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24話「初めての雑貨店。デート気分の王太子とそれに気づかないアリアベルタ」



クレアさんが教えてくれたお店は、すぐに見つかりました。


街の一角にある大きな雑貨店でした。


雨覆いのついた大きな出入り口があり、お店の前にキャンドルが詰まった樽や、糸や布が詰まった樽が置かれていました。


これも売り物でしょうか?


窓ガラスの向こうには、陶器製の食器や調理器具やキャンドルホルダーなどが美しく配置されていました。


これが雑貨店というものなのですね。


「ぼーっと眺めていないで、入るぞ」


王太子殿下に言われ、ハッと我に返りました。


雑貨店の前に来ただけで、こんなに興奮していてはいけませんね。


私の目的はお塩を買って、炊き出しに届けることなのですから。


お店の中に一歩入ると、食器や銅鍋や鉄製のフライパンや調理器具などが、配置されているのが目に入りました。


棚の上には、鏡や櫛、花瓶や手編みの籠や羽のついたペンやインクボトルなどが見やすく並べられていました。


色とりどりのテーブルクロスが、丸められて樽に入っています。


お皿には、香辛料や豆が山盛りにされていました。


瓶詰めのナッツなども置いてありました。


素敵です!


いくらでも眺めていられます!


名前すらわからない商品もあります!


今日一日、ここにいたいです!


「店主、塩を一キロほどくれ。

 布製の袋に入れろ」


王太子殿下が、カウンターの向こうにいるおじさんに注文していました。


もう少しゆっくり店内を見たかったんですが……。


私がしょんぼりしていると、彼が声をかけてきました。


「君が……そのもし………欲しいものがあるなら、言うといい……」


「はい?」


殿下はボソボソ話してるのでよく聞こえません。


「欲しいものがあるなら言え、買ってやる」


彼は大きな声でそう告げると、私から視線を逸しました。


もしかして、私がお店の中をキョロキョロと見回していたから、気を使ってくれたのでしょうか?


「女性なら欲しいものがあるだろう? 鏡とか櫛とかアクセサリーとか……?」


鏡や櫛は離宮の鏡台に備え付けてありました。それで十分です。


農作業する時に、アクセサリーを身につけても仕方ありませんし……。


いざ何か欲しいかと聞かれると、困ってしまいます。


お買い物などしたことがありません。


フェルにお土産を買って行こうかしら?


彼にはお留守番をさせてしまったから、そのくらいお詫びをしたいわ。


ここにあるもので、フェルが欲しがりそうなものは……。


「私、杏が欲しいです」


「杏……?」


「確か杏は今頃収穫されると聞きました。

 果実が無ければ種でも構いません」


「なぜ、そのようなものが欲しいんだ?」


王太子殿下は困惑しているようでした。


「杏の実は、ジャムにしたり、シロップ漬けにしたり、コンポートにしたり、乾燥させてドライフルーツにしたり、色々と使い道があります。

 種からはオイルも取れますし、捨てるところがありません。

 一度、育ててみたいと思っていたのです」


お母様から杏の話を聞いたときから、ずっと欲しいと思っていました。


ですが、祖国にいた時私のご飯に杏が出ることはありませんでした。


「雑貨店でも植物の話か……。

 分かった店主に聞いてみる」


「ありがとうございます」


杏の実か種が手に入れば、離宮の庭に埋めることができます。


フェルの力を借りれば半年後に大きな木に育ち、杏が収穫できることでしょう。


収穫した杏をジャムやシロップ漬けにしたら、きっとフェルが喜ぶわ。


「店主、杏はあるか?」


「残念ですが杏の実はありません。

 虫の被害が深刻でして。

 ですが種ならいくつか用意できます」


「種でも構わん、全部くれ」


「毎度ありがとうございます」


王太子殿下は、お塩の入った布製の袋と、杏の種が入った袋を店主から受け取っていました。


「君が欲しかったものだ」


殿下は、私に杏の種が入った袋を手渡しました。


「ありがとうございます。

 嬉しいです」


長年欲しかったものが手に入り、私の顔は自然と綻んでいました。


「可愛い……!

 彼女の自然な笑顔はこんなにもキュートなのか……?

 天使じゃないか……!?」


殿下は頬を染め、独り言を呟いておりました。


彼は独り言が多いです。


杏の種を持って帰ったら、きっとフェルが喜ぶわ。


私は袋を握りしめ、お土産を受け取ったときのフェルの笑顔を想像し、店を後にしました。


お塩の袋は、王太子殿下が持ってくれました。


「王太子殿下に荷物を持たせるわけには参りません。

 塩の袋も私が持ちます」


「君だって王太子妃だろ?

 俺だって、女性の君に塩の袋を持たせるわけにはいかない。

 鍛えているから、このぐらい平気だ」


殿下はそう言って、ずんずんと歩いて行きます。


私は置いていかれないように、彼の後を走って追いかけました。




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