29話「アリアベルタの生い立ち」
私は、フェルの存在を隠しきれないと判断しました。
なので、王太子殿下に包み隠さず今までの経緯をお話ししました。
私の話を聞いている間、彼は眉間に皺を寄せ、難しい表情をしていました。
「……というわけで、今もフェルと二人で暮らしています」
いきなり妖精とか、植物の加護とか、そういう話をされて、殿下は困惑しているのでしょう。
彼は険しい顔で眉間に手を当てていました。
私はフェルを膝の上に乗せ、彼のふわふわの髪を撫でました。
フェルの存在を初めて明かす人間が、王太子殿下になるとは思いませんでした。
「……話はわかった。
つまり君は、妖精とはいえ身内ではない男と一緒に暮らしているのだな?」
彼はじとりとフェルを睨みました。
えっ……と、気になるところはそこですか?
「結婚前ならいざ知らず、結婚後も一緒に暮らしているのはいかがなものかと思うぞ!」
彼に睨まれてしまいました。
「そんなこと言われましても……。
フェルは私が赤ちゃんの時から一緒にいます。彼は私の家族も同然です!」
私は膝の上にいるフェルを、ギューッと抱きしめました。
「そうなのだ!
僕はアリーのお母さんとも仲良しだったのだ!
だからアリーが生まれる前から、アリーのことは知っているのだ!
最近アリーと知り合ったばかりの王太子に言われたくないのだ!」
フェルは王太子殿下に向かって、あっかんべーをしました。
「知り合ったのは最近かもしれないが、俺は彼女の夫だ!」
「アリーに冷たくしたくせに、今さら夫とか言われても白けるのだ!」
フェルは王太子殿下に、歯を剥き出しにして「いー」と言いました。
殿下は「ぐぬぬ……」と呟き、悔しそうな顔をしていました。
「まさかとは思うが、
君達は浴室や寝室も共にしているわけではないよな……?」
殿下が額に汗を浮かべ、引きつった表情で尋ねてきました。
「アリーと僕は、毎日一緒にお風呂に入っているし、毎日同じベッドで寝ているのだ〜〜」
フェルが得意げな表情で言いました。
それを聞いた殿下は、額に青筋を浮かべていました。
「ふ、不健全だ! 不潔だ!
『男女七歳にして寝食をともにせず』と言う言葉を君達は知らないのか!?」
「知らないのだ〜〜」
「そなたはアリアベルタの膝の上から降りろ!
それから彼女を愛称で呼ぶな!」
「僕はアリーが生まれた時から、ずっとこう呼んでるのだ〜〜」
王太子殿下が顔を真っ赤にして怒鳴っています。
彼はフェルの何がそんなに気に入らないのでしょう?
フェルはこんなに愛らしくて、癒やされる存在なのに。
その上とっても役に立つのに。
「王太子殿下、フェルは私が小さな時からずっと一緒にいます。
本当に家族のような存在で、私の唯一のお友達なんです。
母が亡くなってからは、心を許せる唯一の存在なのです。
どうか私からフェルを取り上げないでください!」
フェルとはずっと二人で生きてきて、これからもずっとそうしていけると思っていたのに……!
「き、君は今、俺の妻なんだぞ!
他の男と寝室や寝室を共にしていいわけがないだろう!」
彼はむっとした表情で言いました。
「アリーから聞いたのだ。
王太子は初夜に、『お飾りの妻だ』って言ったのだ。
『いずれ離縁する』とも言っていたのだ。
今更夫として発言したって、何の説得力もないのだ〜〜」
フェルがツーンとした態度で言いました。
そうなんですよね。
私は彼のお飾り妻でしかないのです。
いずれは離縁されるわけですし、プライベートのことに口出しされたくありません。
「そ、そのことは……すまないと思っている」
反省しているのか、殿下は鎮痛な表情をしていました。
「君に酷いことを言ってしまったと心から反省している」
殿下が頭を下げました。
まさか彼に謝罪される日が来るとは思いませんでした。
「君のことを『お飾り妻』と言ったり、『離縁する』といったことは取り消す。
俺は君と離縁するつもりはない」
それはつまり……妖精と仲良しの私は利用価値があるから、この国の王太子妃のままでいてほしい……ということでしょうか?
「だから……浴室や寝室に他の男を連れ込むのは止めてほしい……。
他の誰かにそのようなところを見られては……」
王太子は体裁の事を考えているのでしょうか?
フェルは子供なのに、何を警戒する必要があるのでしょう?
「そのことなら心配いらないのだ。
僕は姿を消せるから、僕がアリーの部屋にいることは誰も知らないのだ」
「俺に見つかっているではないか!」
「これからはそんなヘマはしないのだ〜〜」
「くっ……!」
王太子殿下は額に青筋をいくつも浮かべていました。
「君たちが家族同然の仲なのはわかった。
一緒の家に住むなとは言わない。
だが、それでも最低限寝室は分けるべきだし、今後は浴室に一緒に入るべきではない」
王太子殿下は泣きそうな顔をしていました。
「嫌なのだ〜〜!
僕はアリーと一緒がいいのだ!」
「私もフェルと一緒にいたいです!」
「ぐっ……!
君たちの絆はそこまで深いというのか……!」
彼は悔しそうに唇を噛んでいました。
「今日は王太子殿下にフェルを見られてしまいました。
これからはこのようなことがないように気をつけます。
フェルの存在が他に知られることがなければ、王太子妃としての体裁は保てますよね?
なので私とフェルが今まで通り一緒に暮らしても問題ありませんよね?」
「お、俺が言いたいのはそう言うことではない!
す、……な人が別の男と浴室や寝室を共にしていて……平然としていられる男など……いない!」
彼はまたボソボソと何か話していました。
肝心な時に独り言を呟く癖をなんとかしていただきたいです。
「王太子は勝手なのだ〜〜。
今までアリーのことを大事にしてこなかったのに、アリーを独占しようとするのは良くないのだ〜〜」
「ぐぬぬっ……!」
殿下は言い返せないようでした。
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