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27話「王太子からのプレゼント」





一週間後――


ヴォルフハート王国、離宮――




一週間前に広場で行った炊き出しは大盛況でした。


その後も定期的に収穫したじゃがいもを国民に配っています。


フェルはお留守番させられたことに怒っていましたが、お土産をあげると顔を綻ばせていました。


お土産の種は果樹園の一角に植えました。果実が実ったらお菓子にしたり、シロップ漬けにしたいです。


フェルの存在を公にできれば、彼と一緒に街に行って炊き出しができるんですが……。


いきなり「妖精がいる」なんて言っても誰も信じてくれませんよね。


それにフェルの力を悪用する人が出てこないとも限りません。


やはり、フェルと二人で離宮でひっそりと暮らしているのが一番だと思います。



 ◇◇◇◇◇



その日はフェルが起きてくるのが遅いので、先に起きてリビングの掃除をしていました。


クレアさんは、「そのようなことはメイドがします」というのですが、何もしていないと落ち着かないんですよね。


祖国では、家の掃除は自分でしてましたから。


リビングの掃除が終わった頃、玄関のドアがノックされました。


クレアさんが朝食を届けに来てくれたのでしょうか?


今日の朝食は何かしら?


ウキウキしながら扉を開けると……。


そこにいたのは軍服に身を包んだ王太子殿下でした。


彼が離宮を訪れるなんて珍しいです。


「何かご用でしょうか?」


彼は手に紙袋を持っていました。


朝食を持ってきてくれたわけではなさそうです。


「用がなければ来てはいけないのか?

 いや違う……用があるから来たんだ。

 先触れを出さずに来てしまって、すまない……」


王太子殿下が伏し目がちに、照れくさそうにそう言いました。


「どうぞお気になさらないでください。

 あなたは王太子。

 この城のどこへでも自由に入る権限があります。

 離宮を訪れるのに先触れを出す必要はありません」


フェルのこともあるので、本当は先触れを出してから来てほしかったのですが、そんなことは言えません。


「立ち話も何ですから、中へどうぞ」


私は殿下を離宮に招き入れました。


フェルはぐっすり寝ていましたし、殿下をリビングにお通ししても問題ないでしょう。


フェルが起きるまでには帰ってくれるでしょうから。



 ◇◇◇◇◇



「どうぞ」


私はお茶と茹でたじゃがいもを殿下に出しました。


本当はお菓子を出したかったのですが、あいにく離宮にはお菓子の類はないのです。


果樹園の木が大きく育ったら、アップルパイや桃のタルトを作りたいです。


「このようなものしかお出しできず、申し訳ありません」


「いや嬉しい。

 ここで茹でたじゃがいもを食べたかったんだ」


殿下は嬉しそうに、じゃがいもにお塩を振って召し上がっていました。


庭で育てたじゃがいもは、宮殿にも届けています。


当然王太子殿下の元にも届いてると思うのですが……。


離宮でじゃがいもを食べることに、特別な意味があるのでしょうか?


殿下のほっぺたにじゃがいもがついていました。


案外、可愛らしいとこもあるんですね。


「ところで殿下、本日のご用件は?」


急かすようで申し訳ないのですが、あまりゆっくりしているとフェルが起きてきてしまいます。


フェルには王太子殿下が離宮に来たことを教えていません。


彼が姿を消さずに、寝室から出てくる可能性があります。


「そんなに急かすことはないだろう?」


彼は少し頬を膨らませ、不満そうに言いました。


お忙しい王太子殿下が、お飾り妻の私に何の用なのでしょう?


できれば、早く用件を聞いてお帰りいただきたいです。


「それとも、このあと予定でもあるのか?」


「いえ特には」


フェルのことを話せないので、無難に受け答えしかできません。


「今日は君に……プ、プレゼントを持ってきた……」


彼は頬を赤らめ、伏し目がちに言いました。


最後の方は小さい声だったのでよく聞こえませんでした。


「殿下、今なんとおっしゃいましたか?」


「き、君に贈り物があると言ったんだ!」


彼は私を見据え、そうおっしゃいました。


王太子殿下が私に贈り物……?


「もしかして珍しい植物の種ですか?

 果物の種だったら嬉しいのですが!」


見たことのない果物の種だったら、フェルはきっと喜ぶわ。


「君はそんなに植物が好きなのか……?

 果物の種については、今度侍従長に相談しておく」


「はい、よろしくお願いします」


本でしか見たことありませんが、スイカや苺などの畑に実る植物もあるのよね。


ぜひ、育ててみたいです!


きっとそれらは、木に実る植物より成長が早いはず。


「果物が毎日食べられるのだ」と言って、フェルがはしゃぐ姿が目に浮かびます。


「残念だが、今日のプレゼントは種ではない」


「そうですか」


では、一体何をくださるのでしょうか?


「その紙袋の中を開けてみるといい」


王太子殿下は、テーブルの上に置いた紙袋を指さしました。


その紙袋は、ここに来る時に彼が持っていたものでした。


一体何が入っているのでしょうか?


大量の洗濯物とか、繕い物とか、そういった類のものでしょうか?


少しの不安と期待を持って、私は紙袋を開けました。




※中編を大幅に改稿し長編化しました。2025年1月20日


読んで下さりありがとうございます。

少しでも、面白い、続きが気になる、思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。執筆の励みになります。




【書籍化のお知らせ】

この度、下記作品が書籍化されることになりました。

「彼女を愛することはない 王太子に婚約破棄された私の嫁ぎ先は呪われた王兄殿下が暮らす北の森でした」

著者 / まほりろ

イラスト / 晴

販売元 / レジーナブックス

発売日 / 2025年01月31日

販売形態 / 電子書籍、紙の書籍両方 

こちらもよろしくお願いします。



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