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30話「王太子の事情」



「アリーを大切だと思っているなら、離宮に閉じ込めたりしないのだ。

 そもそもこの国自体がアリーを歓迎していないのだ。

 その証拠に、結婚式に国王も王妃も参列しなかったのだ。

 式の後のパレードもなかったのだ。

 この国全体がアリーのことを軽んじているのだ」


フェルは結婚式に参列していませんが、結婚式の様子は私の口からフェルに伝えました。


陛下と王妃様が式に参列しなかったことも、パレードのことも私はもう気にしていません。


ですが、フェルはまだ根に持っているようです。


「確かに、君への待遇が良くなかったことは認める。

 本当にすまなかったと思っている」


「殿下、どうか頭を上げて下さい。 

 私はこの離宮での暮らしが気に入っています。

 それに、結婚式に国王陛下や王妃様は参加しなかったことも気にしてはいませんから」


殿下はとても苦しそうな表情をしていました。


彼の表情から反省しているのが伝わってきます。


それだけでもう十分です。


「だがそれらのことには、全て理由があるんだ!」


彼は縋るような目で私を見ました。


「理由とはどのような?」


「君がこの国に来た時、君の噂は散々だった。

 使用人に暴力を振るっているとか、金遣いが荒いとか……」


確かに酷い噂が流れていましたね。


「この国に来た時君は、ゴテゴテしたドレスを纏っていた。

 僕は君のことを見た目で判断し、噂通りの人物だと思ってしまった。

 それで使用人に被害が及ばないように、君をこの離宮に住まわせた。

 君を離宮に隔離しておけば、行商人など城に呼んで散財することも、使用人に暴力を振るうこともないと思って……」


彼は沈鬱な表情でそう話しました。


「だが君と話して、君がそのような人物ではないことがわかった。

 君は民のために自ら畑を耕し、率先して炊き出しをするような人だった。

 そんな君が、使用人を粗雑に扱い、散財するはずがない。

 もっと早くに、君とちゃんと向き合っておくべきだった。

 本当に申し訳ないと思っている」


王太子殿下が苦しげな表情で頭を下げました。


「殿下、頭を上げてください。

 私も噂を否定しませんでした。

 噂を信じ込ませるような酷い格好をしていました」


服装については、自分ではどうすることもできませんでした。


「殿下が、上に立つものとして使用人を守ろうと行動されるのは当然です。

 それに先ほどもお話ししましたが、私は離宮での暮らしがとても気に入っています。

 だからお気になさらないでください」


離宮にはあまり人が来ないので、フェルとお話ししていても、不審に思われることがありません。


むしろずっと、離宮で暮らしたいです。


「君には謝ってばかりだ」


頭を上げた王太子は、悲しげに眉を下げました。


「アリーを離宮に住まわせた理由はわかったのだ。

 だけど、国王と王妃が結婚式に参加しなかった理由はまだ聞いてないのだ」


フェルはそのことが気になっているようです。


「父上と母上が結婚式に参列しなかったのには理由がある。

 数カ月前、父は病に倒れた。

 それ以来、父はずっと寝たきりだ」


まさか、国王陛下が病だとは思いませんでした。


「父が病に倒れた後、父の公務は全て母が請け負った。

 しかし父の看病と、心労と、公務が重なり、母まで倒れてしまった。

 二人が結婚式に参列できなかったのは、そういった理由からだ」


彼は苦しそうに目を伏せました。


飢饉に、魔物による被害に、お父様の病……。


その上、お母様まで過労で倒れてしまった。


殿下の精神的な苦痛は相当だったでしょう。


そんな状態で私と結婚したのは、ノーブルグラント王国からの支援が目的だったのでしょう。


愛されている妹ではなく、厄介者の私が嫁いできたと知ったとき、殿下はどれほどの衝撃を受けたのでしょう?


「今この国には財政的な余裕がない。

 だから、結婚式の後パレードを行うことができなかった。

 結婚式は一生に一度のことだ。

 君には本当にすまないことをしたと思っている」


彼は憂いを帯びた表情でそう謝罪しました。


「結婚式に国王陛下と王妃様が参加しなかったのは、そういった事情があったのですね」


「君は怒っていないのか?」


「いいえ全く。

 私が嫌われていたわけではないとわかり、ほっとしています」


私が怒っていないことは分かり、王太子殿下は安堵の表情を浮かべていました。


「それより国王陛下の容態が気になります。お医者様はなんとおっしゃっているのですか?」


「それが、医者にも原因が分からないらしい……」


彼は苦しげな表情で唇を噛みました。


お医者様にも原因が分からない病なんて……。


「フェル、国王陛下の診察はできないかしら?」


「僕は妖精で、医者ではないのだ」


「でも国王陛下の体を調べたら、何かわかるかもしれないわよね?」


フェルは博識です。


もしかしたら病に効く薬草の処方など、わかることがあるかもしれません。


それに、フェルは不思議な力を使えます。


国王陛下の容態によっては、フェルの不思議な力で治せるかもしれません。


「妖精殿!

 俺からも頼む!

 父の診察をしてほしい!」


彼は縋るような目でフェルを見つめ、そう懇願をしました。


「うーん。

 僕とアリーが一緒の部屋で寝ることと、僕たちが一緒にお風呂に入ることを許可してくれるなら、国王を診察してもいいのだ」


フェルは少し考える素振りをした後、そう言いました。


「ぐっ……!

 そのようなことを引き合いに出すとは……卑怯だぞ!」


「卑怯でいいのだ〜〜。

 嫌なら国王のことは診察しないのだ〜〜」


フェルはそっぽを向いて、ツーンとした態度を取りました。


「父の命には変えられない……!

 妖精殿とアリアベルタが今まで通り一緒に暮らすことを認めよう。

 だから頼む!

 父のことを診てほしい!」


殿下は苦渋の表情を浮かべ、フェルに頭を下げました。


フェルと一緒にいられるのは嬉しいですが、このような交渉をするのはちょっと気が引けます。


「分かったのだ! 国王の体を診るのだ!」


フェルはニコニコと笑いながら答えました。


「これで今までと同じにアリーと一緒にいられるのだ〜〜!」


フェルは楽しそうな声ではしゃいでいました。


はしゃいでいるフェルには悪いのですが、国王陛下の容態が気になります。


陛下の病に効く薬草などがわかるといいのですが。




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