17話「じゃが塩ほふほふ!」
そんなことをしていたので、朝食の時間がかなり遅くなってしまいました。
私は作業着からメイド服に着替えました。
このあと、じゃがいもの調理をしなくてはならないので、先に着替えを済ませておきました。
シェフが精魂込めて作ってくれた料理です。
残したら罰が当たります。冷めてもしっかりいただきましょう。
今日の朝食はスクランブルエッグと、かぼちゃのスープとふかふかの白パンでした。
「シェフの方、温かいうちに食べられなくてごめんなさい。
残さず食べるから許して下さい」
そう謝ってから、フェルと一緒に美味しくいただきました。
私達が食事をしている間、クレアさんにはじゃがいもを洗っていてもらいました。
クレアさん一人にやらせてすみません。
ご飯を食べ終わったら、私も作業に加わります。
朝食を食べ終えた私は、クレアさんと二人でじゃがいもを洗いました。
洗ったじゃがいもを大鍋に入れて茹でました。
フェルが、私とクレアさんに体力の上がる魔法をかけてくれたので、バリバリ働けます。
茹で終えたじゃがいものうちのいくつかを、クレアさんに気づかれないように、こっそりと皿に乗せフェルに渡しました。
フェルのおかげでじゃがいもが収穫できたので、彼に一番に食べてもらいたかったのです。
フェルは「ありがとうなのだ!」と言ってじゃがいもを受け取ると、口いっぱいにじゃがいもを放り込んでいました。
「アリーと一緒に育てたじゃがいもは、最高に美味しいのだ!」
フェルは、熱々のじゃがいもをほふほふしながら頬張っています。
彼の笑顔を見ると幸せな気持ちになります。
食事中のフェルが見つからないように、クレアさんの注意を逸しましょう。
彼女にもじゃがいもを食べてもらいましょう。
フェルの育てたじゃがいもは天下一品なので、他のことなど気にならなくなるはずです。
「クレアさんも、お一ついかがですか?
茹でたてのじゃがいもは美味しいですよ」
「えっ? わたしがいただいてもよろしいのですか?」
クレアさんは目をパチクリさせていました。
「ぜひ、味見してほしいのです」
私はにっこりと笑って答えました。
「私は、このお城に来て日が浅いです。
その上、お城での評判も良くありません。
そんな私が作ったじゃがいもを、お城の人が食べてくれるか心配なのです」
裏があると疑われて食べてもらえないかもしれません。
それでは育てたじゃがいもに申し訳がありません。
「ですがクレアさんが先にじゃがいもを食べて、
『美味しい』と太鼓判を押してくれたら、お城の皆さんも安心して食べてくれると思うんです」
「そういうことでしたら喜んで、味見しますわ!」
クレアさんはじゃがいもを一つお皿に取ると、お塩を一振りして、口に入れました。
「はふはふっ……!
こっ、これは……!
い、今まで食べたどのじゃがいもより美味しいです!
じゃがいもの革命です!
じゃがいも界の王様です!」
クレアさんは嬉しそうにじゃがいもを頬張っていました。
そこまで、褒められると、照れくさくなる。
「じゃがいもを配ったら、お城の皆さんも喜んでくれるでしょうか?」
「絶対に喜びます!
王太子妃様が愛情を込めて育てたじゃがいもを、食べないと言う不届き者がいたら、わたしが無理やり口に詰め込んでやります!」
クレアさんが、仲間になってくれたので心強いです。
「私は引き続き、離宮のキッチンでじゃがいもを茹でます。
クレアさんは、茹で上がったじゃがいもを使用人の方々に配っていただけますか?
お昼時なので、食堂で出すのも良いかもしれませんね」
本当は使用人の方々を離宮に呼べればいいのですが。
王太子殿下のいない時に、沢山の使用人を離宮に呼ぶのは不味い気がします。
何か企んでいるのではと、疑われても面倒です。
それにそんなに大勢の人のなかでは、フェルは姿を消していても、息もつけないでしょう。
「王太子妃様が精魂込めて作られたじゃがいもです!
命に代えても食堂に届けます!」
クレアさんは張り切っていました。
いえ、命はかけなくていいですから。
クレアさんは、食事用のワゴンに茹でたじゃがいもをたくさん乗せて、宮殿に戻っていきました。
フェルの体力を上げる魔法が、クレアさんには効きすぎたのかもしれません。
◇◇◇◇◇
しばらくして宮殿から、
「じゃがいもの革命だ〜〜!!」
「いくらでも食べられる〜〜!!」
「ほっぺが落ちる〜〜!!」
という叫び声が聞こえてきました。
フェルの育てたじゃがいもは大好評だったようです。
その叫び声を聞いたフェルは、「当然なのだ!」と言って得意気な顔をしていました。