだけ聞こえる声で「可愛いのだ」と言ってくれました。


フェルが褒めてくれれば、私は満足です。



 ◇◇◇◇◇



着替えと食事を終えたので、今度こそ国王陛下の寝室に向かいました。


フェルは姿を消して、私の後ろを飛んでいます。


王太子殿下は、私の前をゆっくりと歩いています。


きっと私の歩調に合わせてくれているのでしょう。


国王陛下の部屋は、宮殿の三階にありました。


広く豪華な部屋の中央に、天蓋付きのベッドがドーンと配置されていました。


ベッドには四十代前半の男性が横になっていました。


この方が国王陛下のようです。


陛下の顔はやつれ、顔色もよくありません。


陛下は眠っているようでした。


寝息からも、陛下が苦しんでいるのが伝わってきます。


壁には陛下の肖像画が飾られていました。


少し白髪が混じった黒髪に、切れ長の茶色の目、剣を持つ姿は勇壮でした。


顔はあまり王太子殿下に似ていません。殿下は王妃様似なのかもしれません。


王太子殿下が人払いをすると、陛下の傍で仕えていた、医者とメイドが部屋を出て行きました。


「人払いをした。

 妖精殿は姿を現しても良いぞ」


「は〜〜やっと姿を現せるのだ」


フェルが姿を消す魔法を解きました。


「なぜアリアベルタの肩に張り付いている!?

 そなた飛べるだろ!?」


王太子殿下は、私の肩にフェルがぴったりとくっついているのを見て、眉根を寄せました。


「飛ぶのに疲れたのだ」


「だからといって、アリアベルタにベタベタする必要はないだろう……!」


このままだとまた言い争いが始まってしまいます。


「殿下、お静かに。

 病人の前ですよ」


私がそう注意すると、殿下は押し黙りました。


「父は数カ月前に倒れ、それ以来寝たきりだ。

 父は、自ら兵を率いて前線に立つような勇猛な方だった……。

 今は、だいぶやつれてしまった……」


陛下を見る王太子殿下の顔は、憂いに満ちていました。


「王妃様はこの部屋にはいないのですか?」


「父の容体が思わしくないので、

 母は自分の部屋で休んでいる」


「そうなんですね」


ご両親に一度に倒れられてしまって、王太子殿下はお辛いでしょうね。


「フェル、何かわかる?」


フェルはふわふわと飛んで、陛下の頭上をうろうろとしていました。


「ん〜〜。

 多分だけど僕の見立てでは、これは病ではないのだ」


「えっ?」


「妖精殿! それは本当か!?」


殿下がフェルの肩を掴みました。


殿下の目は鋭く、険しい顔つきをしていました。


「痛いのだ、王太子。

 僕を手荒に扱わないで欲しいのだ」


フェルがぷくっと顔を膨らませました。


「すまない、つい……」


王太子殿下がフェルを掴んでいた手をパッと離しました。


「フェル、陛下が病ではないとはどういうことなの?」


私はフェルに尋ねました。


「多分だけど、国王が倒れたのは毒のせいなのだ」


フェルは国王陛下の顔を見ながら言いました。


「誰かが父上に毒を盛ったというのか!?」


王太子は険しい顔でフェルに詰め寄りました。


「多分それは違うと思うのだ。

 これは魔物の毒なのだ。

 人間が手に入れるのは難しいのだ」


「魔物の毒だと……?」


陛下が何者かに毒を盛られたのではないとわかり、殿下は少しほっとしているようでした。


「国王は倒れる前に魔物に襲われたり、魔物と戦ったりしたはずなのだ。

 よく思い出すのだ」


フェルに問われ、王太子殿下は顎に手を当てて何かを考えているようでした。


「そういえば、 

 父上はお倒れになる数日前、森に魔物の討伐に行っていた」


「きっとそれが原因なのだ」


「だが父上は魔物との戦闘の後ピンピンしていた。

 数日後に急に倒れたのだ」


「遅効性の毒なのだ。

 魔物の中にはそういう毒を持っている個体もいるのだ」


国王陛下の体調不良の原因は、魔物の毒で間違いなさそうです。


「そうだったのか……。

 俺はてっきり病だとばかり……」


王太子殿下が苦しげな表情で陛下を見つめています。


父親が倒れた原因が病か、毒か、その判断がつかなかったことに罪悪感を覚えているのかもしれません。


「殿下、そんなに気を落とさないでください。

 お医者様でも気づかなかったことです。

 妖精のフェルだから分かったのです。

 殿下が気づかなくても仕方ありません。

 そう、ご自分を責めにならないでください」


私は殿下の傍に寄り添い、彼の手を握りました。


殿下が今にも泣き出しそうな顔をしていて、放っておけなかったのです。


「君は……俺に触れても平気なのか……?」


「はい……?」


それは一体どういう意味でしょうか?


私に手を握られた彼は、顔を真っ赤に染めていました。


「アリーと仲良ししていいのは僕だけなのだ〜〜!」


フェルが頬を膨らませ、むっとした表情をしています。


私は殿下からパッと手を離しました。


「ごめんね、フェル。おいで!」


やきもちを焼くフェルも可愛らしいです。


私が腕を広げると、フェルは私の胸に飛び込んできました。


「アリーの一番の仲良しは僕なのだ〜〜!」


フェルを抱っこして彼の頭を撫でました。


殿下はそんな私たちを、怖い顔で睨んでいました。


殿下は毒に倒れている父親の前で、私たちがはしゃいでいるから怒っているのですね。


不謹慎な行動でした。




読んで下さりありがとうございます。

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